[出典] "Cas13-induced cellular dormancy prevents the rise of CRISPR-resistant bacteriophage" Meeske AJ, Nakandakari-Higa S, Marraffini LA. Nature 2019-05-29;NEWS AND VIEWS "Bacterial dormancy curbs phage epidemics" Jackson SA, Fineran PC. Nature 2019-05-29. (Fig. 1に分子機序モデル図あり); PREVIEW "Cas13 Helps Bacteria Play Dead when the Enemy Strikes" Mendoza SD, Bondy-Denomy J. Cell Host Microbe 2019-07-10.

背景
  • 原核生物が帯びているCRISPR遺伝子座は、スペーサと呼ばれるプラスミドとバクテリオファージ由来の短い配列を挟んだ30-40 bpの長さの反復配列で形作られ、転写を経て短いCRISPR RNAs (crRNAs)を生成するに至る。CRISPR-associated (Cas)ヌクレアーゼは、crRNAsをガイドとして外来核酸の中のcRNAに相補的な配列 (プロトスペーサ)を認識し、切断する。ほとんどのCasヌクレアーゼは侵入DNAを切断するが、タイプVI CRISPRシステムのヌクレアーゼはCas13は、crRNAをガイドとして、crRNAに相補的な転写物を認識し配列特異的にRNAをcis-切断すると共に、配列非特異的にRNAをtrans-切断する
  • Cas13は本来RNAファージに対する防御と想定されるが、これまでに同定されたタイプVI CRISPR遺伝子座のスペーサは全て二本鎖DNA (dsDNA)ファージのゲノムと相補的であることから、Cas13がdsDNAファージ感染に対する免疫を供することが示唆される。しかし、Cas13がcis-そしてまたはtrans-RNA切断活性を介してdsDNAファージから宿主を守る仕組みは不明であった。
成果
  • ロックフェラー大学の研究チームは今回、 DNAファージϕRR4に感染し、Listeria seeligeri ATCC35967のタイプVI-A CIRPSRシステム (エフェクタはCas13a)を帯びているListeria ivanovii ΩCRISPRVIを作出し、これに41,276種類のユニークなϕRR4配列断片からなるスペーサ・ライブラリーを導入し、ϕRR4感染実験を行った結果、不稔感染 (abortive infection)に似た防御機序を見出した。
  • すなわち、Cas13aによる転写物のtrans-切断によって宿主細胞の増殖が止まり (宿主細胞が休眠し)、ファージの感染サイクルも止まることを見出した。これによって、宿主細胞集団内のファージの数が減少し、ファージが感染していない細胞に対する集団免疫 (herd immunity)が成立する。この仕組みにより、配列が変異したことでDNAを標的とするCRISPRシステムに対する耐性を獲得したdsDNAファージも、宿主細胞が休眠するきっかけとなったファージとは異なるファージも、活性状態を維持しているCas13によって無力化される。
  • このようにタイプVI CRISPRシステムは、直接ウイルスに作用するのではなく、宿主を休眠状態へ誘導することでDNAファージに対抗し、CRISPR耐性ファージのアウトブレイクも防止する。
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