1. 植物遺伝子編集:GFPで標識したプロトプラストのFACSを介してCRISPR/Cas9による遺伝子編集技術を改善
[出典] "Improved CRISPR/Cas9 gene editing by fluorescence activated cell sorting of green fluorescence protein tagged protoplasts" Petersen BL et alBMC Biotechnol 2019-06-17.
  • CRISPR/Cas9による遺伝子編集は、植物のゲノムが複雑で多倍性を帯びていることと、CRISPR/Cas9システムの配偶子細胞または再生能を帯びた細胞への送達が非効率または制御が難しいことから、動物に比べて遅れている。University of Copenhagenの研究グループは今回、植物遺伝子編集の効率向上を実現した。
  • SpCas9-2A-GFPとgRNAの発現ベクタを形質転換したアグロバクテリウムをベンサミアナタバコ (Nicotiana benthamiana)の葉に注入するアグロインフィルトレーション (agroinfiltration)法を経た葉から分離したプロトプラスト群からFACSによるGFPが濃縮されたプロトプラストを選び出すことで、変異効率を、ソーティングする前の20~30%から80%以上まで向上させた (下図のCRISPR-Cas9とsgRNAの送達から、FACSで選別した細胞における変異判定までのワークフローは、原論文Fig. 1から引用)。Agroinfiltration
2. CRISPR/Cas12aによるS. cerevisiae多重ゲノム編集と酵母ピクセルの生成
[出典] "CRISPR/Cas12a Multiplex Genome Editing of Saccharomyces cerevisiae and the Creation of Yeast Pixel Art" Ciurkot K, Vonk B, Gorochowski TE, Roubos JA, Verwaal R.  J Vis Exp. 2019-05-28.
  • DSM Biotechnology Center、U HamburgおよびU Bristolの研究グループは今回、Cas12aと、単一のcrRNAアレイを組み合わせ、ドナーDNAを加えることで、S. cerevisiaeの一連の遺伝子座それぞれへ異種遺伝子を導入する技術を開発した。この技術によってカルテノイドを生産する株を作出し、酵母によるpixel art (ドット絵)製作に至った。
3.   より高性能でリサイクル可能なCRISPR-HDRツールボックスによるクロコウジカビの効率的ゲノム編集技術と異種由来遺伝子の多コピー導入
[出典] "Efficient genome editing in Aspergillus niger with an improved recyclable CRISPR-HDR toolbox and its application in introducing multiple copies of heterologous genes" Dong H, Zheng J, Yu D, Wang B, Pan L. J Microbiol Methods. 2019-06-18.
  • 糸状菌を有用物質の工場として利用するには多重遺伝子の編集が必要であり、多様な選択マーカを用意するか繰り返し利用する課題が伴っていた。
  • 華南理工大学の研究チームは今回、ドナーDNAとプラスミドの自律複製を可能にするAMA1配列およびpyrGマーカを帯びたプラスミドを利用し、pyrGとCas9の再利用を実現し、0 kb (プロトスペーサのみ)、2 kb、10 kbおよび50 kbのゲノム領域削除と、2種類の菌体外分泌タンパク質の遺伝子座 (グルコアミラーゼA glaAとα-アミラーゼ amyA2コピー)へのグルコースオキシダーゼ (goxC)を2~3コピーノックインし、酵素活性を4倍に向上させた。
  • AMA1を帯びたプラスミドは、5-フルオロオロチン酸とウリジンによって容易に除去できる。
  • 関連論文:"Forced Recycling of an AMA1-Based Genome-Editing Plasmid Allows for Efficient Multiple Gene Deletion/Integration in the Industrial Filamentous Fungus Aspergillus oryzae" Katayama T, Nakamura H, Zhang Y, Pascal A, Fujii W, Maruyama JI. Appl Environ Microbiol. 2019-01-23.
4. プロファージがK. pneumoniaeのゲノム可塑性に寄与し、CG258株の抗生物質耐性遺伝子 (ARGs)の染色体組込にも関与する可能性がある
[出典] "Prophages contribute to genome plasticity of Klebsiella pneumoniae and may involve the chromosomal integration of ARGs in CG258" Shen S, Zhou J, Xu Y, Xiu Z. Genomics 2019-06-17.
  • 大連理工大学の研究グループは、代表的な多剤耐性菌*の一種であるK. pneumoniaeの112ゲノムから609種類のプロファージと1,131のCRISPRスペーサをin silico同定し、プロファージの分布は株ごとに大きく変動し、CRISPR-Casシステムはプロファージの分布にある程度影響するがその影響は限定されているとした。
  • (*) ESKAPE pathogens: Enterococcus faeciumStaphylococcus aureusKlebsiella pneumoniaeAcinetobacter baumanniiPseudomonas aeruginosa ならびに Enterobacter spp.
5. 鳥類遺伝子編集:CRISPR/Cas9をアデノウイルスベクタで直接ウズラの産みたての卵の胚盤葉に注入することで、標的遺伝子ノックアウトの簡素化を実現
[出典] "Direct delivery of adenoviral CRISPR/Cas9 vector into the blastoderm for generation of targeted gene knockout in quail"  Lee J, Ma J, Lee K. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019-06-17.
  • 鳥類では哺乳類と異なり、1細胞期の受精卵へのCRISPR/Cas9のマイクロインジェクションが困難であり、鳥類のCRISPR/Cas9遺伝子編集には、始原生殖細胞の分離・培養、遺伝子編集、続いて胎生期の初期に卵の胚体外血管に注入する三段階を必要としていた。
  • 今回の手法には、アデノウイルスベクターの宿主ゲノムへの組み込みは見られず、オフターゲット作用により変異も見られなかった。
6. Cas9/sgRNAプラスミドとプロタミンのナノ粒子をNLSペプチドとAS1411アプタマーで修飾し、抗腫瘍性ゲノム編集を実現
[出典] "Peptide and Aptamer Decorated Delivery System for Targeting Delivery of Cas9/sgRNA Plasmid to Mediate Anti-Tumor Genome Editing" Liu BY [..] Cheng SX. ACS Appl Mater Interfaces 2019-06-19. 
  • 魚類の精巣に由来するプロタミン (protamine)はアルギニンリッチな小型 (4-10 kDa)のタンパク質であり、DNAの細胞へのキャリアに適した特性、カチオン性、膜移行性および核移行性を帯びている。
  • 武漢大学の研究グループは今回、カルシウムイオン存在下でプロタミンによりCas9/sgRNAプラスミドをナノ粒子に圧縮し、核移行シグナルペプチドと癌の細胞膜と細胞株に高発現しているヌクレオリンを標的とする抗腫瘍性アプタマーAS1411で修飾することで、チロシンキナーゼ2 (PTK2)タンパク質のノックアウトを介してFocal Adhesion Kinase (FAK/PTK2) を下方制御し、がん細胞のミトコンドリア依存性細胞死を誘導した。
  • また、E-カドヘリン、マトリックスメタロプロテアーゼ (MMP)、ビメンチンおよび血管内皮増殖因子 (VEGF)を標的とするCas9-sgRNAにより腫瘍の浸潤と転移の抑制も実現した。
7. ゲノムワイドCRISPR-Cas9 KOスクリーンにより小胞体ストレス誘導性アポトーシス抑制因子の同定
[出典] "Genome-wide CRISPR screen identifies suppressors of endoplasmic reticulum stress-induced apoptosis" Panganiban RA, Park HR [..] Lu Q. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019-06-18.
  • C/EBP相同タンパク質 (CHOP)は、ERストレス応答過程においてアポトーシスを促進する転写因子であり、 RNAiによるその発現抑制がERストレスとアポトーシスを低減することが報告されている (e. g. Int J Mol Med, 2018)。
  • Chan School of Public HealthとUniversity of Pennsylvaniaの研究グループは今回、先行研究で開発したCHOP遺伝子プロモーター配下にmCherryを組み込んだレポータ細胞を対象とするゲノムワイドCRISPR-Cas9ノックアウトスクリーンにより、その欠損がERストレス誘導性CHOP発現を亢進する遺伝子群を同定した。
  • その中でトップヒットに、ポリコーム抑制複合体 (L3MBTL2[L(3)Mbt-Like 2]とMGA [MAX gene associated])とマイクロRNA124-3 (miR-124-3)の2種類が上がってきた。前者はCHOPの発現を直接阻害し、後者はERストレス応答経路の要素であるIRE1を標的とすることで、ERストレス応答誘導性細胞死を抑制した。
8. CRISPR/Cas9によるリポカイン2 (Lcn2)のノックアウト実験により、Lcn2が前立腺癌の治療標的候補であることを同定
[出典] "CRISPR/Cas9-mediated knockout of Lcn2 effectively enhanced CDDP-induced apoptosis and reduced cell migration capacity of PC3 cells" Rahimi S, Roushandeh AM, Ebrahimi A, Samdani AA, Kuwahara Y, Roudkenar MH.Life Sci. 2019-06-18.
  • Lcn2は乳癌転移の標的とされている (Onco Targets Ther, 2018)。Guilan University of Medical Sciencesと東北医科薬科大学の研究グループは今回、Lcn2ノックアウトによりPC3細胞の増殖と遊走が抑制され、シスプラチンに対する感受性が増し、アポトーシスに至ることを見出した。