1. HIV予防法とされているCCR5-∆32変異は、76歳までに死亡する率を高める
# crisp_bio 2019-06-05 追記: 本論文については再解析に基づいた問題点がTwitter上で指摘されている。
# cirsp_bio 2019-08-28 追記: "Major error undermines study suggesting change introduced in the CRISPR babies experiment shortens lives" Robbins R. Stat News. 2019-09-27.
# crisp_bio 関連記事:2019-10-01 CCR5-∆32変異が76歳までの死亡率を高める」を巡る議論結着に向かう
[出典] "CCR5-∆32 is deleterious in the homozygous state in humans" Xinzhu Wei & Rasmus Nielsen.  Nat Med 2019-06-03;NEWS AND VIEWS "The hidden cost of genetic resistance to HIV-1" Luban J. Nat Med 2019-06-03.

 CRSPRbabiesは、技術的にも倫理的にも、そしてHIV予防の戦略的にも、不適切であったことが指摘されてきたが(*1)、今回、CCR5の∆32変異を狙った戦略が未熟であったことが改めて示された。

 これまでに、CCR5のホモ型∆32変異は、インフレエンザ感染による死亡率が高く、また、感染症に罹患する率が4倍になるという報告がなされていたが、解析したコホートが小規模であった。UC Berkeley/ U. Copenhagenの研究チームはUK  Biobank (*2)に由来する409,693人のジェノタイピングと臨床記録 (死亡届)のデータをもとに、CCR5イタ-∆32がヒトの適応度に及ぼす効果を解析した。
  • ∆32の頻度は0.1159と稀であるが、UK Biobankにはホモ型∆32の個人数千人のデータが登録されていたことから、∆32/∆32、∆32/+ および+/+のジェノタイプの適応度を比較解析することが可能になった。
  • 平均年齢56.5歳のコホートにおける3種類のジェノタイプについて76歳までの生存率を計算し、それぞれ、0.8351、0.8654および0.8638を得た。すなわち、∆32/∆32は76歳までに死亡する率が~21%高いという結果となった。また、サンプルを取得した時点で∆32/∆32個人にはハーディー・ワインベルグ平衡からのずれが見られた。
  • CRISPR遺伝子治療にあたっては、遺伝子変異導入が適応度を高めるとしても、有害作用が誘導されるリスクを十二分に検証する必要がある。
 参考crisp_bio記事
  • (*1) 2019-02-27 賀建奎らによるヒト胚でのCCR5遺伝子編集の意味を改めて考える (2)
  • (*2) 2019-01-08 英国500,000人のバイオデータ公開のインパクト
2. [展望] 生殖細胞系列遺伝子療法の進め方
[出典] PERSPECTIVE "Principles of and strategies for germline gene therapy" Wolf DP, Mitalipov PA, Mitalipov SM. Nat Med 2019-06-03;"Germline gene therapy pioneer, teenage son make case for safe treatment" OHSU News 2019-06-03

 CRISPRbabiesの出現によって、精子、卵子あるいは着床前胚の遺伝子編集 (生殖細胞系列の遺伝子編集)臨床研究にモラトリウムを求める声が大勢をしめるに至った。オレゴン健康科学大学 (OHSU)のCenter for Embryonic Cell and Gene Therapy所長のShoukhrat Mitalipov (シュークラト・ミタリポフ)**は今回、17歳の息子PaulおよびOHSUの (産婦人科)のDon P. Wolfは今回、10,000種類を超える単一遺伝子変異を病因とし治療法が存在しないあるいはあったとしてもきわめて高価な遺伝病治療の有力な手段であり、また、着床前診断を介した遺伝病対応よりも、体外受精と生殖細胞系列遺伝子編集による遺伝病治療法 (germline gene therapy: GGT)の組み合わせが取るべき道であると主張した。
 OHSU Newsによると高校生でStanford大学進学予定のPaulは、2018年の夏休みにOHSUのMitalipov研で論文の図と参考文献リストの作成、ならびに、用語とテキストを一般人にも分かり易くする役割を担ったとのことである。
 (**) CRISPRメモ_2017/08/03(ヒト胚ゲノム編集心疾患変異修復、マウス胚ゲノム編集)

3. Cas12aのDNA/RNAのcis-およびtrans-切断活性の全体像 - dsDNAへのニック誘導
[出典] "Pervasive off-target and double-stranded DNA nicking by CRISPR-Cas12a" 
Murugan K, Seetharam AS, Severin AJ, Sashital DG. bioRxiv 2019-06-02.

 Cas12a (Cpf1)は真核生物では標的配列のミスマッチに対して寛容ではないとされているが、宿主微生物内でのミスマッチに対する寛容性は判然としていない。Iowa State Universityは今回、配列を一部ランダム化したライブラリーを用意し、Cas12aのヌクレアーゼ活性をin vitroで解析した。

 その結果、New England Biolabsの研究グループの報告***に続いて、Cas12a (As, LbおよびFnの3種類)がdsDNAにニックを入れることを見出し、Cas12aのヌクレアーゼ活性の全体像を描いた (投稿Fig. 6参照):
  1. Cas12a-crRNAは、dsDNAのcrRNAにマッチする配列に結合してdsDNAをcisイタ切断し、crRNAに対するミスマッチ配列の一部にニックを入れる。
  2. 切断されたdsDNAのPAM近位の標的鎖にはCas12aが結合しヌクレアーゼ活性を維持し、一方で切断されたdsDNAのPAM遠位部分はCas12aから遊離する。
  3. 活性なRuvCドメインは、切断されたPAM遠位のdsDNAおよび第1段階でニックが入ったdsDNAを基質として、ニックを入れ、結果的に、ssDNAとssRNAおよびdsDNAを非選択的に切断する。
 (***) New England Biolabs報告関連crisp_bio記事
  • 2019-04-11 Cas12aは標的dsDNA切断時に、ssDNAだけでなくdsDNAとssRNAもトランスに分解する