(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/10/10)
  • Corresponding authors: Jacques-Philippe Colletier (Univ. Grenoble Alpes); 
    David S. Eisenberg (UCLA)
  • 蚊に媒介されるマラリア、ウエストナイル熱およびウイルス性脳炎などの蔓延に対して、幼虫撲滅薬(larvicide)として利用されているバクテリアLysinibacillus sphaericus 由来のBinABタンパク質複合体は、毒性を示すBinAタンパク質とBinAを蚊の腸に結合するBinBタンパク質で構成されている。BinAB複合体は結晶状態では不活性であり、蚊幼虫の腸内のようなアルカリ性環境で分解されて活性化し、細胞表面受容体によって認識され細胞へ取り込まれて毒性を発揮する。
  • BinABは、ジカ熱やデング熱を媒介するネッタイシマカ(Aedes aegypti)を始めとするヤブ蚊属に対しては毒性を示さない。BinABに対する細胞表面受容体が存在しないからである。また、他の昆虫、甲殻類からヒトにもこの受容体が存在しない。
  • 研究チームは今回、米国のSLAC国立加速器研究所X線自由電子レーザー(XFEL)、Linac Coherent Light Source(LCLS)、のシリアルフェムト秒X線結晶構造解析法(SFX)と多重重原子同型置換異常分散法(multiple isomorphous replacement with anomalous scattering, MIRAS)を利用することで、通常のX線ビームラインでは困難であった小型(50 unit cells/edge)のタンパク質BinABの構造解析を実現し、BinABの作用機序を明らかにした。
    • 幼虫の中腸のアルカリ性環境でBinAB複合体結晶の分解を促す4つのpHスイッチを同定
    • 複合体分解後もヘテロ二量体として存続することを可能とするヘテロ二量体の大きな界面を同定
    • BinAにおいて、ヘテロ二量体が細胞表面へ向かうことを補助すると思われる3箇所の糖結合性モジュールを同定
    • ヘテロ二量体の界面は主としてプロペプチドで構成されていた。タンパク質分解酵素によってヘテロ二量体が分解されて、細胞膜のポア形成が進行することが示唆された
  • 今回得られた構造・機能情報をもとに、BinABを改変してAedes 属などの感染症を媒介する蚊に対して有効でありヒトに対して無害な薬剤を開発する試みが始まっている。
  • [注] XFEL解析関連記事:2015/11/23 SACLAのXFELと重原子同型置換法により、新規タンパク質の構造を決定