(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/08/27)
  1. [論文] Cas3により分解された標的DNAの断片が、CRISPR獲得免疫応答のプライミングを燃えさせる
    • Corresponding author: Stan J.J. Brouns (Wageningen U./Delft U. of Technology)
    • プライミング(priming)は予備刺激による免疫システムの賦活化を意味し、脊椎動物、無脊椎動物、植物そして微生物それぞれに特有な機構が存在する。微生物におけるプライミングは、先に遭遇した時点から僅かに変異を起こしたウイルスやプラスミドに対して免疫記憶(CRISPRアレイに組みこまれたスペーサー)を更新することで対抗する機構である。研究チームは微生物の獲得免疫機構のプライミングに関する先行研究に続いて今回、E. coliのタイプI-E CRISPR/Casシステムにおけるプライミングの際に、新たなスペーサーが生成されてCRISPRアレイに組み込まれる機構を明らかにした。
      • 一本鎖DNAを対象とするヌクレアーゼでありかつATP依存ヘリカーゼでもあるCas3が、DNAを分解した際にDNA断片をプロトスペーサー/スペーサーとして提供する。すなわち、Cas3は、CRISPR/Casシステムのintereceのプロセスにもacquisitionのプロセスにも関与。(参考図「CRISPR/Casシステムの獲得免疫機構と分類」参照)
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      • Cas3のDNA切断の際に長さがおよそ30〜100 ntで3’末端がチミンでエンリッチされた断片を生成する。
      • この断片をCas1-2複合体がタイプI-EシステムのPAMsに整合する断片を選択してCRISPRアレイに組み込む。
      • 先にCRISPRアレイに組み込まれていたスペーサーによって十分な免疫応答が誘導される場合は、プライミングは稀である。ウイルスやプラスミドの変異が進行し既存のスペーサーによる免疫応答が不十分な場合に、プライミングが促進される。
  2. [論文] 抗生物質耐性とCRISPR/Casとの相関:カルバペネム系抗菌剤Imipenemが転写抑制因子を刺激して、Klebsiella pneumoniae のCRISPR/Cas免疫応答を抑制する
    • Corresponding author: Jin-Town Wang (National Taiwan University Hospital)
    • 微生物の抗生物質耐性は、往々にして、プラスミドを含む可動性遺伝因子上の耐性遺伝子の獲得に依存している。一方で、微生物にはプラスミドを排除するCRISPR/Casシステムが存在する。薬剤耐性とCRISPR/Casシステムの相関については2010年に相反する報告がなされている。
      • Enterococcus faecalis 48株:CRISPR/Cas遺伝子座と抗生物質耐性の獲得が明確に逆相関;多剤耐性菌にはCRISPR/Cas遺伝子座が存在しない。(Palmer & Gilmore, 2010
      • ヒトと動物から分離したEscherichia coli 263株:cas 遺伝子と抗生物質耐性とは相関せず(Touchon et al/, 2012)。
    • 研究チームは今回、Klebsiella pneumoniae NTUH-K2044におけるCRISPR/Casとカルバペネム系抗生物質イミペネム(Imipenem)に対する耐性獲得の相関関係を分析した。
      • NTUH-K2044のゲノム上には一連のCasタンパク質遺伝子を挟んで2種類のCRISPRアレイ(CRISPR1とCRISPR2)が存在
      • CRISPR/Casの存在とイミペネム耐性は逆相関していた(CRISPR/Casが存在した割合:イミペネム耐性株 5/85;イミペネム感受性株 22/132)
      • E. coliにおいてCRISR/Casの発現を抑制することが報告されていたDNA結合タンパク質H-NSをコードする遺伝子hns のノックアウトによりプラスミドの形質転換効率が3%へと低下。
      • イミペネムはhns の発現を誘導し、cas3 の発現を低減し、CRISPR/Casの活性を抑制し、プラスミドの安定性を向上。バクテリアは、このイミペネムによるhns の発現誘導を介して、イミペネムに対抗するに必要な薬剤耐性DNAの獲得可能性を広げている可能性がある。
  3. [論文] ヒトSIRPαを発現するBACトランスジェニック・ラットの作出
    • Corresponding authors: Pieter J. de Jong (Children’s Hospital Oakland Research Inst.); Ignacio Anegon (Platform Rat Transgenesis Immunophenomic, SFR Francois Bonamy)
    • BAC(大腸菌人工染色体)を利用したトランスジェニック動物は、ヒトの遺伝子発現の再現や疾患モデリングに有用であるが、BACトランスジェニック・ラットの作出は困難であった。今回、ヒトSIRPA BACトランスジェニック・ラットの作出に成功した。SIRPαsignal regulatoru protein α)は、マクロファージの表面に表出してシグナルを制御するタンパク質の一種である。
    • BACをゲノムに導入するにあたり3種類のゲノム編集技術、piggyBac トランスポゾン、CRISPR/Cas9、およびTALEN、を試みた。
    • piggyBac を利用して作出したBACトランスジェニック・ラットが、CRISPR/Cas9とTALENよりも効率が高く、ヒトCD47と相互作用するヒトSIRPαを発現。
    • [関連ブログ記事]創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/01/24ラット受精卵において、ゲノム大領域のノックインとヒト遺伝子への置換を実現
  4. [論文] CRISPR/Cas9とCre/LoxPを組み合わせて、isozygous*)で選択マーカーの痕跡が無いミオスタチン・ノックアウト・ブタを作出
    • Corresponding authors: Faming Dong (河南科技大学); Xinmin Zheng (Hubei Inst. Animal Science and Veterinary Medicine) 
      *) "Isozygous means a genotype that is homozugous at all loci " (William I. Gay (ed.) Methods of Animal Experimentation)
    • ブタの初代培養細胞において、ミオスタチン(MSTN)の1アレルをCRISPR/Cas9を介した相同組換え修復にてノックアウトし、続いて、Cre/Lox0技術で選択マーカー遺伝子(selectable marker gene, SMG)を切り出した。
    • ゲノム編集した核移植胚685個を3匹の代理メスに移植し、1匹が出産した2匹のオス子ブタにおいて、モノアレリックのMSTNノックアウトが生じ、SMGが削除されていた。MSTNは50%減となる一方で筋原性遺伝子の発現が増加、筋線維量は増加し筋線維のサイズは変わらず、最長筋のサイズが増大し背脂肪厚は減少。
  5. [論文] CRISPR-PCS: 酵母のゲノム工学を前進させる染色体分断法のバージョンアップ
    • Corresponding author: 原島 俊(崇城大学)
    • 染色体分断法は、任意の部位で染色体を分断し、かつ、機能する染色体断片を獲得する技術である。原島らは大阪大学においてPCR-mediated chromosome splitting(PCS)法を開発し、新たなゲノム工学技術としての可能性を報告していた。研究チームは今回、PCSとCRISPR/Cas9を組み合わせて、高効率で多用途の染色体分断法 CRISPR-PCSを開発した。PCS法は、標的サイトで染色体を切断し、2本の機能する染色体を生成することを可能にしたが、標的サイトが1回あたり1カ所に限定されていた。
    • CRISPR-PCSにおいては、PCSがCRISPR/Cas9によるdsDNAの切断が誘導する相同組換え修復を利用することで、染色体分断の効率が200倍に上り、また、多くのサイトで当時に分断することが可能になった(PCS法では、複数サイトを順次分断してくことが可能であった)。
  6. [論文] リンゴ・ゲノムをCRISPR/Cas9で細工する
    • Corresponding author: 刑部祐里子(徳島大学)
    • 果樹苗のゲノム編集技術は、これまで確立されていなかった。今回、CRISPR/Cas9技術を利用して、リンゴ内在のカロテノイド生合成酵素 phytoene desaturase(PDS)遺伝子への変異導入を実現した。
      • 設計した4種類のgRNAsの中で1種類が、ゲノム編集した苗の31.8%に部分的アルビノ変異の表現型をもたらし、PDS にバイアレリック変異を誘導していた。また、18-bへと短縮したgRNAも変異を誘導した。