[出典] "Analysis of Whole-Exome Sequencing Data for Alzheimer Disease Stratified by APOE Genotype" Ma Y [..] Farrer L. JAMA Neurol 2019-06-10;"Sliced by ApoE Genotype, Whole Exome Data Yield New AD Variants" ALZFORUM 2019-06-14.

背景
  • ApoEは299のアミノ酸で構成され、ApoE2、ApoE3、およびApoE4の3種類のアイソフォームがよく知られている。これらアイソフォームは、112/158番目のアミノ酸の組み合わせがそれぞれ、システイン/システイン、システイン/アルギニン、アルギニン/アルギニンと異なり、受容体タンパク質への結合能を異にする。
  • この中で、ApoE4 (APOE ε4遺伝子)は、家族性および孤立性AD患者で高頻度に見られまたAβ沈着との相関も示された。一方で、APOE ε4遺伝子を帯びていない (以下、ε4ノンキャリア)が他の遺伝子変異を帯びているアルツハイマー病患者が存在し、APOE ε4遺伝子を帯びている (以下、ε4キャリア)がADを発症しない個人が存在する。
  • さらに、ApoE4を標的とする候補薬剤がこれまでAD療法として効用を示すに至らないことから、ADにおけるApoE4の位置付けについて、ADの原因ではなく結果としてのバイオマーカである、ADに至る多重なパスウエイに関与している、あるいは、他の遺伝子や制御因子と協働してAD発症に至る、といった仮説が示唆されてきた。
今回
  • Boston University Schools of Medicine and Public Healthをはじめとする米国とフランスの24機関の国際共同研究チームは今回、ε4と相関する稀な遺伝子変異の組み合わせとAD発症との相関を明らかにすることを目的として、Alzheimer’s Disease Sequencing Project(ADSP) の非ヒスパニック系白人10,441名の全エクソームシーケンシング (whole exome sequencing: WES)データから始まる一連の解析を進めた。
ディスカバリー・スタディー
  • 対象は、ε4ノンキャリア 7,358名 (AD 3,145名;非AD 4,213名)と、ε4を少なくとも1コピー帯びているε4キャリア 3,083名 (AD 2,377;非AD 706名)であった。
  • ADとの相関が示唆される遺伝子変異として、ε4ノンキャリア由来10種類、ε4キャリア由来12種類の計22種類を同定した。
  • ε4ノンキャリア由来変異の中で、グリコシルホスファチジルイノシトール (GPI)の生合成に関わり癌遺伝子ともされているGPAA1のSNP (rs138412600)と、lncRN遺伝子AC099552のSNP (rs536940594) を、ゲノムワイドでADと有意に相関すると判定した。
  • ε4キャリアでは、単一遺伝子内の複数SNPsを総合した遺伝子レベルでADと相関する遺伝子OR8G5IGHV3-7ならびにSLC24A3を同定したが、これらの遺伝子のAD相関はレプリケーション・スタディーでは裏付けられなかった。一方で、ε4キャリアをAD発症から守るISYNA1遺伝子のSNP (rs2303697) を同定した (以下、protective vatiant)。
レプリケーション・スタディーなど
  • Alzheimer’s Disease Exome Sequencing- France Project、 Cohorts for Heart and Aging Research in Genomic Epidemiology (CHARGE) コンソーシウムならびにAlzheimer’s Disease Geneticsコンソーシウム (ADGC)に由来する大規模なコホートのデータ、AD 1,766名と非AD 2,906名のWESと、AD 8,728名と非AD9,808名のimputationを利用したチップベースのジェノタイプデータに基づいて行った。
  • さらに、AD 402名と非AD647名の臨床、認知能力、神経病理学、WESおよび遺伝子発現の継時データに基づく遺伝子変異の機能解析も行った。
ε4ノンキャリア由来GPAA1変異とAC099552変異の評価
  • ディスカバリー・スタディーでε4ノンキャリアに見出されたGPAA1 rs138412600のADとの相関は、レプリケーション・スタディーでも裏付けられ、メタ解析から、GPAA1のマイナーアレルがADリスクをほぼ2倍にすることが明らかになった。 AC099552 rs536940594については、ADリスクを88倍にすると出たが、ディスカバリ・スタディーのコホートの中の10名にしか見られない極めて稀な変異であったことから、ADと有意に相関するとは判定されなかった。
Protective vatiant ISYNA1 rs2303697の評価
  • デスカバリー・スタディーで同定されたε4キャリア由来protective vatiantは、CHARGEを除く全てのレプリケーション・スタディーのコホートで裏付けられた。ISYNA1の他のSNPsもメタ解析でほぼprotective vatiantであることが示唆された。
  • ISYNA1がコードするイノシトル-3-リン酸合成酵素1は、グルコース-6-リン酸 (G6P)をミオイノシトール-1-リン酸に変換するが、脳内ミオイノシトールのレベルとタウオパチーおよび認知機能障害が相関すること、および、ε4キャリアのミオイノシトール・レベルがε4ノンキャリアよりも高いことが報告されている。