# 2020-03-04 項目6のbioRxiv投稿,Genome Biologyアクセプト版にあわせて論文タイトルなど一部改訂

1. 腸オルガノイドにCRISPR-Cas遺伝子編集を組み合わせたスクリーニングシステムによる大腸癌相関遺伝子機能解析プラットフォーム
[出典] "CRISPR-Cas9–mediated gene knockout in intestinal tumor organoids provides functional validation for colorectal cancer driver genes" Takeda H [..] Copeland NG, Oshima N. PNAS 2019-07-12. (PNAS July 30, 2019 116 (31) 15635-15644)

 大腸癌 (CRC)は、APCの変異、続いてKRASの変異とTGF-βシグナル伝達に関与するSMAD4変異 (TGF-βシグナル抑制をもたらす)ならびにTP53の変異と段階を経て腺腫から腺癌に至る。ヒトCRCでは、~80%にAPC変異が、~40%にKRASの変異が見られるが、これら高頻度変異遺伝子群の他に、低頻度であるがCRCにて有意に変異している遺伝子がCRCのゲノム解析に伴って増え続けており、診断・治療の標的とすべきドライバー遺伝子の識別するために、機能解析を急ぐ必要がある。

 金沢大学の、MD Anderson Cancer CenterとDNAFORM Precision Gene Technologies の研究グループは、Apc遺伝子のヘテロ型機能喪失変異とKras遺伝子の野生型と活性化変異型を帯びたマウスの腸腫瘍から誘導したオルガノイド (AKオルガノイド)において、先行研究でSleeping Beautyトランスポゾン変異誘発スクリーンとデータベース検索を経て同定したマウス腸癌とヒト大腸癌で共通な変異遺伝子群 (Nat Genet, 2015)の中の29遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9ノックアウトスクリーンを行い、単一遺伝子変異のCRC発生・進行・転移への関与を探った。
  • Acvr1bAcvr2a、およびArid2が腫瘍抑制遺伝子として機能する。
  • Trp53欠損単独で転移が進行する。
  • アクチビン受容体の変異とTGF-βの変異が腫瘍形成を亢進する。
2. CRISPR/Cas9 HDRを介してCLN1神経セロイドリポフスチン症のヒツジモデル作出
[出典] "CRISPR/Cas9 mediated generation of an ovine model for infantile neuronal ceroid lipofuscinosis (CLN1 disease)" Eaton SL [..] Wishart TM. Sci Rep 2019-07-09.
  • リソソーム病の一種である小児性神経セロイドリポフスチン沈着症 (INCLまたはCLN1症)は、palmitoyl-protein thioesterase 1 (PPT1)遺伝子の変異に起因する。 University of Edinburghをはじめとする英米の研究グループは、ヒトPPT1のオーソログ遺伝子にホモ型の病因変異PPT1 (R151X)を帯びたマウスモデルに代わるヒツジモデルを作出し、INCL症患者に見られる酵素活性の低下から脳の運動皮質縮小までの疾病表現型が再現されることを確認した。
3. Cas9-sgRNA導入皮質ニューロンのin vivo一細胞ジェノタイピングを実現
[出典] "In Vivo Single-Cell Genotyping of Mouse Cortical Neurons Transfected with CRISPR/Cas9" Steinecke A, Kurabayashi N, Hayano Y, Ishino Y, Taniguchi H. Cell Rep 2019-07-09.
  • Cas9-sgRNA NHEJを介した遺伝子機能喪失実験に基づく遺伝子型と表現型の対応づけにあたっては、誘発される変異が細胞集団にわたって共通ではなく、細胞ごとに異なることに留意する必要がある。
  • Max Planck Florida Institute for Neuroscienceの研究グループは今回、厚さ60μmのビブラトーム脳切片から厚さ25μmの切片を切り出し、レーザーマイクロダイセクション (J Vis Exp, 2015)により1細胞を取り出し、単一細胞PCRに続くシーケンシングを経て、一細胞ジェノタイピングを可能とした。
  • この手法により、AnkGを標的とするCasa9-sgRNAが誘発した錐体細胞一細胞における遺伝変異とタンパク質発現および形態の変化との対応関係を同定した。
4. Cas9による薬剤耐性遺伝子標識とDNAオプティカルマッピングにより、新生児集中治療室で発生するアウトブレイクにおいて薬剤耐性プラスミドを迅速追跡する
[出典] "Optical DNA Mapping Combined with Cas9-Targeted Resistance Gene Identification for Rapid Tracking of Resistance Plasmids in a Neonatal Intensive Care Unit Outbreak" Bikkarolla SK [..] Westerlund F. mBio 2019-07-09.
  • Chalmers University of Technologyなどのスエーデン研究グループが表題の手法を開発し、カロリンスカ大学病院における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ (extended-spectrum β-lactamase: ESBL)を産生するEnterobacteriaceaeのアウトブレイクにおける薬剤耐性プラスミドの伝播を解析した。
  • 新生児17人はESBL産生Klebsiella pneumoniae (ESBL-KP)に感染し、一部は、ESBL産生Escherichia coli(ESBL-EC)に感染していた。全ての分離株においてblaCTX-M-15耐性遺伝子を帯びたプラスミドを同定し、アウトブレイクの間にプラスミドの接合伝達による水平移動が起こっていなかったことを同定した。
5. マイクロバイオームにおけるCRISPRアレイの多様化とダイナミクスをロングリードシーケンシングで解析
[出典] "Long reads reveal the diversification and dynamics of CRISPR reservoir in microbiomes" Lam TJ, Ye Y. BMC Genomics 2019-07-09.

 腸マイクロバイオーム・ゲノムのIllumina’s TruSeq Synthetic Long-Reads (SLR)解析により、ショートリードシーケンシングではとらえられないCRISPRアレイ間のスペーサの共有のグラフに基づく、CRISPRアレイの多様化とダイナミクスの可視化を実現した。

6. gRNAsの効率の不均一性を前提としたモデルを構築し、
CRISPRノックアウトスクリーンニングの効率化を実現
[出典] "gscreend: Modelling asymmetric count ratios in CRISPR screens to decrease experiment size and improve phenotype detection" Imkeller K, Ambrosi G, Boutros M, Huber W. bioRxiv 2019-07-11. > Genome Biology 2020-03-02.
  • プール型CRISPRスクリーンは、標的遺伝子に特異的なgRNAsのライブラリーを細胞集団に送達することで各細胞に標的遺伝子変異を誘導する技術に基づいている。遺伝子欠損に対する細胞生存性の判定は、細胞増殖前 (以下、T0)と細胞増殖後 (以下、T1)でのgRNAsの頻度の変化 (before/after ratio)に基づいている。
  • DKFZ &  Heidelberg UniversityとEMBLの研究グループは今回、先行研究のヒト細胞株を対象とした2種類のCRISPRノックアウトスクリーンに由来するデータの再解析とシミュレーションから、細胞分裂の繰り返しと対数増殖期の間に、比較的低レベルのgRNAsがランダムに細胞集団から欠落することが、各gRNAのbefore/after ratioの間に不均整 (asymmetric)をもたらすことを見出した。そこで、asymmetric null distributionに基づくCRISPR KOスクリーンの解析用Rパッケージ(gsceend)を開発し、より小規模なgRNAsライブラリーでの実験設計を可能とした。
  • gscreendの入手先:http://bioconductor.org/packages/gscreend

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