crisp_bio 2019-08-13: 本記事が引用した解説に関して、オリジナルのNature論文に対してbioRixvに"[Contradictory Results] が投稿されたが、それに対する原論文著者グループからの反論2019-08-13にbioRxivに投稿された。
# crisp_bio 2019-08-03: 本記事のNature論文に対して、"[Contradictory Results] Evidence that APP gene copy number changes reflect recombinant vector contamination"が、2019年7月22日にbioRxivにBoston Children’s Hospital/Harvard Medical SchoolのKim J [..] Walsh CA, Lee EA.により投稿された (2019-08-03 bioRixv投稿、Nature掲載'APP gencDNAs'論文の問題点を指摘)。
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[出典] "Mosaic APP Gene Recombination in Alzheimer’s Disease—What’s Next?" Lee MH, Chun J. J Exp Neurosci 2019 May 16;13:1179069519849669.

 #オリジナル論文の筆頭著者と責任著者による解説
  • 脳は、DNAが互いに変異した体細胞のモザイク (somatic genomic mosaicism: SGM)であることが2001年に報告された (Proc Natl Acad Sci U S A. 2001)。SGMは脳に先立って獲得免疫応答システムにおいて、"V(D)J組換え"と呼ばれる体細胞遺伝子組換え (somatic gene recombination: SGR)を介して天文学的な免疫グロブリンとT細胞受容体を生成する現象に見られていた。そこで、1960年代から脳におけるSGRの存在の証拠探しが続いていたところ、著者らが2018年11月にNature誌にて、アルツハイマー病 (AD)に関連する遺伝子アミロイドβ前駆体タンパク質APP遺伝子を含むSGRが発生することを報告した [*]
  • APP SGRが発生する分子機序として、APP 遺伝子 - (転写) - APP  mRNA -(逆転写) - APP cDNA - (ゲノム組み込み/“retro-insertion”) - APP  gencDNAsのプロセスを想定し、さらに、このプロセスが繰り返されることで、一旦ゲノムに書き込まれたAPP gencDNAsのコピーがゲノム上に増殖していくとした。このプロセスの間に、エクソン間の結合組換え (intra-exonic junctions: IEJs)、SNVsおよびindels変異が誘発される。
  • APP  gencDNAsは、健常者にも孤発性AD (SAD)患者にも前頭前野皮質ニューロンにおいて見られた。注目すべきことに、SAD患者には健常人に比べてより大量でより多様な変異APP gencDNAsが存在し、SAD患者ではSGRが調節不全に陥っていることが示唆された。変異APP gencDNAsのうち家族性AD (FAD)の病因変異と同一なSNVs変異が11種類存在したが、これらがSADニューロンではモザイク状に存在したのに対して、健常人のニューロンには存在しないことが、APP  gencDNAsがSADの病因機構であることを示唆した。
  • APP  gencDNA生成には前述したAPP遺伝子の転写と逆転写酵素の活性に加えて"retro-insertion”過程でのDNA二本鎖切断が必須とされたが、詳細な分子機構の解明はこれからである。特に、APP gencDNAsがADの発症と進行に関与する分子機構の解明が待たれる。
  • APP  gencDNAsの発見は、HIVとB型ウイルス肝炎の治療法としてFDAに承認された逆転写酵素の阻害のAD療法への期待をもたらした。
  • [*] 参考記事:2018-11-26 アルツハイマー病患者と健常者の神経細胞の双方に、体細胞組み換えに由来するAPP遺伝子変異を見た