(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/11/25)
  • 淡明細胞型腎細胞癌(clear cell renal cell carcinoma; ccRCC)は、主として、フォンヒッペル・リンダウ腫瘍抑制タンパク質(von Hippel–Lindau tumour suppressor; pVHL)の不活性化変異に起因する。この変異によって、低酸素誘導因子の一種であるHIF2αの蓄積と活性化が亢進する。
  • HIF2αは、他の多くの転写因子と同様にアンドラッガブルとされていたが、HIF2α PAS-Bドメインに大きなキャビティーが発見されて以来一連のHIF2α選択的アンタゴニストが同定されてきた。その中で低分子PT2399とその類縁体PT2385の2種類について、3研究グループがそれぞれ、pVHL変異型ccRCCの前臨床モデルにおける抗腫瘍活性の解析結果を報告した。
  • [HIF2αアンタゴニストの機構]
    • Cho et al.とWallace et al.は、VHL−/− ヒトccRCC細胞株786-Oにおいて、PT2399またはPT2385が、HIF2αとHIF1βのヘテロ二量体形成を阻害することを見出した。 Chen et al.は、ccRCC患者由来の異種移植(patient-derived xenograft; PDX)モデルにおいて同じ結果を得た。
    • 3研究とも定量的PCRによって、PT2399とPT2385がいずれもHIF2αの標的となる遺伝子群(血管内皮成長因子A (VEGFA);サイクリンD1 (CCND1);エリトロポエチン (EPO))の発現を抑制した。
    • 一方、HIF1αの標的遺伝子(例 ホスホグリセリン酸キナーゼ (PGK1))の発現を抑制しなかった。
  • [HIF2α標的遺伝子転写阻害のin vivo 効果]
    • Cho et al.とWallace et al.は、786-OのPDXにおいて、PT2399またはPT2385の長期投与によって、細胞増殖と血管形成の低減を伴って腫瘍を静止状態そして退縮に誘導することを見出した。また、VHL−/−ccRCCのPDXsにおいても、腫瘍増殖と腫瘍血管領域が低減した。
  • [臨床への展開]
    • Cho et al.とChen et al.は、PT2399抵抗性を示すVHL変異型ccRCC細胞株と腫瘍が存在することを見出し、HIF2αの発現レベルとの相関およびその他の要因の存在を示唆した。Cho et al.は、高レベルのHIF2αとp53 R248W変異を帯びたPT2399耐性ccRCCsを2種類同定した。Chen et al.は、PT2399に感受性を示すPDXモデルが、PT2399の長期投与によって、HIF2αの変異またはHIF1βの変異によって、PT2399耐性を獲得することを見出した。したがって、相補的阻害剤を設計する必要が示唆された。
  • [HIF2αアンタゴニストの優位性]
    • Chen et al.とWallace et al.は、PDX腫瘍において、PT2399またはPT2385が、血管新生阻害薬スニチニブ(sunitinib)よりも高い腫瘍増殖抑制効果を示すことを見出し、特に、Chen et al.は、PT2399が一部のスニチニブ耐性PDX腫瘍の増殖を阻害することを見出した。
  • [課題]
    • PT2385は第1相試験で無増悪生存期間11ヶ月を達成したが、少なくとも部分的にHIF2αのレベルにその効果が左右されることから、効果予測と薬力学作用を反映するバイオマーカーを組み込んだ臨床試験が必要である。