[出典] "Allele specific repair of splicing mutations in cystic fibrosis through AsCas12a genome editing" Maule G [..] Carlon MS, Petris G, Cereseto A. Nat Commun. 2019 Aug 7;10(1):3556.

 CFはCFTR遺伝子の変異によって引き起こされる常染色体劣性遺伝疾患である。CRISPR技術によるCFの遺伝子治療として、CF病因変異の中で最も一般的なΔF508については、テンプレートとなるドナーDNAを介した相同組み換え修復が試みられているが、低効率が課題となっている。University of TrentoとKU Leuvenなどイタリアとベルギーの研究グループは今回、スプライシング異常を引き起こす3272-26A>G (c.3140-26A>G)と3849+10kbC>T (c.3718-2477C>T) の2種類の変異を、AsCas12a-crRNAによって相同組み換え修復を介することなく高効率かつ高精度に修復可能なことを示した。

ミニ遺伝子アッセイによる検証
  • はじめに、3272–26A>G変異について、エクソン18の一部、エクソン19と20の全長およびイントロン19をカバーした野生型と変異型のミニ遺伝子モデルを構築し、イントロン19にindelsまたは欠損を誘導するSpCas9-sgRNAs (ペア)とAsCas12a-crRNA (シングル)を設計・構築し、その編集結果を分析した。いずれのCRISPRシステムも正常なスプライシングの頻度が増したが、AsCas12a-crRNAで処理した中でスプライシングが修復されなかったサンプルでは欠損がほとんど見られなかった (遺伝子ミニモデルについて原論文Fig. 1/4から引用した左下図と右下図の a を参照)
CFTR 1 CFTR 4
  • 次に、 HEK293細胞にミニ遺伝子を導入し(HEK293/3272-26A>G)し、編集を試みたところ、SpCas9-sgRNAsはスプライシング異常を修復することが無かったが、シーケンシング解析から、AsCas12aが3272-26A>G変異の上流に~4-26 ntと短い欠損 (SpCas9-sgRNAsの場合は~150-200 bpと長い欠損)を誘導し、効率68%で正常なスプライシングを回復することを同定した。さらに、野生型CFTRを帯びたCaco-2細胞の編集も経て、AsCas12a-crRNAが変異型CFTRを特異的に編集し、GUIDE-seq解析でオフターゲット編集が発生していないことも見出した。
患者由来細胞とオルガノイドにおいてAsCas12a-crRNAが変異アレルに特異的に作用することを同定
  • 3272–26A>G変異を帯びたCF患者由来の初代気管支上皮細胞において、ディープシーケンシング解析により、CFTR遺伝子座の3272-26A>G変異アレルには効率78.7%でindelsが発生したのに対して、もう一方の野生型アレルにはindelsが発生しないこと、さらに、オフターゲット編集が発生しないことを、確認した。
  • 腸管オルガノイドでも、T7E1アッセイで変異型アレルには40.25%のindels誘導、野生型アレルでは0.48%という結果を得、さらに、シーケンシング解析により、変異型アレルに84.9%にさまざまな長さの欠失が発生した一方で野生型アレルについては0.9%のindelsが見られるに過ぎないことを確認した。
  • さらに、CTCFチャネルの機能回復も確認した。
CFTR 3849+10kbC>T変異
  • このスプライシング変異についても、3272–26A>G変異と同様の結果を得た。また、Cas12a-crRNAがCas9とsgRNAsによる変異修復よりも高効率・高精度であることも確認した。
AsCas12a-crRNAによる修復機構
  • シーケンシングデータとin silico解析により、イントロン領域に誘導された比較的短い欠損により、病因変異が存在する場合に3'または5'の潜在的スプライス (cryptic splice)を誘導するスプライシング調節エレメントが除去されたことによると、同定した。
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