[出典] "Generation of conditional auxin-inducible degron (AID) cells and tight control of degron-fused proteins using the degradation inhibitor auxinole" Yesbolatova A, Natsume T, Hayashi KI, Kanemaki MT.  bioRxiv. 2019-01-26

これまで
  • 遺伝研の鐘巻と夏目らは植物におけるタンパク質分解機構に倣って、2009年にオーキシンを介して15-45分でタンパク質を分解する技術 (Auxin-Inducible Degron, AID)を開発し、2016年にはCRISPR/Cas9 HDR過程を利用して標的遺伝子のC末端に7-kDと小型のAID (mini-AID/mAID)タグをノックインすることでヒトHCT116細胞とマウスES細胞におけるタンパク質高速分解を実現した (crisp_bio記事 2017-06-11 CRISPR/Cas9とAID(オーキシン依存蛋白質分解)技術により必須タンパク質の機能を解明 )。
  • ヒト細胞に内在するSCF (Skp1–Cullin–F-box)と結合してE3ユビキチンリガーゼを形成するOryza sativa由来のTIR1 (OsTIR1)を発現させた細胞において、mAIDタグを帯びたタンパク質は、IAAまたはNAAといったオーキシン添加によるAIDとOsTOR1の結合を介して、E3ユビキチンリガーゼひいてはE2ユビキチン結合酵素によってポリユビチキン化され、ユビキチンプロテアソーム系へ誘導され分解される。
  • CRISPR/mini-AID技術は発表以来、ヒトからトキソプラズマ原虫まで多様な生物に、また、染色体構造の解析をはじめとする多様な解析に、活用されてきたが、オーキシン(IAA) 添加前でもmAID標識タンパク質の発現が低下する“basal degradation”の課題を伴っていた。“basal degradation”は、ウシ胎児血清や培地に含まれるオーキシン様化合物に起因すると思われる。
タギング拡張とシャープな制御
  • 研究チームは“basal degradation”を、TIR1のIAA結合ポケットに結合するTIR1アンタゴニスト分子、auxinole (ACS Chem Biol, 2012)、を添加することで解決した。
  • 標的タンパク質のN末端またはC末端にmAIDまたはその他のタグをノックインするプラスミド(Addgene; NBRP)を確立し、ヒト結腸癌由来HCT116細胞とDLD1細胞において実験を進めた。
  • HCT116細胞において、mAIDで標識したダイニン重鎖1 (DHC1)タンパク質をモデルとして、培地にauxinoleを添加することで“basal degradation”がほぼ解消し、培地をauxinoleを含まない培地に交換するとDHC1-mADの分解が始まり、4時間でほとんど分解することを確認した。また、auxinoleが細胞増殖や細胞周期に影響を与えないことを確認した。
  • さらに、IAA添加によるタンパク質分解が進行した後にIAAを除去しても、IAAが結合したOsTIR1が残存するために、タンパク質分解がすぐには止まらないが、auxinoleを添加することで標的タンパク質の発現が迅速に回復することを、コヒーシンサブユニットのRAD21をモデルとする実験で、実証した。
  • オーキシンとauxinoleを組み合わせることで、生細胞における内在タンパク質の機能解析の適応範囲が大きく広がった。