[出典] "VEGAS as a Platform for Facile Directed Evolution in Mammalian Cells" English JG [..] Roth BL. Cell 2019 -07-04;[NEWS] "Scientists Invent Fast Method for ‘Directed Evolution’ of Molecules" UNC Health Care and UNC School of Medicine 2019-07-04

背景
  • 2018年ノーベル化学賞に対象となった指向性進化法 (Directed Evolution: DE)は、自然界の進化に倣ってDNAの突然変異誘発による多様化と選択のサイクルを繰り返すことで、自然界にはみられない高性能な抗体、酵素、蛍光レポータとして機能する変異タンパク質の作出を可能とした (参考資料[1], [2])。 
  • これまでのDEは主としてファージ、大腸菌、酵母などをプラットフォームとして、「特定の遺伝子にランダム突然変異を誘発し、変異DNAライブラリから発現させた (display)ペプチド群から、目的とする特性を帯びたペプチド (ヒット)をスクリーンし、続いて、ヒットに対応する変異DNAに再びランダム突然変異を誘発」というラウンドを繰り返していく。
  • しかし、非哺乳類細胞をプラットフォームとして得たタンパク質は、必ずしも、ヒト細胞で目的とする特性を発揮せず、また、哺乳類細胞をプラットフォームとするDEも開発されてきたが、時間、コスト、そして、目的に特化したスクリーンシステムの開発を必要としていた。
VEGAS
  • University of North Carolinaの研究グループは今回、指向性進化の標的遺伝子を、哺乳類細胞への遺伝子導入効率、遺伝子発現効率、および突然変異率が高く、宿主細胞再感染に十分な力価で自律的に複製し、安全性も高いトガウイルス科アルファウイルス属のssRNAウイルスの一種であるシンドビスウイルス (Sindbis virus: SINV)に標的遺伝子を導入することで、ヒト細胞株をプラットフォームとする簡便で多用途なDEを確立し、VEGAS (Viral Evolution of Genetically Actuating Sequences)と称した。 
  • VEGASは、多くのin vitroシステムに優る1ラウンドあたり10-3の突然変異率と1ラウンドあたり1日の効率を達成し、ヒットのリセットやリサイクルが不要である。
VEGAS実証実験
  • 22種類の変異を導入し高濃度のドキシサイクリン存在下でも活性なテトラサイクリン調節性トランス活性化因子 (tetracycline transactivator: tTA)を7日間で、これまで殆ど解析されて来なかったGPCRの一種である霊長類に特異的なMRGPRX2の常時活性化変異体を3日間で、および、3種類のGPCR (セロトニン受容体、ドーパミン受容体および pH感知受容体)をアロステリックに活性化するナノボディーを1週間で、実現した。また、実証実験の過程で、活性化の鍵となる領域の同定も実現した。
  • [注] モデルとして使用した細胞株:HEK293T; HEK-P; HEK-Gαq/11/sΔ; HTLA; ハムスターBHK21
応用展開
  • SINVのパッケージング容量は6 kbを超えることから、高精度なCas9変異体、高性能な蛍光タンパク質変異体、合成された特定の薬剤によってのみ活性化される合成受容体 (designer receptors exclusively activated by designer drugs: DREADDs)の開発など、広範なタンパク質の人工進化に展開可能である。
参考資料