1. [論文] 細胞内シグナル伝達系の改変:腫瘍増殖・形成シグナルを腫瘍抑制・細胞死シグナルへ変換する
    • Corresponding authors: Weiren Huang; Zhiming Cai (State Engineering Laboratory of Medical Key Technologies Application of Synthetic Biology, Shenzhen Second People's Hospital, the First Affiliated Hospital of Shenzhen U.)
    • 細胞内のシグナル伝達を人工的に制御するには、シグナルを認識・処理し、然るべきシグナルを出力する「素子」が必要である。研究チームは今回、dCas9またはdCas9-VP64のsgRNAsに、特定のシグナルに応答するアプタマーからなる人工リボスイッチを組み込むことで、細胞外または細胞内からのシグナルに応答して内在遺伝子の転写を調節する素子‘signal conductor’を開発した。
    • この素子によって、AND/OR/NOTといった基本的なブール論理ゲート(Boolean logic gates)を構築し、マウス細胞において、遺伝子回路を多重に重ねることなくシグナルの論理演算を実現し、細胞内シグナル伝達系を ‘つなぎ変える’ことも可能にした。
      • 腫瘍の増殖を促進するシグナルを、‘signal conductor’を介して、腫瘍抑制遺伝子の転写活性化シグナルへと変換することで、癌細胞の増殖を抑止し、また、腫瘍形成のシグナルを細胞死誘導シグナルに変換することで、腫瘍縮小を実現した。
  2. [レビュー] CRISPR技術の応用、研究の先にあるもの
    • Corresponding authors: Rodolphe Barrangou; Jennifer A. Doudna
    • [アブストラクト] CRISPR/Cas9は、1細胞および生物個体における効率的でサイト選択的なゲノム工学を実現した。研究の世界では、転写調節、エピゲノム修飾、ゲノムワイド・スクリーン、および染色体可視化などと、幅広く活用されている。CRISPRシステムは、動物においてはすでに遺伝性疾患を緩和することが実証され、近く、ヒトの眼や血液の疾患治療の治験が始まるであろう。中国と米国ではCRISPR/Cas9による癌を標的とした2件の治験が始めっている。こうした医学生物学への応用に加えて、穀物や家畜の改良、抗菌剤の開発、および遺伝子ドライブによる病害虫制御への利用も始まっている。
    • [構成] CRISPRシステム・ツールボックスの拡張;ゲノムワイド・スクリーン;疾患モデルの開発 - 細胞モデルから動物モデルまで;細胞療法への利用と課題;抗菌剤と抗ウイルス剤の開発;農業への応用;食品産業とバイオテクノロジー産業における応用;遺伝子ドライブによる病害虫制御;結論
    • [BOXと図] CRISPR入門;CRISPR/Cas9免疫システムの機構;CRISPR/Cas9で翅のパターンを改変した蝶;論文数、およびAddgeneにおけるCRISPRコンストラクトの登録・提供数/登録研究室数/提供先国の数の年変動;Cas9の多様性;CRISPR/Cas9の応用(削除、挿入、ノックアウト、転写活性化、転写抑制、融合タンパク質の送達、可視化、エピジェネティック改変)
  3. [レビュー] CRISPRゲノム工学(Genome Engineering)の細胞生物学への応用
    • Corresponding author: Lei S. Qi (Stanford University)
    • [構成] DNA修復パスウエイからCRISPR/Cas9によるゲノム編集へ;RNAをガイドとするゲノム編集CRISPRツールキットの拡張;細胞生物学への応用(転写調節;エピジェネティク調節;大規模機能ゲノミクス;動物モデル作出;ゲノムの可視化;細胞系譜の追跡);結論
    • [図表] ゲノム工学の多様な達成目標の概念図;細胞生物学への応用7分野の概念図;細胞生物学への応用事例の一覧表と図(細胞内小器官別)
  4. [論文] CRISPRスクリーンによってノロウイルスに対する宿主細胞のタンパク質様(proteinaceous)受容体を同定
    • Corresponding author: Herbert W. Virgin (Washington University School of Medicine)
    • 研究チームはCRISPR/Cas9によるゲノムワイド・スクリーンによって、マウスノロウイルス(MNoV)の感染に必須の宿主因子としてタンパク質様受容体CD300lfを初めて同定した。
      • マウスの細胞株と初代細胞において、CD300lfがMNoVの結合と複製に必須であった。
      • Cd300lf-/-マウスはMNoV感染に対して抵抗性を示した。
      • ヒト細胞においてCD300lfを発現させると、種の壁を超えて、MNoVの複製が起こった(NoVの細胞内複製に必要なCD300lf以外のコンポーネントは、マウスとヒトの間で保存されている)。
      • CD300lfの結晶構造(*)解析から、その細胞外ドメインにMNoV感染に必須の残基で形成されるリガンド結合のクレフトが見られた。 
        (*)5FFL: Crystal structure of mouse CD300lf at 1.6 Angstroms resolution.
  5. [論文] 藍藻シネコシスティスにおけるCas6によるcrRNAs形成機構
    • Corresponding authors: Rolf BackofenWolfgang R. Hess (University of Freiburg)
    • Synechocystis sp. PCC 6803には、3種類のCRISPR/Casシステムが共存しているが、研究チームは今回、エンドリボヌクレアーゼCas6-1とCas6-2によるCRISPR1とCRISPR2座位からのcrRNA生成が、in vitroでは乱雑に起こるのに対してin vivo ではそれぞれのCRISPR座位に選択的に起こることを、見出し、バイオインフォマティクスによるRNAの構造予測に基づきその機構に考察を加えた。
  6. [論文] CRISPRdigger: ダイレクトリピートのアノテーション改善に基づくCRISPRsを検出
    • Corresponding author: Fengfeng Zhou (吉林大学)
    • 弱いダイレクトリピート(以下、DR)のシグナルの検出に注目してCRISPRsのデノボ予測プログラムCRISPRdiggerを新たに開発した。著者らは既存の予測プログラム(CRTPILER-CRCRISPRFinder)と比較した上で、それぞれに一長一短あることから相補的に利用することが望ましいとした。
    • プログラム入手先:http://www.healthinformaticslab.org/supp/