[出典] "Slide-seq: A scalable technology for measuring genome-wide expression at high spatial resolution" Rodriques SG, Stickels RR [..] Chen F, Macosko EZ. Science. 2019 Mar 29;363(6434):1463-1467. Epub 2019 Mar 28.

背景
 細胞集団の平均的な遺伝子発現を見ることから、一細胞ごとの遺伝子発現を見ることが可能になり、さらに、生体組織内での遺伝子発現の不均一性ひいては細胞型の多様性を可視化する技術の開発が進んでいる。

概要
 Broad Instituteの研究グループは今回、DNAバーコードを活用してSlide-seqを開発し、遺伝子発現の組織内空間への高精細なマッピングを実現した (実験手法と可視化例について原論文FI.g 1参照)。

Slide-seqの構成
  • はじめに、scRNA-seq技術の一種であるDrop-seqで利用されている技術に倣って、ラバーで被覆したスライドグラスに、固有のDNAバーコードを付した10 μm径のマイクロ粒子 (ビーズ)を単一層を形成するようにランダムに敷き詰める(a "puck")。
  • この時、DNAバーコードの配列はSOLiD (sequencing by oligonucleotide ligation and detection)法でシーケンシング可能であり、DNAバーコードとpuck上のビーズの位置を紐付け、ひいては解析対象組織の切片との紐付けが可能になる。
  • 次に、10-μmの新鮮凍結組織の切片をpuckにセットし、切片から放出されるmRNAをビーズで捕捉し、DNAバーコードを帯びたmRNAのライブラリーをシーケンシング解析する。
  • scRNA-seqデータセットから細胞型を同定する計算手法と、組織内の分布がランダムではない遺伝子を同定する計算手法を開発し、細胞型の分布および局所的に発現している遺伝子の同定を実現した。
Slide-seqの利用
  • Slide-seqによって、マウス海馬、小脳、嗅球、肝臓、腎臓とネフロン、および、ヒト死後組織小脳の凍結組織に基づき、大小かつ多様な組織内での細胞型の分布を明らかにした。
  • マウス小脳皮質におけるプルキンエ細胞が一層に並んだプルキンエ細胞層において分布に偏りがある遺伝子669種類を同定した。そのうち126種類は、zebrin IIの発現パターンと相関あるいは反相関の関係にあった。
  • さらに、外傷性脳損傷モデルマウスの脳において損傷を与えてからの細胞型特異的応答の経時変化を追跡し、損傷部位に近い神経細胞において長期間にわたり高発現を続ける一連の遺伝子群を同定した。
Slide-seqの普及
  • Slide-seqデータの利用サイト:Study: Slide-seq study
  • Slide-seqの初期費用は、1 puckあたりショートリード・シーケンシングの費用 (~200$ - 500$)であり、シーケンシング費用は下落し続けるとみられることから、Slide-seqは器官ごとさらには全身のマッピングへも展開可能である。
  • 作業量としては、マウス海馬の分析には ~40人・時間を要した。
  • Rodriques SG, Stickels RR, Martin CA、Chen FならびにMacosko EZを発明者として特許申請