[出典] "Tumor Microbiome Diversity and Composition Influence Pancreatic Cancer Outcomes" Riquelme E, Zhang Y [..] McAllister F. Cell 2019-08-08;"Bacteria on tumors influences immune response and survival of patients with pancreatic cancer"MD Anderson Cancer Center News 2019-08-08

概要
 PDACと診断された患者の生存期間は5年未満とされているが、少数が長期間生存する。The University of Texas MD Anderson Cancer Centerを中心とする研究グループは今回、長期間生存者における腫瘍のマイクロバイオームと免疫システムの特徴を探った。
  • 16S rRNAシーケングに基づいて、短期生存期間の患者 (short-term survival: STS)と長期生存期間の患者 (long-term survival: LTS)の腫瘍マイクロバイオームの組成を比較解析した。
  • LTSの腫瘍マイクロバイオームのα多様性 (alpha diversity)がより多様であり、腫瘍内マイクロバイオームのLTSシグネチャー (signature)を同定した。すなわち、PseudoxanthomonasStreptomyces、ならびにSaccharopolysporaの3属とBacillus clausiiが、発見 (discovery)コホートと検証 (validation)コホートの双方において、長期生存の高精度な予後因子であった。
  • STS、LTSおよびコントロール (健常者)からモデルマウスへのFMT (fecal microbiota transplantation)それぞれが、モデルマウスにおける腫瘍マイクロバイオームと腫瘍の増殖および免疫細胞の腫瘍浸潤に、異なる影響を与えることを同定した。
  • 本研究により、PDACのマイクロバイオームの組成が、腸マイクロバイオームとクロストークし、宿主の免疫応答と切除手術後などの経過と相関することが示された。
背景
  • 腸マイクロバイオームの組成が癌免疫療法与える影響に関する知見が蓄積される中で、研究グループは、腫瘍内マイクロバイオームの作用に注目した。
  • 膵管腺癌は早期発見が困難であり、発見されてからの5年生存率は9%に過ぎない。早期に発見され外科手術後の再発率は高く生存期間中央値は24-30ヶ月に留まる。一方で、膵臓癌患者の中に長期生存者が少数存在するが、長期生存の指標となるゲノムバイオマーカーは未だ同定さていない。
腫瘍マイクロバイオームの特徴
  • 研究グループはMD Anderson (生存期間中央値10年22名と1.6年12名)のコホートを発見コホートとし、Johns Hopkins Hospital (生存期間中央値10年以10名と5年未満10名)のコホートを検証コホートとして、STSとLTSのPDACにおけるバクテリアDNAを比較した。
  • 16S rRNA配列でみると、LTSのマイクロバイオームがより多様であった。発見コホートをマイクロバイオームの多様性の高低で2群に層別化したところ、生存期間中央値がそれぞれ9.66年と1.66年になった。この傾向は、経験した療法、ボディマス指数 (BMI)、抗生物質の服用とは独立であり、多様性が外科手術後の生存期間予後因子になり得ることが示唆された。
  • 16sRNA配列が示す多様性の他に、マイクロバイオームの組成が大きく異なることも見出し、Pseudoxanthomonas, SaccharropolysporaおよびStreptomycesの3属、ならびに、Bacillus clausiiの1種が豊富なことが、発見コホートでも検証コホートでも生存期間の予後因子であることが示唆された。
  • また、両コホートにおいて、CD8陽性T細胞を含むT細胞の密度が高く、免疫細胞浸潤とT細胞の活性化と、3種類の属の比率が相関することも見出した。
腸マイクロバイオームと腫瘍マイクロバイオームならびに免疫応答との相関
  • 3名のPDAC切除患者について、PDACマイクロバイオーム、PDACに隣接する組織および腸マイクロバイオームを比較解析し、腸マイクロバイオームがPDACマイクロバイームの25%に見られたがその他の組織には見られず、腸マイクロバイオームが膵管に定着することが示唆された。
  • 進行性PDAC患者からFMTマウスでは、腫瘍マイクロバイオームの5%が移植した腸マイクロバイオームに相当したが、それ以外に腫瘍マイクロバイオームの70%が変動することを見出した。
  • 続いて、進行PDAC癌患者、LST (進行癌5年以上の生存者)および健常者から、腫瘍移植5週間後のマウスへのFMT実験を行なった。FMT後の腫瘍サイズが、LSTと健常者からのFMTでは進行PDAC癌患者からのFMTに対して、平均70%-50%減となった。
  • 膵臓癌モデルマウスに移植したところ、ドナーのマイクロバイオームはマウスモデル膵臓癌マイクロバイオームの5%を占めるに過ぎなかったが、移植によって、膵臓癌マイクロバイオームの70%が変動することを見出し、FMTによって、膵臓癌マイクロバイオームを改変可能なことが示唆された。
  • LSTからのFMTによって CD8陽性T細胞数と活性が向上し、続いて、T細胞を除去するとFMTの効用が消滅することを見出した。一方で、進行PDAC患者からのFMTは、制御性T細胞と骨髄由来免疫抑制細胞 (myeloid-derived suppressor cells: MDSCs)の増加をもたらした。