(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/09/04)

  1. [論文] テンプレートを利用した二本鎖DNA切断の修復結果を再評価する:CFTRをモデルとして Cas9/gRNAによるDSBからの修復が及ぶ範囲は200bpにも及ぶ可能性がある
    • Corresponding author: Patrick T. Harrison (University College Cork)
    • テンプレート(ドナー)を利用した遺伝子修復において効率を最大限にするために、修復対象の領域内かその近傍に プログラム可能なヌクレアーゼによってDSB(二本鎖DNA切断)を誘導することが行われている。これは、DSBの相同組換え修復が、DSBサイト近傍の狭い範囲で生じるとするされているからである(原論文引用の一例:Elliott et al., 1998)。
    • 研究チームは今回、嚢胞性線維症患者の気管上皮細胞由来CFTR (Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子に起きているホモ型F508del変異の修復をモデルとして、ディープシーケンシングによってDSBの相同組換え修復結果を分析した。
      • CFTRは27エクソンで構成される189 kbの長さの遺伝子である。修復の標的とする216 bpの配列と7か所の塩基を異にするテンプレート(ドナー)を使用し、ドナーに依存する修復が、DSBサイトの上流、下流あるいは双方向に、100 bp以上にわたることを見出した。下流の修復は、F506del変異の原因であるDSBから87 bp下流の3塩基(CTT)欠損にも及んだ(参考図「Figure 2: Schematic representation of DNA repair tract」参照)。

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      • したがって、単一のgRNAで200 bpにおよぶ領域における変異の修復または挿入が可能ということになるが、200 bpとサイズはヒト遺伝子エクソンの~80%をカバーする。
      • ディープシケンシング解析は、相同組換え修復(HDR)が起こった領域にも、非相同末端結合修復(NHEJ)が起こることも示した。これは、HDRによる修復が一旦起こった後に、再び起きたDSBがNHEJによって修復されたと考えられ、ドナーを改変することで対応していく必要がある。
  2. [論文] CRISPR/Casシステムの免疫応答に染色体外可動遺伝要素のコピー数が与える影響
    • Corresponding author: Konstantin Severinov (Skolkovo Inst. Science and Technology/Waksman Inst. Microbiology/Instit. Molecular Genetics(Russia))
    • プラスミドやファージに対するバクテリアの免疫応答機構にはCRISPR interference(以下、Ci)とCRISPR adaptation(以下、Ca)の2種類が存在する。Ciでは、外来DNA中のプロトスペーサーとCRISPRアレイ中のスペーサーが完全に一致した場合に外来DNAが効果的に破壊される。スペーサーとプロトスペーサーが完全に一致しない場合は1塩基のミスマッチでも、Ciによる免疫応答は不全になるが、一方で、外来DNAから新たなスペーサーを獲得してCRISPRアレイに組込む“primed adaptation”によるCaが誘導される。
    • CiとCaは、プロトスペーサーとカスケード (Cascade)の複合体の異なる構造によって機能すると考えられている。
    • 研究チームは今回、実験と数理モデルによって、プラスミドのコピー数とファージゲノムの複製を考慮すると、CiとCaの双方を、同一のカスケード複合体で説明可能なことを示した。
    • [情報拠点注] 関連ニュースウオッチ記事「CRISPR関連文献メモ_2016/08/27 1.[論文] Cas3により分解された標的DNAの断片が、CRISPR獲得免疫応答のプライミングを燃えさせる 」
  3. [Communication] CRISPR-Plus: 光で調節可能なCRISPRツールを開発
    • Corresponding author: Sangeeta N. Bhatia (MIT/Brigham and Women's Hosp./Broad Inst.)
    • CRISPR-Plusは“CRISPR-precise light-mediated unveiling of sgRNAs”からの命名であり、Cas9を改変することなく、光で開裂可能な基を伴うssDNAオリゴヌクレオチドで“ケージド”化したgRNAを利用する手法である。In vitro およびHeLa細胞で実証。
  4. [論文] CRISPR/Cas9ゲノム編集に適応したジェノタイピング法を開発
    • Corresponding author: Stephanie L. Bielas (University of Michigan Medical School)
    • Surveyorアッセイ、T7エンドヌクレアーゼIアッセイ、高解像度融解曲線分析(HRM)、RFLP解析およびPCR産物のサンガー・シーケンシングによる小さな遺伝的変異の検出が試みられてきているが、いずれも一長一短である。
    • 今回、低コストで配列特異的であり、CRISPR/Cas9ゲノム編集の特徴である小さな挿入・欠損および1塩基変異が起きている多くのアレルを精密にタイピング可能とする方法を、Ligation Detection Reaction (LDR)に基づいて開発した。
    • LDRは、配列特異的で、そのサイズおよびまたは蛍光タグによって検出可能な産物を生成する。このジェノタイピングは、数塩基の差異が存在するコロニーの管理にも有用である。
  5. [レビュー] CRISPR/Cas9ゲノム編集の治療への応用
    • Corresponding author: Jin-Soo Kim
    • CRISPR/Cas9技術の臨床応用研究の具体例と課題をレビュー:抗ウイルス療法(ウイルス感染またはウイルス増殖の阻害);病原性バクテリアの除去;疾患病因遺伝子変異の修正;生殖細胞療法(患者由来iPS細胞のゲノム編集;ヒト遺伝病モデル動物の遺伝子治療);
  6. [展望] トランスジェニック霊長類でヒトの脳障害をモデリングする機会と課題
    • Corresponding author: Guoping Feng (Massachusetts Institute of Technology)
    • CRISPR/Casゲノム編集を利用したトランスジェニック動物作成技術とヒト疾患遺伝学の進歩が相まって、霊長類をモデル動物として利用できる可能性が出てきたが、解決しなければならない課題も存在する。
    • Box 1に霊長類の各種遺伝子改変法について機構、事例、長所そして短所が簡潔にまとめられている:レトロウイルス・ベクター;プログラム可能なヌクレアーゼ;NHEJパスウエイ;HDRパスウエイ;将来の可能性(着床前に胚のジェのタイプをスクリーニング;ES/iPS細胞の利用;核移植;体細胞遺伝子ターゲッティング;その他CRISPRツールボックスの活用)
  7. [論文] CRISPR/Cas9を利用した多重遺伝子編集によるヒツジの筋肥大
    • Corresponding authors: Xingxu Huang (南京大学模式動物研究所); Baohua Ma (西北農林科技大学); Yulin Chen (西北農林科技大学)
    • 1細胞期胚にCas9 mRNAと3種類の遺伝子(MSTN;ASIP;BCO2)を標的とするgRNAsをマイクロインジェクションし、個々の遺伝子の編集効率27~33%、および、3遺伝子全ての編集効率5%を達成。
    • MSTN の破壊により筋線維の拡張による望ましい筋肥大が発生
    • マイクロインジェクションをする前に、線維芽細胞でsgRNAsのオフターゲット作用をスクリーニングすることで、ファウンダーにおけるオフターゲット作用を非検出までに抑制。
  8. [論文] NADPHオキシダーゼの必須コンポーネントp22phoxノックアウトの効果
    • Corresponding author: Ralf P. Brandes (Goethe-Universität/DZHK)
    • NADPHオキシダーゼ(NADPH oxidase; Nox)ファミリーに属するNox1からNox5までの分子の中で、Nox1~Nox4の活性は、小型の膜タンパク質p22phoxに依存すると考えられている。今回、CRISPR/Cas9を利用してHEK293細胞においてp22phoxの遺伝子(CYBA)をノックアウトし、それによってNox1とNox4の活性が失われる一方で、Nox5の活性は失われないことを見出した。
  9. [論文] プリンデノボ合成経路における酵素の不全と中間体蓄積
    • Corresponding author: Marie Zikánová (Charles University in Prague)
    • プリンのデノボ合成(de novo synthesis, DNPS)は、6種類の酵素が触媒する10段階の反応である。プリン合成に関わる疾患研究のためのモデル作出を目指して、HeLa 細胞においてCRISPR/Cas9を利用して各酵素に既知または推定変異を導入した。
    • CRISPR/Cas9で編集したHeLa細胞ではpurinosomeが形成されず、変異酵素の脱リン酸化された基質が蓄積された。
  10. [論文] CRISPR技術を利用してメバロン酸経路を調節しテルペノイド産生を亢進
    • Corresponding authors: Dae-Hee Lee; Seung-Goo Lee (KRIBB/UST)
    • CRISPRiシステムによって、メバロン酸(MVA)経路の全遺伝子の発現を調節し、MVA経路の第1段階を触媒するアセトアセチル‐CoAチオラーゼの転写を阻害し、テルペノイド生産に応用。
  11. [論文] CRISPR/Cas9 DNAまたはRNAの一時的発現による小麦の遺伝子組換え
    • Corresponding author: Caixia Gao (Inst. Genetics and Developmental Biology)
    • CRISPR/Cas9のDNA(プラスミド・コンストクト)またはRNA(in vitro 合成転写物)を、パーティクル・ガン法でカルスに導入し、一時的に発現させることで、T0世代で外来遺伝子を含まないホモ変異体を高効率で作出。六倍体パン小麦と四倍体デュラム小麦で実証。
  1.  論文→Jennifer A. Hollywood et al. “Analysis of gene repair tracts from Cas9/gRNA double-stranded breaks in the human CFTR gene.” Sci. Rep. 2016 Aug 25;6:32230.
  2. 論文→Konstantin Severinov, Iaroslav Ispolatov & Ekaterina Semenova. “The Influence of Copy-Number of Targeted Extrachromosomal Genetic Elements on the Outcome of CRISPR-Cas Defense.” Front. Mol. Biosci. Published online 2016 August 31.
  3. Communication→Piyush K. Jain et al. “Development of Light-Activated CRISPR Using Guide RNAs with Photocleavable Protectors.” Angew. Chem. Int. Ed. Engl. First published 2016 August 24.
  4. 論文→R. KC et al. “Detection of nucleotide-specific CRISPR/Cas9 modified alleles using multiplex ligation detection.” Sci. Rep. 2016 Aug 25;6:32048.
  5. レビュー→Taeyoung Koo & Jin-Soo Kim. “Therapeutic applications of CRISPR RNA-guided genome editing.” Brief. Funct. Genomics. Published online 2016 Aug 25.
  6. 展望→Charles G. Jennings et al. “Opportunities and challenges in modeling human brain disorders in transgenic primates.” Nat. Neurosci. 2016 Aug 26;19(9):1123-30.
  7. 論文→Xiaolong Wang et al. “Multiplex gene editing via CRISPR/Cas9 exhibits desirable muscle hypertrophy without detectable off-target effects in sheep.” Sci. Rep. 2016 Aug 26;6:32271.
  8. 論文→Kim-Kristin Prior et al. “ CRISPR/Cas9-mediated knockout of p22phox leads to loss of Nox1 and Nox4, but not Nox5 activity.” Redox Biology. Available online 2016 August 24.
  9. 論文→Veronika Baresova et al. “CRISPR-Cas9 induced mutations along de novo purine synthesis in HeLa cells result in accumulation of individual enzyme substrates and affect purinosome formation.” Mol. Genet. Metab. Available online 2016 August 24.
  10. 論文→Seong Keun Kim et al. “CRISPR interference-guided balancing of a biosynthetic mevalonate pathway increases terpenoid production.” Metab. Eng. Available online 2016 August 26.
  11. 論文→Yi Zhang et al. “Efficient and transgene-free genome editing in wheat through transient expression of CRISPR/Cas9 DNA or RNA.” Nat. Commun. 2016 Aug 25;7:12617.