[出典] "Target preference of Type III-A CRISPR-Cas complexes at the transcription bubble" Liu TY, Liu JJ [..] Doudna JA. Nat Commun 2019-07-05. [構造データ] Csm-crRNA-ssRNA complex: EMD-0454/PDB-6O1O (3.8Å 分解能; 2019-07-08時点で公開待ち); TthCsm-TEC complex (negative staining): EMD-0455  (17.0 Å 分解能)

背景
  • タイプIII-A CRISPR-Casシステムの多タンパク質複合体とcRNAとの複合体Csmは、in vitroで、相補的なssRNAオリゴヌクレオチドを認識すると、Csm3の触媒活性を介してそれを切断すると共に、CsmのCas10/Csm1サブユニットの活性を介してssDNAを非選択的に切断することが知られている。
  • この転写依存免疫応答は、転写が進行中のDNAにCsmがリクルートされるところから始まるとされているが、その後の分子機序は詳らかにされていない。
  • Csmが転写バブルにおいて、新生RNA転写物、RNAポリメラーゼ  (RNAP)によって巻き戻されたssDNA、あるいはその双方を切断するモデルが提唱されているが、CsmとRNAPの相互作用が、転写バブルのターゲッティングに関与しているか否かは不明である。
  • 宿主細胞から分離したCsmとRNAPは共精製されないと報告されているが、これは転写進行中の標的DNA配列を伴わない精製の結果である。
成果
 
Jennifer A. DoudnaらUC Berkeleyの研究グループは今回、転写バブルにおいてCsmが標的する核酸基質を特定することを目的として、クライオ電顕単粒子再構成法と生化学実験により、再構成した転写伸長複合体 (transcription elongation complexes: TECs)上で、crRNAにガイドされたCsm複合体の相互作用と活性を解析した。
  • Thermus thermophilus Csm (TthCsm)は、新生RNA転写物に結合すると、TECに係留はされるが、RNAPまたはssDNAと直接接触しない事が、明らかになった (原論文 Fig. 1引用下図左参照)。
 TthCsm CepCsm
  • TthCsmに加えてStaphylococcus epidermidis Csm (SepCsm)の生化学実験から、双方とも転写物を分解するが、転写バブルでのDNA切断は起こらないことが明らかになった。
  • これらの結果から、タイプIIICRISPRシステムの免疫応答は、転写バブルにおけるDNAの直接切断ではなく、Csm複合体のRNA転写物切断に依ることが示唆された (上図右の原論文 Fig. 5から引用したSepCsmのDNA/RNAターゲッティング模式図参照)。
  • CsmとRNAPの間に物理的相互作用が存在しないことは、タイプIII CRISPR-Casシステムがバクテリアとアーケアの多数の種に広がっていることと整合する。すなわち、各種に特有なRNAPsに適応する必要が無いことが示唆されたからである。
  • 今回得られた知見は、タイプIII CRISPR-Casシステムの機序が、RISC  (RNA-induced silencing complex)を介してRNA転写打つを切断し遺伝子サイレンシングをもたらす真核生物のRNAiパスウエイに類似していることも、明らかにした。