1. SCID-X1乳児のレンチウイルスベクター遺伝子治療に進展
[出典] "Lentiviral Gene Therapy Combined with Low-Dose Busulfan in Infants with SCID-X1" Mamcarz E et al. N Engl J Med. 2019-04-18.;治験 NCT01512888 "Gene Transfer for X-Linked Severe Combined Immunodeficiency in Newly Diagnosed Infants (LVXSCID-ND)";NEWS "Gene therapy restores immunity in infants with rare immunodeficiency disease" EurekAlert! 2019-04-17;NEWS "Gene therapy works for bubble boy disease" Kaiser J. Science. 2019-04-19;NEWS  "Experimental gene therapy frees ‘bubble-boy’ babies from a life of isolation" Treatment restores immune-system function in young children with severe disorder. Ledford H. Nature 2019-04-17. 

 X連鎖遺伝病の一種であるオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症患者のJesee Gelsingerは、ペンシルベニア大学の遺伝子治療治験に参加し、1999年9 月13日にアデノウイルスベクターによる遺伝子治療を受けたところ、同月18日に多臓器不全から脳死に至った (Wikipediaから一部を翻訳引用)。その後、長い遺伝子治療研究の停滞期を経て、近年、ウイルスベクターを介した遺伝子導入による遺伝子治療が復活しつつあった (遺伝子治療の動向に関するcrisp_bio記事:2018-08-21 米国、遺伝子治療の進展に向けた環境整備)。
  • 2019年4月18日に、X連鎖重症複合免疫不全症 (X-SCID)の乳幼児に対するウイルスベクターによる遺伝子治療が効果を示し、日常生活を送る*ことも可能になりつつあるとする報告がNew England Journal of Medicineから刊行された (* 1970年代にプラスチックなどで閉鎖された無菌空間で10数年にわたり成長した幼児を"bubble boyと呼ぶ)。
  • St. Jude Children’s Research HospitalのE. Mamcarzらは今回、2-14ヶ月で骨髄移植に適合した兄弟姉妹が存在しない乳幼児8名を対象とする第1/2相試験を行なった (試験開始日は2016年8月17日)。
  • 低用量の抗がん剤ブスルファンを投与した患者由来の骨髄幹細胞に、レンチウイルスベクターを利用して正常なIL2RG遺伝子を補充した。この骨髄幹細胞を自家投与してから3~4ヶ月で免疫システムが回復し始め、機能性T細胞とB細胞の再構成とNK細胞数が正常化するに至った。また、4名は免疫グロブリン静注が不要となり、そのうち3名は、ワクチンに応答して抗体を生産し始めた。急性毒性は低レベルであり、8名全員がこれまでの2年間白血病を発症していない。なお、8名のうち1名のT細胞数が少なかったが、骨髄幹細胞を2回投与後、回復を見せた。
  • 関連する治験 NCT01306019:2~20歳のS-SCID患者を対象とする"Lentiviral Gene Transfer for Treatment of Children Older Than Two Years of Age With X-Linked Severe Combined Immunodeficiency (XSCID)" National Institute of Allergy and Infectious Diseaseが実施;"Lentiviral hematopoietic stem cell gene therapy for X-linked severe combined immunodeficiency" De Ravin SS [..] Malech HL. Sci Transliterates Med. 2016-04-20.
2. 長期造血幹細胞においてSCID-X1変異遺伝子を機能的に修復
[出典] "Gene correction for SCID-X1 in long-term hematopoietic stem cells" Pavel-Dinu M [..] Porteus MH. Nat Commun. 2019-04-09;NEWS "CRISPR yields new potential "bubble boy" gene therapy"  Armitage H. Stanford Medicine SCOPE. 2019-04-10.

 ヒト長期造血幹細胞 ( long-term hematopoietic stem cells: LT-HSC)における遺伝子修正は、血液系と免疫系の単一遺伝子疾患の効果的治療法に足り得る。SCID-X1の遺伝子治療として、正常に機能する IL2RG遺伝子を患者由来のCD34陽性HSPCsへアデノウイルスベクター、γ-レトロウイルス、つづいてレンチウイルスでセミランダムに導入する試みがなされ一定の効果を示した。また、第1世代で死亡事故を引き起こした重篤な副作用も、第2世代以後、軽減されつつあるが、新世代のウイルスベクターの長期的な毒性は10年以上、見ていく必要がある。T細胞の形質転換が表出するまでには10年以上を要するとされているからである。
  • スタンフォード大学のM. H. Proteusが率いる研究グループは、セミランダムなcDNAの導入に替えて、CRISPR-Cas9によるcDNAの遺伝子ターゲッティングを試みた。すなわち、Cas9-sgRNAのRNPをrAAV6にて送達することで、SCID-X1の患者由来細胞に内在する変異遺伝子座の開始コドンへのIL2RGのcDNAノックインを試みた (Fig. 1引用下図の中央部のIL2RG genomc sequence以下の図参照)。X-SCID 1
  • その結果、病因変異IL2RGを機能的に修復することに成功しこれを“functional gene correction” と称した (病因変異そのものを正常型に修正したわけではないため)。健常者13名とSCID-X1患者6名のCD34陽性HSPCsに対する標的ノックインの中央値はいずれも45%であった。なお、IL2RG欠損 (SCID-X1患者の2~3%)の機能的修復は不可能である。
  • さらに、免疫不全 (NGS)マウスに移植したノックイン細胞*がB細胞、T細胞そしてNK細胞へと分化し、免疫システムが再構築されることも確認した (* Fig. 2引用下図参照)。X-SCID 2
  • NGSと核型解析からは、遺伝毒性は見られなかった。