(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2015/11/22)
  1. [論文] 合成crRNA(scrRNA9)を組み入れたCRISPR/Cas9システムによるヒト細胞ゲノム編集 :C. Frank Bennett (ISIS Pharmaceuticals); Don W. Cleveland (UCSD)
    • 機能的にCRISPR-RNA(crRNA)を置換し効率的なゲノム編集を実現する合成crRNA(scrRNA)を、HEK293T細胞における低比重リポタンパク質受容体遺伝子(LDLR)を標的とする実験系で、設計・開発・検証した.
    • 通常のcrRNAに対して、化学修飾を施した長さ29ヌクレオチドのscrRNAは、リボヌクレアーゼに対する安定性とtracrRNAへの結合親和性、そして、ゲノム編集効率が向上した.
    • 適切に設計したscrRNAはゲノム編集の臨床応用のプラットフォームになり得る.2種類のscrRNAを使ってCas9の活性化と抑制を組合わせることも可能である.
  2. [論文] CRISPR/Cas9によって単一細胞において必須遺伝子を中程度のスループットで評価する: J. A. Wickenden (Horizon Discovery Ltd); S. Ribich (Epizyme, Inc.)
    • RNAiによる遺伝子ノックダウンでは必須遺伝子/タンパク質を見逃す例があり、タンパク質の活性をほぼ完全に阻害するアッセイ法が必要とされていた.今回、CRISPR/Cas9技術に基づいて、特定の遺伝子が細胞の生存およびまたは増殖に必須であるか否かを、単一細胞において明確に判定する手法を開発.
    • EZH2 を標的とするCRISPR/Cas9によって、SMARCB1 ネガティブの悪性横紋筋様腫瘍細胞株(G-401細胞株)の増殖速度が当初は想定通り抑制されたがやがて回復し、細胞集団の一部にEZH2 がノックアウトされなかったかあるいはEZH2タンパク質の活性に影響が起こらないindelsが起こっていたことが示唆された.
    • 制限酵素消化と蛍光による制限酵素断片長測定を組み合わせたアッセイ法を開発し、G-401を含む3種類のSMARCB1ネガディブでEZH2に依存する細胞株と、EZH2阻害剤に感受性のないSMARCB1野生型細胞株で、検証した.
  3. [論文] Aciduliprofundum boonei 由来のcasposon Cas1タンパク質は、標的サイトに重複を生成するDNAインテグラーゼであった: Fred Dyda (National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)
    • CRISPR/Casシステムにおいて、外来DNAの断片はCas1-Cas2によって宿主のCRSPR遺伝子座に組み込まれることが知られているが、アーケア/バクテリア ゲノムの一部において、CRISPR遺伝子座や他のcas タンパク質と相関しないCas1 遺伝子が見出されている.これを、Eugene V. Koonin等はモバイルエレメントを示唆する特徴を持つことからcasposonと命名した.
    • A. boonei から精製したcasopson Cas1は、逆方向反復配列を持つ短いオリゴヌクレオチドならびに〜2.8kbのmini-casposonの標的DNAヘの組み込み活性を示した.組み込みに標的サイトの選択性は無く、標的サイトに14〜15bpの重複を生じた.
    • すなわち、CRISPR Cas1-Cas2がランダムな配列をCRISPR遺伝子座の特定のサイトに組み込むのに対して、caspson Cas1 (casposases)は、特定の配列を標的のランダムなサイトへと組み込む.