[出典]
 タンパク質構造解析は、X線結晶構造解析、NMRならびにクライオ電顕法の進歩とともに加速されてきたが、複雑な複合体タンパク質や膜タンパク質の解析には特に、サンプル調整、巨大なシンクロトロン、強力な磁石、超低温といった専用そしてまたは巨額な専用装置を必要とする。

 タンパク質構造解析の別法は、アミノ酸配列の変異が他の分子との結合親和性などの機能に与える影響を見ることから、タンパク質の3次元構造を再構成する試みである。その代表的な手法が、タンパク質配列 (アミノ酸配列)の中で、折り畳まれて三次元構造上で接触あるいは近接している残基 (アミノ酸)は互いに制約しあう (co-constraint)ことで共進化 (co-evolution)してきたという仮説のもとに、多様な生物種にわたる多数の相同なタンパク質配列 (アミノ酸配列)のアライメントから共進化してきたアミノ酸ペアを同定することで、3次元構造を再構成する手法である (Figure 1: Marks et al. Nature Biotech. 2012 参照[*1])。この手法は、計算機上で実現可能であり専用の装置を必要としないが、構造未知のタンパク質ドメインの~70%には解析に十分な相同配列データが存在しないと言われている。

 Chris SanderとDebora S. Marksが率いる Harvard Medical School, Dana-Farber Cancer InstituteならびにBroad Instituteの研究グループ [以下、USグループ;論文1]と、 スペインBarcelona Institute of Science and TechnologyのJörn M. SchmiedelとBen Lehner [以下、SPグループ;論文2]は今回、 互いに独立に、進化の結果であるアミノ酸配列データのアライメントに基づく変異プロファイルと機能の相関を解析する手法に続く網羅的な変異誘発実験に基づく遺伝型と表現型の相関解析に基づくタンパク質機能解析の手法 (Deep mutational scanning)を、タンパク質三次元構造の再構成へと展開した:
  • USグループもSPグループも、Ren SunらのUCLAの先行研究(Current Biology, 2014 [*2])に基づいている:Sunらは始めに、Streptococcus由来プロテインGのIgG結合ドメイン (GB1) を対象として、その全ての56アミノ酸の飽和変異に相当する1,045種類のDNAライブラリと、アミノ酸のほぼ全ての組み合わせ (95.1%)に相当する二重変異に相当する 509,693種類のDNAライブラリを用意し、バクテリアで発現させ、各変異体のヒトIgG-Fcへの結合親和性を評価した。次いで、この遺伝子/アミノ酸変異と機能のデータをもとに、二重変異体に見られる機能の変動が、それぞれの単一変異体に見られる機能の変動からの想定よりも顕著に大きい遺伝子(タンパク質)ペアは、その遺伝子間相互作用によって表現型に影響を及ぼすエピスタシスな関係にあると、判定した。
  • 両グループ共に、GB1のαヘリックスとβシートに見られた遺伝的相互作用の明確なパターンに注目して二次構造を予測した上で、USグループは、上方制御が最も強く現れる遺伝的相互作用に基づいて三次元構造上で接触ありと判定し、SPグループは、上方制御に加えて下方制御をもたらす遺伝的相互作用も加えたスコアにより三次元構造上で接触ありと判定した (News & Views Fig. 1参照)。
  • 両グループはこの2次構造予測と接触ペアのデータをもとに、立体構造予測プログラムを介してGB1の三次元構造を再構成し、GB1タンパク質の主鎖のコンフォメーションが、X線結晶構造解析で明らかにされていたコンフォメーションと、1.8-1.9 Åの範囲内で一致すること示した。また、hYAP65 WWドメイン (PNAS, 2012 [*3])について、全ての二重変異のわずかに~4%のデータで三次元構造を再構成可能なことを示した。
  • また、SPグループは二重変異の~33%のデータをもとにFosとJunの物理的相互作用を予測していたところ (eLIFE, 2018 [*4])、USグループは今回、FosとJunの複合体構造を再構成した。
  • 両グループは、GB1の二重変異データを5~10%までダウンサイズする実験も行ない、三次元構造に関するある程度の情報を得られることを示したが、数千万組の二重変異が想定される多くのタンパク質への展開に、ハイスループットの変異誘発法、表現型のアッセイ法、スケーラブルなアルゴリズムの開発が待たれる。
 参考文献