1. [展望] CRISPR-Casシステムの発展:ゲノム編集を超えて
[出典] Perspective "Development of CRISPR-Cas systems for genome editing and beyond" Zhang F. Quarterly Reviews of Biophysics 2019-06-13.
  • 微生物ゲノム・メタゲノムからの新奇Cas発見とそれがもたらす新奇な遺伝子工学ツールボックスの好循環を底流として、CRISPR-Casシステムの発展を展望
  • 1987年から現在にいたるCRISPR技術発展のマイルストーン;CRISPR-Cas獲得免疫機構の生物学;CRISPR-Cas9ゲノム編集技術;Cas12とCas13;Casエフェクターに基づく分子生物学ルールボックス拡大;ツールボックスの先進的応用 (細胞・動物モデル;ゲノムワイド機能スクリーン;植物科学と農業応用);ヒトの健康と医療 (病原バクテリアとウイルスの検出と排除;体細胞ゲノム編集療法;臨床試験);生命倫理;そこにある生物多様性の理解と利用
2. [レビュー] パーキンソン病と相関するレドックス代謝異常の特定に向けて:CRISPR遺伝子編集の応用
[出典] REVIEW "Interrogating Parkinson's disease associated redox targets: Potential application of CRISPR editing" Artyukhova MA [..] Kagan VE, Timashev PS. Free Radic Biol Med 2019-06-12.
  • 黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの欠失は、パーキンソン病 (PD)の分子的特徴の一つである。また、鉄代謝異常および機能不全を起こしたミトコンドリアの蓄積と相関するレドックス代謝の異常が、神経変性とドーパミン作動性ニューロンの欠失の主たる要因と見られている。一方で、PDの発症と進行に直結する分子機構やパスウエイの異常は特定されていない。
  • Sechenov First Moscow State Medical University、University of Pittsburghなどの米露共同研究グループが、CRISPR遺伝子編集技術によるPDの分子機構解明を展望。
3. 深層学習によりCRISPR-Cpf1のオンターゲット編集活性とオフターゲット編集発生を予測
[出典] "Prediction of activity and specificity of CRISPR-Cpf1 using convolutional deep learning neural networks" Luo J, Chen W, Xue L, Tang B. BMC Bioinformatics 2019-06-13.
  • 2018年に深層学習によるCRISPR-Cpf1 sgRNAの活性予測システム DeepCpf1を韓国の研究グループが発表していたが (*)、今回、西南医科大学の中国研究グループが深層学習 (畳み込みニューラルネットワーク)に基づくCpfの活性と特異性を予測するモデルを開発し、再び、DeepCpf1と命名した。オフターゲット編集予測にワンホット(one-hot)エンコーディングを利用した点が特徴。
 深層学習の利用関連crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2019/05/17-1 [第1項] SpCas9活性の深層学習モデルDeepCas9
  • (*) CRISPRメモ_2018/02/04 [第3項] CRISPR-Cpf1 gRNA活性予測精度を、深層学習(deep learning)により向上
  • CRISPRメモ_2018/12/25 [第1項]深層ニューラルネットワークモデルSeqCrisprを開発し、sgRNAの活性はsgRNAの配列に加えて標的遺伝子の遺伝子間相互作用のコンテクストにも依存することを同定
4. CRISPR/Cas9ゲノム編集によりNpm1-Alk融合を誘導したマウス造血肝細胞を野生型マウスに移植することで、ALK陽性未分化大細胞リンパ腫モデルを作出
[出典] "CRISPR genome editing of murine hematopoietic stem cells to create Npm1-Alk causes ALK1 lymphoma after transplantation" Rahan SS [..] Schatz JH. Blood Advances Accepted 2019-05-06.

5. [レビュー] T細胞療法におけるCRISPR/Cas9遺伝子編集の可能性
[出典] REVIEW "Therapeutic potential of CRISPR/Cas9 gene editing in engineered T‐cell therapy" Gao Q, Dong X, Xu Q, Zhu L, Wang F, Hou Y, Chao CC. Cancer Medicine 2019-06-14.
  • BGI-Shenzhenの研究グループがCAR‐T (Chimeric Antigen Receptor Engineered T cell) やTCR‐T (T Cell Receptor Engineered T cell)といったT細胞療法にCRISPR/Cas9遺伝子編集技術を応用するにあたり、その可能性と課題をレビュー
6. [レビュー] CRISPR/Cas9遺伝子編集によるマウス/ゼブラフィッシュのヒト骨系統疾患モデル作出
[出典] REVIEW "The progress of CRISPR/Cas9-mediated gene editing in generating mouse/zebrafish models of human skeletal diseases" Wu N [..] Zhang J, Wu Z. Comput Struct Biotechnol J 2019-06-13.

7. ショウジョウバエにおいて、CRISPR-Cas9を介したDSBにより、相同な染色体腕の間の組み換えを誘導
[出典] "CRISPR-induced double-strand breaks trigger recombination between homologous chromosome arms" Brunner E [..] Basler K. Life Science Alliance 2019-06-18.
  • ZurichのInstitute of Molecular Life SciencesとInstitute of Molecular Systems Biologyの研究グループは、CIGAR (CRISPR-Induced Gene Activator)システム(Fig. 1引用下図参照)を開発し、表題の組み換えが39%の頻度で発生し、継代されることを示した。CIGAR
    この現象は、新たな遺伝子工学ツールを示唆する一方で、CRISPR-Cas9のDSBを介した遺伝子編集の臨床応用の障害になる得ることを示唆する。
  • CIGARは4要素で構成され、CRSIPR-Cas9を介したDSBがNHEJ過程で修復された場合に限り、遺伝子発現を活性化する。4要素は、上図Aにあるように、全ての細胞で遺伝子発現をドライブするubiquitin-p63Eプロモーター、“shifter”配列、“shifter”配列の3'末端に挿入するフレキシブルなリンカー配列、および転写開始コドンを欠損しショウジョウバエのチューブリンα1遺伝子を結合したレポーターcDNA、である。CIGARは図Aの“shifter”配列にセットされているSTOPコドンによって不活性な状態に維持されているところ、CasによるSTOPTコドンへのDSB誘導とNHEJ修復を介して活性化する。