[出典] "Hydro-Seq enables contamination-free high-throughput single-cell RNA-sequencing for circulating tumor cells" Cheng YH, Chen YC, Lin E [..] Yoon E. Nat Commun 2019-05-15.

 血中循環腫瘍細胞 (circulating tumor cells: CTCs)を一細胞分解能で分子解析する技術は、非侵襲性のリキッドバイオプシーに基づく癌の診断と治療を実現する。近年開発された多重並列scRNA-seqは、遺伝子発現とパスウエイ解析から細胞レベルの不均一性を解き明かす有力なツールである。しかし、血中には赤血球などの大量の血液細胞が存在しその中でCTCsは極めて微量であることから、全CTCsの全遺伝子を対象とする一細胞遺伝子発現プロファイリングは実現していない。

 University of Michiganの研究グループは今回、流体力学に基づいたCTCs選別とscRNA-seqバーコーディング技術を組み合わせて、CTCの一細胞レベルでのハイスループット・プロファイリングを実現するスケーラブルなHydro-seqを開発した。

 Hydro-seqが備えている「CTCsを高い効率で捕捉する機能」と「血液細胞によるコンタミネーションを除去する機能」によって、21名の転移性乳癌患者由来の666 CTCsのハイスループットscRNA-seq解析が実現した。
  • Hydro-seqでは~5時間程度でCTCsシーケンシングまでの前処理が完了する。
  • 血中循環細胞の~95%が血液細胞であり、CTCsはその5%であった。ER, PRおよびHER2を含む臨床バイオマーカ、癌幹細胞のバイオマーカ、および上皮間葉転換のバイオマーカを帯びた細胞を同定・追跡した (原論文Fig. 4引用下図左参照)。
Hydro-seq 4 Hydro-seq 5
  • 癌幹細胞 (cancer stem cells)はバイオプシーの場合はサンプルの1~5%程度であるがリキッドバオプシーのサンプルの場合は30-50%を占めた。
  • CTCsには、患者内不均一性が存在することが明示された (原論文Fig. 5引用上図右参照)
  • Hydro-seqによる一細胞トランスクリプトーム・プロファイリングは、分子標的療法や癌転移過程のモニタリングに有用である。
マイクロフルーイディックデバイス (原論文 FIg. 1引用下図参照)

 下図aにあるように、全体構造は、1デバイスあたあたり800チャンバーを、16本のチャネルに配置してある。各チャンバーに① Entrance valve、② Bead Valveおよび③ Cell Valveが備わっている。Valves (バルブ)の開閉によって、サンプル血液の取り入れとCTCsの選別、洗浄、バーコードを付したビーズと細胞の融合、細胞溶解、ビーズ回収などが制御される (下図 f~j)。バルブの②と③はスペース節約のため隣り合うチャンバーと共有され、いずれも高さ15μm/開口100x100μmと、チャンバーに流入した血液から赤血球などの血液細胞は通過し癌細胞はチャンバーに閉じ込められるように設計されている。Hydr-seq 1