[出典] "Francisella novicida Cas9 interrogates genomic DNA with very high specificity and can be used for mammalian genome editing" Acharya S, Mishra A, Paul D [..] Chakraborty D. bioRxiv 2019-06-19. -> PNAS 2019-09-30.

背景
  • FnCas9の構造と活性は、2016年に東京大学とBroad Instituteなどの日米研究グループが2016年にCell誌で報告していた (Cell, 2016; 2017-08-27 crisp_bio記事*)。FnCas9は、in vitro実験において、オフターゲット切断がsgRNAとのミスマッチがPAM遠位の5'末端部位における1塩基に限られるという高い標的サイト選択性を示し、また、マウス受精卵においてもゲノム編集活性を示したが、ヒトHEK293T細胞ではゲノム編集活性を示さなかった。
  • その後、MilliporeSigmaとA Business of Merck KGaAの研究チームもK562細胞においてSpCas9と比べて多くの遺伝子座に対して編集活性を示さないことを報告した(Nat Commun, 2017; 2019-02-23 crisp_bio記事**)。
概要
 
 今回、CSIR-Institute of Genomics & Integrative Biologyのインドの研究グループが、野生型のFnCas9が高精度であることを報告した:
  • 哺乳類細胞におけるオフターゲットサイへのindels誘導がほとんどについて検出限界以下である。
  • この標的サイトに対する高い選択性は、ミスマッチを帯びたsgRNA:DNAヘテロ二本鎖の結合親和性がミニマルであることに由来する。
  • 鎌状赤血球貧血症患者由来のiPSCsにおいて、HDRを介した遺伝子修復を実証。

FnCas9の標的DNAへの結合親和性と標的DNAの切断効率
  • マイクロスケール熱泳動 (MicroScale thermophoresis / MST)によりdFnCas9ならびにdSpCas9と2種類のDNA基質 (VEGFA3EMX1)との間の解離定数を測定・比較し、dFnCas9の標的DNAへの結合親和性がdSpCas9より低いことを同定した。また、dFnCas9については、EMX1_2c-MYCについても測定し、結合親和性が標的DNAによって変動することも同定した。
  • 続いて、FnCas9とSpCas9のin vitro切断 (IVC)活性をアッセイし、FnCas9では、切断完了に要する時間が標的DNAに依存して30分~2時間の範囲で変動することを同定した (SpCas9にはそうした変動みられず)。また、c-MYCを対象とする用量依存性IVC活性アッセイから、FnCas9の切断活性効率がRNPの用量に比例して向上することも同定した。
オフターゲット作用 (sgRNA:DNAヘテロ二本鎖におけるミスマッチへの寛容性)
  • DNA基質への変異導入in vitro実験により、ミスマッチに対してFnCas9がSpCas9よりも非寛容であることを同定した。特に、PAM遠位のsgRNA 5'末端領域 (19, 19, 17および16の位置)における1塩基ミスマッチにより切断活性が ~56±7%減少した。また、PAM遠位における2または3塩基のミスマッチによってFnCas9が失活した (SpCas9は失活せず)。さらに、MST測定により2塩基ミスマッチを帯びたDNAに対するFnCas9とSpCas9の結合親和性と切断活性の傾向が整合することを確認した。
  • FnCas9は、SpCas9やSaCas9とその構造と異にするREC3ドメインとREC2ドメインを介してDNAに結合することが知られているが、今回、FnCas9がDNA基質のPAM遠位末端およびPAM近位末端の双方と相互作用し、FnCas9の各アミノ酸残基および全体の静電相互作用がSpCas9よりも高いことを、PDB登録構造に基づく計算から同定した。
  • ミスマッチの影響を、鎌状赤血球症の原因遺伝子であるヘモグロビンβサブユニット遺伝子 (HBB)の2ヶ所に変異を導入する実験によっても検証し、ミスマッチがSpCas9の切断活性にはほとんど影響しないが、FnCas9の切断活性を顕著に低下することを同定した。またこの低下は2ヶ所のミスマッチの間隔には依存しなかった。さらに、sgRNAの2ヶ所にミスマッチを導入すると、標的のc-MYC, VEGFA3およびEMX1のいずれについても、 切断活性が完全に失われることも見出した。
FnCas9のin vivo活性
  • マウスES細胞において、FnCas9がテロメア反復配列TTGGAや外来GFP配列に局在・結合することを確認した上で、HEK293T細胞において、FnCas9とSpCas9の切断活性に、c-MYCEMX1における2ヶ所のミスマッチが与える影響と、HBBにおける3ヶ所のミスマッチが与える影響をオンターゲットサイトとオフターゲットサイトのディープシーケンシングにより比較した。
  • オンターゲットへのindels誘導効率は、FnCas9の場合は標的遺伝子座によって~19%から60%の範囲で変動したのに対して、SpCas9の場合はいずれについても50%を超えた。
  • オフターゲットへのindels誘導については、SpCas9がc-MYCの1ヶ所のミスマッチについて~8%、EMX1の2ヶ所のミスマッチに対して~16%の確率を示した。一方で、FnCas9は、EMX1のミスマッチに対する~1.15%のindels誘導確率を除いて、全てのミスマッチについてindelsは検出限界以下であった。
FnCas9のHDR効率
  • FnCas9はCpf1と同様にDSBサイトに粘着末端を残すことが知られていたが、in vitro切断アッセイにより今回、SpCas9がPAMの上流 3-bpにて非標的鎖を切断するのに対して、FnCas9はPAM (NGG)の上流 3-bpにて標的鎖を切断するが、非標的鎖の切断箇所は3-8 bpの範囲にわたることを見出した。
  • HEK293T細胞において、HDRを介した脂肪酸合成酵素遺伝子座FASNへのGFP導入実験を試み、FnCas9の導入効率がSpCas9の~4.6倍に及ぶことを同定した。
ホモ接合型鎌状赤血球症患者由来iPSCsのゲノム編集
  • HBB遺伝子座を標的とするFnCas9またはSpCas9のRNPと、テンプレート用のssODNまたはdsDNAをiPSCにエレクトロポレーションし、HDR効率は極めて低いが、テンプレートとしてssODNを利用した場合に、FnCas9のHDR効率がSpCas9よりも有意に高いことを見出した。この傾向はFnCas9と同様に粘着末端を生成するCpf1でも見られた傾向である。
参考crisp_bio記事
  • (*) 2017-08-27 [PDIS] Francisella novicida Cas9の構造決定とPAMの拡張
  • (**) 2019-02-23 [第1項] メルク (Merck KGaA)のproxy-CRISPRの米国特許成立 - メルクのproxy-CRISPR米国特許成立