(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/09/08)CRISPR関連文献メモ_2016/09/08
  • Corresponding author: Frank Buchholz (TU Dresden)
  • 全ゲノムシーンシング(WGS)によって癌細胞から多くの変異が同定され、WGSが精密医療のツールになりつつあるが、同定された変異の腫瘍形成への関与とその機序を明らかにする機能アノテーションの歩みは遅い。研究チームは今回、CRISPR/Cas9技術を利用した癌細胞変異の機能アノテーションを試みた。
    • はじめに、CRISPR/Cas9システムの標的と為し得る腫瘍変異の規模をバイオインマティクスで見積もった。Kandothら(Nature, 2013)が、TCGAデータベースの12種類の腫瘍に由来する3,281サンプルのデータから抽出した点変異と短い挿入/欠失のユニークな変異は608,671種類であるが、その554,069種類の腫瘍変異を1,909,172 sgRNAsを用意することで遺伝子編集可能と算定された。
    • また、20,948変異遺伝子のうち20,756を標的とすることが可能と算定された。さらにオフターゲット作用を回避するなどの最適化を経て、既知の癌ドライバー変異10,349を含む535,327(88.0%)の変異の編集を可能とする1,701,813sgRNAsを選定した。
    • 続いて、Cas9によるDNA切断がGFPの発現を活性化する“traffic-light reporter system(以下、TLRS)”を開発し、腫瘍変異を標的とする高効率かつ高選択性なsgRNAsを同定した。TLRSから得られる活性スコアとsgRNAの実際の活性は全般的に相関したが、sgRNAsの中には活性スコアが同レベルであるが実際の切断活性は異なるものがいくつか存在したことから、TLRSで選定したsgRNAsについてその活性を実験検証することが望ましい(ヌクレオソームによるCas9の活性阻害が影響している可能性が有るなど、アルゴリズムの改良が必要である)。
    • 一方で、選定したsgRNAは、1塩基変異を検出する感度を示した。
    • [具体例] 
      選定したsgRNAsにより、AML患者の30%に起きているヌクレオフォスミン遺伝子NPM1 の腫瘍変異と大腸癌細胞株RKOにおけるBRAF c.1799T > A 変異が、それぞれの腫瘍細胞の増殖に必須であることを確定した。また、ヌクレオフォスミン遺伝子腫瘍変異については、ヘテロ型でありsgRNAによって野生型へと修復されることを見出した。この効果は、DNAリガーゼⅣ阻害剤SCR7によるNHEJを抑制することで高まることから、野生型のDNAを利用した相同組換え修復機構を介して遺伝子ドライブが起こったとみられる。
  • 今回、既報告の癌変異の88%を標的とすることが可能なsgRNAsのライブラリーに基づくCRISPR/Cas9ゲノム編集を行ったが、spCas9と直交するCRISPR/CasシステムおよびまたはCas9を改変したシステムを併用することで、 標的可能な癌変異の範囲を広げることが可能である。
  • 本手法にはsgRNAに対する耐性の問題やオフターゲット編集の問題が内在してはいるが、患者由来初代細胞の解析、さらに、個別化医療への展開も期待できる。CRISPR/Cas9システムを、発生した癌変異を除去あるいは修復する”cancer mutation immune system”たらしめることも不可能ではない。