[出典]  REVIEW "Approaches to Study CRISPR RNA Biogenesis and the Key Players Involved" Behler J, Hess WR (University of Freiburg). Methods 2019-07-17.

 CRISPR/Casシステムの獲得免疫応答は、外来DNAの断片をCRISPRアレイに取り込むadaptation (acquisition)、CRISPRアレイから転写されたprecursor-crRNAs (pre-crRNAs)がエンドリボヌクレアーゼによって切断されcrRNAが生成され成熟するcrRNA maturation、そして、エフェクタとcrRNAの複合体による新規DNAの切断に至るinterference、の三段階*で、進行する (* SpCas9の場合の三段階についてそれぞれ、Wikipedia引用の左下図左、右下図、左下図右参照)。
CRISPR 1:3 CRISPR 2
 CRISPR-Casシステムは現在、2種類のクラス (マルチサブユニットで構成されるエフェクタ複合体に依存するクラス1と単一タンパク質のエフェクタに依存するクラス2)、6種類のタイプ、そして33種類のサブタイプの階層に分類されている。この分類体系は、前述の三段階すべてについて、関与するCasタンパク質の構造と分子機構の多様性を反映している。Universitu of FreiburgのBehlerとHessは今回、第二段階におけるcrRNAの生合成機構の解析手法、これまでに明らかになったcrRNA成熟を担う酵素と分子機構、加えて、これから解いていくべき謎、をレビューした。

レビューの構成
  • 多様なCRISPR-CasシステムにおけるcrRNA生合成の解析法:RNA-seq/differential RNA-seq; ノーザンブロッティング; プライマー伸長法; 精製した酵素と基質によるin vitro切断アッセイ; タンパク質結晶化/クライオ電顕法/電顕ネガティブ染色法); タンパク質-RNAの紫外線レーザー架橋とMS解析; 各技術を組み合わせた種々のワークフロー
  • crRNA生合成の鍵を握る酵素と分子機構Cas6 - crRNA生合成酵素の典型; Cas5d - サブタイプI-C特異的酵素; Csf5 - タイプIV特異的エンドヌクレアーゼ; RNase IIIとtracrRNAまたは反復配列内在プロモータ - クラス2タイプII; Cas12の'一人二役' - crRNA生合成とcrRNAガイドDNAターゲッティング・切断; Cas13の一人二役 - RNAガイドcrRNA生合成とエフェクタ・エンドヌクレアーゼ; RNase E, RNase J2 および PNPase - 宿主のデグラドソーム・リボヌクレアーゼから''ハイジャックされた酵素
  • crRNAの生合成に関与する酵素は3種類に大分類できる:特定のcas遺伝子にコードされたcrRNAエンドリボヌクレアーゼ;宿主エンドリボヌクレアーゼ;crRNAエンドヌクレアーゼとinterferenceエフェクタを兼ねる'一人二役'の酵素
  • これからの課題:crRNA成熟を標的とするanti-CRISPR (Acre)タンパク質は存在するか?;宿主ゲのエンドリボヌクレアーゼを'ハイジャック'する機構はどこから来たのか/crRNA成熟に特化したエンドヌクレアーゼが存在したのか?;エンドヌクレアーゼが多様であることの意味は?;タイプII-Cシステムに見られるcrRNAリピート配列;それぞれに内在するプロモーターの由来は?;タイプ I, II, III およびV において、pre-crRNA切断後の成熟に向けての最終段階を担う酵素は?;tracrRNAsまたはRNase IIIを欠損しているサブタイプV-B, V-C, V-D, V-E, V-F, V-G, V-HおよびV-U1-U5におけるcrRNA成熟の機構は?