[出典] "Atlas of Subcellular RNA Localization Revealed by APEX-seq" Fazal FM, Han S [..] Chang HY, Ting AY. Cell 2019-06-14. (crisp_bio注: 本記事タイトル中の'三次元トランスクリプトーム'は論文中の'Spatial Trancriptome'の和訳に相当)

背景
  • RNAの細胞内局在と機能は緊密に連関している。RNAの非対称的分布が生物発生、タンパク質の局所的翻訳、および、クロマチンの3次元形成の基盤である。また、RNAの運命が細胞内の位置によって決定する。そこで、RNAの細胞内局在を特定するさまざまな手法が工夫されてきたが、全遺伝子の転写物の細胞内局在の解明に取り組んだ例はほとんどない。
  • 最も古典的な手法は、細胞を生化学的に細胞小器官へと分離・精製した後、RNA-seqする手法である (“fractionation-seq”)。この手法はしかし、核ラミナやミトコンドリア外膜 (outer mitochondrial membrane: OMM)のように精製不可能な細胞小器官や、コンタミネーションを取り除くことが困難な細胞小器官には適用できない。
  • FISH法によるRNA細胞内局在解析にも技術的な課題が伴う:解析対象とするRNAのタイプそれぞれに対応するプローブセットの用意が必要;細胞内局在を改変する可能性がある細胞の固定化と透過処理が必要;空間分解能の限界;観察対象のRNA-seqを伴わない
  • リボソームプロファイリング (Ribosome profiling)は、酵母と小胞体膜とOMMなどにおいて翻訳されつつあるmRNAsのプロファイリングを実現したが、ノンコーディングRNAsや、翻訳されないmRNAs (lncRNAs) の検出には至っていない。
概要
  • Stanford University School of Medicineの研究グループは先行研究でAPEX2 (Nat Methods, 2015)タグを作出し、APEX2に基づくタンパク質の近接依存性標識とタンパク質-RNAの化学的架橋を介してRNAの細胞内局在を特定するAPEX-RIP法を開発 (eLife, 2017)していたところ、今回、APEX2により細胞内RNAを直接ビオチン標識することが可能なことを示し、これまで、分離精製が困難であった細胞小器官も含む9種類の細胞小器官におけるRNA局在を、HEK293T細胞において、明らかにした。
APEX2を利用して細胞内RNAを直接ビオチン標識する
  • はじめにin vitro実験でAPEX2と同様な化学反応を供するホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ (HRP)が、ビオチン・フェノールと過酸化水素の存在化でtRNAをビオチン標識することを確認した。続いて、HEK293T細胞内にて、APEX2がHRP in vitroと同様に、APEX2から数ナノメータ以内の細胞内RNAをビオチン標識し、また、APEX2を特定の細胞小器官に向かわせることが可能なことを確認した。
  • APEX2にNLSやNESといった然るべきシグナル配列を融合することで、9種類の細胞小器官 (核小体; 核内; 核ラミナ; 核膜孔内膜; 小胞体内腔; 小胞体膜; 細胞質; ミトコンドリアマトリックス; ミトコンドリア外膜)それぞれにAPEX2を局在させたHEK293T細胞株を樹立し、ビオチン・フェノールと過酸化水素を1分間加えた後、全RNAを抽出し、RNA-seqを行なった (APEX-seq) 。
APEX-seqによりHEK293T細胞における細胞小器官RNAアトラスを作成
  • 細胞内の9区画 (核小体; 核内; 核膜孔内膜; 小胞体内腔; 小胞体膜; 細胞質; ミトコンドリアマトリックス; ミトコンドリア外膜)における~3,250遺伝子からのRNAs (> 25.000) のリストを作成した。
  • 多くのRNAsが、これまで各細胞小器官では同定されていない"orphans"であった。例えば、APEX-seqにより、核小体、核ラミナおよびOMMにおいてそれぞれ324、114および111種類のRNAsを新たに同定し、sequential smFISHなどによる検証を加えた。
APEX-seq RNAアトラスから分かること
  • RNAsは、核、ミトコンドリア外膜と小胞体、細胞質、およびその他に局在する4種類に分類でき、ほとんどのRNAsは1種類または2種類の細胞小器官に局在していた。例えば、mRNAsは細胞質か核に局在し、lncRNAsは主として核に局在した。
  • OMMと小胞体膜のトランスクリプトームはかなり重複し、RNAsの3分の2がOMMと小胞体膜の双方に局在し、双方に見られるmRNAの95%は分泌タンパク質をコードしていた。
  • 同一遺伝子からのRNAアイソフォームが異なる細胞小器官に局在することも見出した。
  • 今回のアトラスを既報のタンパク質局在データと照合し、タンパク質とそれをコードするmRNAsの分布が整合することを見出した。
  • その他に、核に豊富なmRNAsが、細胞膜に豊富なタンパク質ではなく、核スペックルと核質に豊富なタンパク質をコードしている意味、RNAの反復配列ならびにその遺伝子のゲノム上の位置と核内RNA局在との相関、核膜孔内膜におけるRNAの分布パターンと核膜孔の機能の相関、薬剤がOMMトランスクリプトームに与える作用などについても、考察を加えた。

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