(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/12/05)
  1. [論文] 互いに直交する誘導可能なdCas9因子群によって複合的転写調節を実現
    • Corresponding author: Lei S. Qi (Stanford U.)
    • 遺伝子ネットワークが細胞機能を調節し、その異常が疾患を引き起こす機構の解明には、個々の遺伝子の転写調節に加えて、複数の遺伝子の転写を調節しその効果を測る実験が必要である。前者が、不活性なCas9(dCas9)にエフェクター(転写活性化因子あるいは転写抑制因子)を融合することで実現されていたところ、Qiらは、dCas9システムを拡張することで、後者を実現した。
      • はじめに、HEK293細胞におけるdCas9とVPR (VP64-p65-Rta)活性化因子の融合を評価系として、効率的な遺伝子活性化を可能にする二量体形成システムをスクリーンし、アブシン酸(ABA)誘導によるABI–PYL1複合体形成と、ジベレリン(GA)誘導によるGID1–GAI複合体形成の2種類のdCas9とエフェクター融合の誘導装置を選別。
      • 次に、Sp(Streptococcus pyogenes ) dCas9とSa(Staphylococcus aureus) dCas9、ABA誘導とGA誘導、および、VPRによる転写活性化とKRABによる転写抑制とその組合せが互いに直交関係にあることを確認。
      • 同一細胞内において複数遺伝子を対象とする転写活性化/抑制が可能なことを実証。
      • 同一dCas9へのVPRそしてまたはKARBの2重のエフェクター融合を誘導する装置を、直列あるいは並列に組み合わせることで、遺伝子発現のAND、OR、NAND、およびNORの"素子"や、転写調節の抑制から活性のダイナミックレンジが広い"素子"を作出。
  2. [論文] Escherichia coli ゲノムの大規模(> 100 kb)編集の実現とその応用
    • Corresponding authors: Kaihang WangJason W. Chin (MRC Lab. Molecular Biology)
    • 研究チームは、遺伝暗号を書き換えてin vivo で非天然ポリマーを生合成するゲノム・リプログラミング(genome reprogramming)の実現を目指す過程で、大腸菌ゲノムの大規模編集を実現するREXER法を開発しGENESISを提唱した。
    • REXERはReplicon EXcision for Enhanced genome engineering through programmed Recombinationに由来する呼称であり、GENESISは、REXERを繰り返すことでゲノムを段階的に置換し全ゲノムの置換に至ることを意味する。
    • これまで、線形のdsDNAをエレクトロポレーションし、lambda-redを介した相同組換えによって、外来DNAを大腸菌ゲノムに挿入・置換することが行われてきたが、操作可能なDNAのサイズが2〜3 kb程度に留まっていた。今回、目的のdsDNAをエピソーム状のレプリコンとして細胞へ送達し、細胞内でCISPR/Cas9によって目的dsDNAを切り出し、その後、lamda-red相同組換えによって、大腸菌ゲノムへの大規模DNAの挿入を可能にした。
    • (*)[注] 関連NEWS & VIEWS 
      Irene Jarchum. “Hacking rules for E. coli.” Nature Biotechnology. 2016 Dec 7;34(12):1249.
  3. [プレスリリース] Allen Institute、CRISPR/Cas9技術で細胞構造を蛍光標識したヒトiPS細胞の販売へ