[出典] "Integrated Analysis of TP53 Gene and Pathway Alterations in The Cancer Genome Atlas" Donehower LA  et al. Cancer Genome Atlas Network. Cell Rep. 2019 Jul 30;28(5):1370-1384.e5

概要
  • 腫瘍抑制タンパク質p53 (TP53遺伝子)に関する論文はこれまでに90,000編を超えているが、その多くは、1種類の癌からのサンプルについて1~2種類の実験手法で解析した結果に基づいている。
  • Lawrence A.Donehower (Baylor College of Medicine)ら米国、フランス、スエーデンの研究グループは今回、Cancer Genome Atlas (TCGA)プロジェクトに登録されている32種類の腫瘍細胞を網羅する10,225人の患者のサンプルに由来する5種類のデータ (エクソームシーケング; 遺伝子発現; miRNA発現; タンパク質発現; DNAコピー数)に基づいて、TP53変異が腫瘍細胞のゲノム、トランスクリプトームおよびプロテオームに及ぼす統計的に有意な変化を同定した。
TCGAデータセットに見られたTP53変異プロファイルは、既存のUMD TP53データベースとほぼ整合
  • 10,225人の患者のうち3,786人にTP53変異が見られたが、腫瘍の種類によって発生頻度が著しく異なり、卵巣腫瘍と子宮癌肉腫では90%を超えた一方で、7種類の腫瘍は5%未満であった。
  • TP53遺伝子における変異プロファイルは、サンガー法シーケンシングで得られたデータを蓄積したUMD TP53データベースとほぼ整合したが、384種類の新奇変異が見出された。そのほとんどがフレームシフトを引き起こすindelsであり、69種類がこれまでシーケンシングの対象とされることが少なかったエクソン2-4と10-11に位置するSNVsであった。
TP53変異を帯びたTCGA腫瘍細胞の90%以上で両アレルから野生型アレルが消失
  • TP53変異については、ミスセンス変異に由来するタンパク質が発現し野生型に対してドミナントネガティブに作用しまた発癌性を発揮するとされ、TP53の一方のアレルにおける変異が発癌性をもたらす結果に至る。
  • 研究グループは、エクソームシーケンスデータとコピー数の2種類のデータに基づいて解析した結果、TP53変異の91%以上が一方のアレルの変異に続いてもう一方のアレルも、変異、染色体の欠失またはコピー数変化のないヘテロ接合喪失 (copy-neutral loss of heterozygosity) により機能喪失することを見出した。
P53のRNAとタンパク質の発現レベルが変異型に依存し変動する
  • 解析したTCGAの腫瘍全てについて、ミスセンス変異 (またはインフレームindels)を帯びた腫瘍におけるp53 RNAレベルは野生型TP53腫瘍からわずかに上昇した。一方で、T53短縮型変異 (ナンセンス、フレームシフトindelsまたはスプライス部位)を帯びた腫瘍では野生型TP53およびミスセンス変異TP53の腫瘍より低下した。
  • タンパク質発現レベルについては、ほとんどの変異型TP53腫瘍でのレベルが野生型TP53腫瘍よりも高かった。また、非短縮型TP53変異の腫瘍のp53レベルが短縮型TP53変異よりも有意に高かった。
TP53変異が染色体の不安性化と有意に相関する
 10,225 TCGA腫瘍の25,000遺伝子座のコピー数を分析し、23種類の腫瘍型のうち19種類について、変異型TP53腫瘍において有意なコピー数の増減を高頻度で見出したが、p53を抑制する3種類の因子 (MDM2, MDM4, およびPPM1D)はその例外であった。
 全エクソームシーケンスの変異数の中央値は、野生型TP53腫瘍で68、変異型TP53腫瘍で150となり、TP53の変異のパターンへの依存性はほとんど見られなかった。

RNA、miRNAおよびタンパク質の発現プロファイルの比較から、p53依存パスウエイの手がかりが得られる
  • 野生型TP53腫瘍で変異型TP53腫瘍に対して有意に発現が亢進している遺伝子トップ500の発現プロファイルのGSEA (Gene Set Enrichment Analysis)を介して、それらが直接間接にp53シグナル伝達パスウエイに関与していルことを確認した。
  • 変異型TP53腫瘍で有意に発現が亢進している遺伝子のトップ20の多くが細胞周期の促進に関与し、野生型TP53タンパク質で発現が抑制される遺伝子であった。
  • 同様に、野生型TP53腫瘍ではアポトーシスや細胞周期の進行の抑制に関与するmiRNAのレベルが上昇し、変異型TP53腫瘍ではアポトーシスと細胞周期を促進に関与するmiRNAのレベルが上昇していた。
  • タンパク質についても、変異型TP53腫瘍において細胞周期の促進に関与するタンパク質のレベルが有意に上昇していた。
TP53変異と相互に排他的な遺伝子変異と共起する遺伝子変異を同定

TP53変異と予後予測
  • TP53の変異自体は必ずしも腫瘍の予後予測の良い指標にならないが、TP53 RNAの発現シグナチャー (CDC20, CENPA, KIF2CおよびPLK4の4遺伝子の発現亢進)が、11種類の腫瘍の予後予測の指標となることを見出した。