[出典] Circularly permuted and PAM-modified Cas9 variants broaden the targeting scope of base editors" Huang TP, Zhao KT [..] Liu DR. Nat Biotechnol 2019-05-20.

概要
  • SpCas9ヌクレアーゼによるDSBを介さずにC•GをT•Aへ変換するCBEsとA•TをG•Cに変換するABEsは、ヒト病原点変異の~63%を修正できる可能性を秘めている。CBEとABEはまた、終止コドン生成を介した遺伝子ノックアウトや、スプライス部位の消去なども可能にする。
  • 一方で、CBEとABEによる置換は、SpCas9が認識するPAM (塩基配列NGG)から~15± 2 ntに位置し、かつプロトスペーサ上の狭いウインドウ内 (通常~4-5 ntの幅)に位置する塩基に限定されてしまうことから、~63%全てを修正するには至っていない。
  • David R. Liuが率いるBroad InstituteとUC Berkeleyの研究グループは今回、NGG以外のPAMを認識するSpCas9変異体と、循環置換 (circularly permutation, Wikipedia引用下図参照) を導入したSpCas9変異体 (CP-Cas9)を介して、ABEmaxのPAMの拡張と、CBEmax (旧 BE4max)とABEmaxの塩基対変換ウィンドウの改変を実現した。CP
SpCas9変異体を活用したPAMの拡張
  • SpCas9 (NGG:PAM)に替えて、VRQR-SpCas9 (PAM: NGA)とVRER-SpCas9 (PAM: NGCG)を組み込んだVRQR-ABEmaxとVRER-ABEmaxを作出し、HEK293T細胞において、それぞれ6種類のサイトを標的とする塩基置換をABEmaxと比較評価した。
  • NGA PAMに対しては、VRQR-ABEmaxが平均効率35 ± 4.6%とABEmaxから3.2倍への向上を見せ、また、xCas9とSpCas9-NGを組み入れたABEmaxよりも優れた性能を示した。
  • NGCG PAMに対しては、VRER-ABEmaxが平均効率40 ± 3.6%とABEmaxからの7倍への向上を見せた。さらに、VRERとG1218R変異を共有するVRQRを帯びたVRQR-ABEmaxが平均効率50 ± 3.6%を示し、また、NG-ABEmaxが51 ± 5.9%を示した。 いずれもindel生成は小規模であり、ウインドウのシフトも見られなかった。
  • NCCC PAMおよびGAT PAMに対する変換効率も評価し、xABEmaxまたはCas9-NGも交えて、ABEmaxをNGG以外のPAMへ拡張可能なことを実証した。
  • 研究グループはまた、NNGRRT PAMを認識する野生型SaCas9と、NNNRRT PAMsを認識する変異型SaCas9 (SaKKH)を組み込んだABEmaxの効率をそれぞれ6遺伝子座で評価し、平均効率22 ± 2.3%と26 ± 5.7%を得たが、SaCas9がCBEsに与えた効果には及ばなかった。
ウインドウの改変 (位置と幅)
  • ウインドウ幅の拡張の試みはこれまでCBEsにおけるデアミナーゼの多量体化($1)やABEsにおけるsgRNA伸長($2)が試みられたが、今回、前項のSaABEmaxとSaKKH-ABEmaxが、塩基置換が活性なウインドウをプロトスペーサ上の座標で4-14 (PAMは21-26)へと拡大する特徴も示した。
  • 研究グループは、SpCas9への循環置換導入の先行研究から、循環置換導入によってCBEsとABEsのデアミナーゼ・ドメインをCas9結合で誘導されるssDNAループ (R-loop)に近接させることが可能として、一連のCP-Cas9を開発した。その中から、DNA結合活性とR-loopへの近接を指標として5種類のCP-Cas9 (CP1012, CP1028, CP1041, CP1249およびCP1300; 数字は循環置換で新たに生成したN末端の循環置換前のアミノ酸配列上の座標)を選択し、それぞれを組み入れたCP-CBEmax変異体5種類とCP-ABEmax変異体5種類を作出し、HEK293T細胞内の5ヶ所のサイトで評価した。
  • CP-CBEmaxの変換は変異体により多様であったが、ウインドウを4-8から4-11へと改変する変異体が存在した。中にはプロトスペーサの上流-13に至る領域で変換活性を示す変異体を見出し、また、CP-CBEmaxがCBEmaxでは見られる副産物 (C-to-T置換以外の置換)を2.1-19分の1に抑制する効果を示すことを同定し、それぞれの構造基盤について考察を加えた。
  • CP-ABEmaxもCP-CBEmaxと同様にウインドウの拡大を見せた (例えば、4-7から4-12への改変)。
  • CP-CBEmaxとCP-ABEmaxによって、ヒトの遺伝子変異と疾患を集積したClinVarデータベスに登録されている病原性SNPsのうち修正が可能な割合が、CBEmaxとABEmaxのそれぞれ27%と31%から、いずれも51%へと向上するとした。
CBE/ABE参考crisp_bio記事
  • 2019-05-10  ABEによる細胞内RNA編集の検証と抑制
  • 2018-11-16 D. R. Liuによる塩基編集技術 (BE)のレビューと最新論文 [第2項目] マウス胚において、シトシンBE(CBE)とアデニンBE (ABE)の高精度編集を検証
  • CRISPRメモ_2018/05/30-3 [第1項目] 塩基エディターBE4とABEを、BE4max/ AncBE4max /ABEmaxへと強化
SpCas9への循環置換誘導関連crisp_bio記事
  • 2019-01-11 タンパク質工学によるCas9のブラッシュアップ - プロテアーゼによる活性化:トランスポゾンを利用して、5-20 aaのペプチド・リンカーをもとに循環置換を加え、活性評価を経てCas9-CPsライブラリーを構築
ウインドウ幅拡大参考論文・crisp_bio記事
  • ($1) 2018-06-06 BE-PLUS: a new base editing tool with broadened editing window and enhanced fidelity. Jiang W [..] Chen J, Huang X. Cell Res. 2018 Aug;28(8):855-861:BE-PLUS (base editor for programming larger C to U (T) scope);GCN4ペプチドをnCas9 (D10A)に10コピー結合し、scFv-APOBEC-UGI-GB1を標的サイトにリクルートすることでウインドウ幅を拡張
  • ($2) 2018-04-28 マウス胚とデュシェンヌ型筋ジストロフィーの成体マウスモデルにおけるアデニン塩基置換:sgRNAの5'末端伸長によりウインドウ幅を14-17 (4-nt幅)から14-18/19 (5/6-nt幅)へと拡大