[出典] "De novo design of tunable, pH-driven conformational changes" Boyken SE [..] Baker D. Science 2019-05-17
  • 目的とする構造と機能を帯びたタンパク質をデノボ設計する技術は、アミノ酸と折り畳み構造が成す大空間を探索する手法の進歩とエネルギー関数の改良によって、自由エネルギーの底にある安定なタンパク質を設計・合成できるところにまで到達した。
  • David Bakerが率いるUW、Ohio State University、LBNL、HHMI Janeliaの研究グループは今回、これまで実現していなかった環境変化に応答してコンフォメーションを変えるタンパク質の合成に成功した。すなわち、ヒスチジン (His)を水素結合ネットワークに埋め込むことで、pHに応答して自己組織化(重合)と単量体へとコンフォメションを変えるタンパク質 (pH-responsive oligomers, pROs)を設計・合成した。
  • Hisは中性pHでは電荷を帯びず、pH低下(酸性化)で正電荷を帯びる特徴を有し、酵素の活性中心に見られ、タンパク質の高次構造の維持に寄与することが知られている。研究グループはこのHisの特徴を活かして、ヘリックスバンドルとそらを束ねるHisネットワーク (以下、His-net)からなり、pH6.5以上では安定な構造のホモ三量体とヘテロ二量体へと自己組織化し、pH低下に応じたHis-netのプロトン化に伴って、水素結合ネットワークが壊れ、内部に静電反発力と立体斥力が蓄積され、単量体化するpROsを設計・合成した。
  • pROsはin vitroにてpH依存でリポーソームを破壊した。また、U2-OS細胞において、pROsがエンドサイトーシス経路を介して細胞に取り込まれてリソソーム膜に輸送され・局在し、リソソームからのプロトン・リーケージを誘導してリソソームのpHを上昇させ、リソソーム・プロテアーゼによる分解を免れることを見出した (His-netを帯びていないヘリックスバンドル二量体・三量体はリソソームで分解された)。
  • pROsのpHの変化に応じたコンフォメーション変化は、His-netの数と疎水性相互作用の強さで調節可能である (原論文 Fi.g 3参照: m(赤)-His-netの層; n (黒) 疎水性相互作用の層;l (青) ヒスチジンを含まない極性ネットワークの層)の重ね方で調節可能である。
  • pHの変化に応じてエンドサイトーシス経路を介して細胞質へと浸透可能なpROsは薬物送達担体として、細胞毒性のリスクを伴う細胞透過性リポソームや、宿主細胞の免疫応答のリスクを伴うウイルスベクターに優る特性を帯びている。
  • 構造情報:6MSQ (pro-2.3);6MSR (pRO-2.5: PDB引用下図参照)2019-05-20