[出典] "Continuous evolution of base editors with expanded target compatibility and improved activity" Thuronyi BW, Koblan LW, Levy JM [..] Liu DR. Nat Biotechnol 2019-07-22.

 David LiuらBroad Institute, Harvard UniversityならびにBoston Children’s Hospitalの研究グループは、指向性進化法を介して、CBEの、dsDNAの上で標的可能な塩基対C・Gの範囲の拡大と、変換効率の向上を実現した。

C・GをT・Aに変換するCBEの機序 (復習:原論文 Fig. 1-a 参照)
  •  (1) シチジン脱アミノ酵素の一種であるAPOBEC1をdCas9に融合することでdsDNA上の標的塩基対C・Gへと誘導する。(2) 標的の領域へのdCas9結合によって、dsDNAにR-ループが形成されPAMに隣接してssDNAの小さなバブルが生まれる。(3) このバブル内 (~ 5-ntの幅のウインドウ内)のCがAPOBEC1によってウラシル (U)へと脱アミノ化され、C・G塩基対がU・G塩基対へと変換される。(4) DNA修復またはDNA複製を介して、U・G塩基対がT・A塩基対へと変換される。(注) ステップ(3)の時点でG・U塩基対が細胞内在の塩基除去修復機構によってC・Gへと逆変換されることを防止するためにAPOBEC1-dCas9には予めウラシル-DNAグリコシラーゼ (UDG)阻害剤(UGI)を融合しておく。
  • 別法として、APOBEC1をCas9 D10Aニッカーゼ (Cas9n)に融合し、標的塩基対C・GのGを帯びているDNA鎖にニックを入れて、その修復過程を介してU・G塩基対へ変換するCBEもある。この場合も、APOBEC1-Cas9nにUGIを融合しておくことで、ニックが細胞内在塩基除去修復によって欠失変異に終わることを防止する。
CBEの課題
  • このところCBEのオフターゲット変換が関心を集めているが、今回は、APOBEC1の変換効率が配列のコンテクストに依存する点の改善を目指した。
  • APOBEC1はTCのCには高い活性を示すが、GCのCに対しては活性が低い。また、APOBEC1をベースにしたCBEは、ウインドウの中央に位置するC・Gに対しては変換効率50%以上を達成するが、中央以外 (PAMの遠位または近位)に位置するC・Gの変換効率は数%に下がる。
  • ABOPEC1をその他のシチジン脱アミノ酵素に変えた一塩基編集、例えば、CDA1を利用するTarget-AID (Science, 2016)、によってC・Gの変換効率が向上する (PAMから遠位のC・Gの変換効率はTaget-AIDでは20%に向上)が、APOBEC1以外を利用したCBEは、ヒト細胞内の多様な標的にわたる平均的な変換効率から見ると、APOBEC1-CBEに劣る。そこで、配列のコンテクストに依存せず高い変換効率を示すCBEの開発を目指した。
PACEの基本とCBE指向性進化への展開 (原論文 Fig. 1-b参照)
  • CBEsの構成が複雑なことから、合理的設計ではなく、指向性進化法によるCBEの進化を試みた。指向性進化法としては、David R. Liuらが2011年にNature誌に発表していたPACE (ファージに依存する持続的進化法/Phage-Assisted Continuous Evolution)を採用し、CBEの指向性進化をもたらす系 'BE-PACE'を構築した。
  • [PACE復習] M13ファージに依存するPACEは一般的に、遺伝子変異を誘発するように設計したプラスミド (mutagenesis plasmid, MP)とM13ファージの感染に必須なコートタンパク質pIIIをコードする遺伝子gIIIのプラスミド (accessory plasmid, AP)を組み込んだ大腸菌に、開発目標とするタンパク質の特性に依存してgIIIが発現することで大腸菌に感染可能なファージ (selection phage, SP)が生成される遺伝子回路を組み込む。一定容量の培養器にこの系を入れて、培養器にMPAPを帯びた大腸菌を一定速度で流入させる。この希薄化を打ち消すに足る速度で新たな宿主細胞に感染可能なファージ (SP)が残り、それ以外のSPは排出されるサイクルを自動的に繰り返すことで、目標に近づいていく (PACEのNature論文の第一著者が公開しているWebページの図を以下に引用)PACE
BE-PACE (原論文 Fig. 2参照)
  • BE-PACEは、一塩基置換に高感度で反応して活性化し流入する変異誘発プラスミドとgIIIプラスミドを帯びた大腸菌による希薄化を超えるファージ増殖を実現する遺伝子回路が必要である。
  • このために研究グループは、一塩基変換の標的としてT7 RNAポリメラーゼ (T7 RNAP)を選択し、T7 RNAPのC末端に、CBE変換を介して翻訳後のmRNAにSTOPコドンを生成するdsDNAをリンカーとしてデグロンを結合し、T7プロモーターの制御下のgIIIとルシフェラーゼ (luxAB)レポータの発現を見る系を設計した。
  • すなわち、CBE変換が起こりリンカー部分にSTOPコドンが生成されることでT7 RNAPが発現すし、gIII-luxABが高発現するが、CBE変換が起こらずSTOPコドンが生成されないとT7 RNAPがデグロンを介して分解されgIII-luxABの発現が抑制されることになる。この系は、E. coliのRNAポリメラーゼがウラシルを含むテンプレートに対応することから、DNAの複製と修復を必要としない系として成り立っている。
  • この遺伝子回路を、T7 RNAPをコードするプラスミドと、gIII-ルシフェラーゼ・オペロン、T7 RNAPのC末端を標的とするgRNAをコードするプラスミドで実現した。
PACEセレクションを最適化にするCBEの分割
  • BE-PACEにはBE2の構成を利用した。予備実験において、プラスミドにコードされたBE2は十分な活性を示したが、ファージにコードしたBE2の活性はPACEセレクションには十分ではなかったことから、ファージにはデアミナーゼとdCas9へのリンカーだけをコードし、dCas9とUGIは大腸菌に直接送達する工夫を加えた。これによって、一晩での大腸菌培養液中のファージ増殖が~10倍になり、BE2ファージの選択性が1,000倍を超えた。
進化したCBE (evolved CBE) を組み込んだBE4maxをHEK293T細胞で評価
  • APOBEC1に加えて、APOBECの系統樹から選定した祖先配列からなるデアミナーゼ (FERNYと命名)およびCDA1を組み込んだCBEそれぞれについてBE-PACEを適用し、高性能な変異型を得た。
  • evoAPOBEC1-BE4maxは、APOBEC1にH122Lと D124Nの変異を帯び、GCの並びにおけるCの変換効率を野生型APOBEC1を組み入れた場合の~26倍に、その他のコンテクストのCについては野生型と同等の変換効率を示した。
  • evoFERNY-BE4maxは、APOBEC1よりも29%小型でAPOBEC1の2種類の変異に相当するH102PとD104Nの変異を帯びたFENRYからなり、evoAPOBEC1-BE4maxと比較すると、GCにおけるCの変換効率ではわずかに上回り、その他のコンテクストにおけるCの変換効率はわずかに下回った。
  • evoCDA1-BE4maxは、A123Vの変異を帯びたCDA1によって、ウインドウ幅が広がり、変換効率も高まることを見出したが、一方で、変換効率の高いサイトではindel発生頻度が高いことを見出し、evoCDA1-BE4maxは臨床応用には向かないが、ハイスループットスクリーニングや植物育種などに向くとした。
  • HEK293T細胞での評価に加えて、進化型CBEが病原性点変異の修復や疾患モデル作出にも有効であることも示した。
  • 進化型CBEsでの実験結果から、デアミナーゼ自身の活性、CBEとしての変換効率、編集対象となるウインドウの幅、およびバイスタンダー変異の生成の間の相関関係に関する知見も得られた。
関連crisp_bio記事