[出典] "Efficient generation of Knock-in/Knock-out marmoset embryo via CRISPR/Cas9 gene editing" Kumita W [..] Sasaki E. Sci Rep. 2019-09-03.

 マーモセットは、ヒト疾患モデルとしてマウスに優る非ヒト霊長類(nonhuman primates: NHP)モデルとして期待されている。佐々木えりか(実験動物研究所)らは2016年に、ZFNs/TALENによる受精卵における遺伝子ノックアウトを介して初めてヒト免疫不全症モデル・マーモセットを樹立し、その後、CRISPR/Cas9によるESCsと2PN胚への遺伝子ノックインや、効率的なノックイン・ベクター作出法などを報告してきた [1-3]。研究グループは今回、CRISPR/Cas9によるマーモセット胚にて効率の良い遺伝子ターゲッティング (ノックイン (KI)とノックアウト (KO))を実現するに最適な条件を探った。
  • モデル遺伝子として、造血細胞、生殖細胞およびメラニン細胞の増殖・分化に関与するc-kit遺伝子と、ヒトにおいてその変異が自閉症や統合失調症と相関するShank3遺伝子を選択した。
  • Cas9タンパク質とcrRNA/tracrRNAのセットとCas9 mRNAとsgRNAのセットによる遺伝子KI/KOを比較し(原論文Figure 2引用下図参照)、胚盤胞で見られるモザイク効果が前者で比較的抑制されることを見出したが、c-kitを標的とする遺伝子編集は全ての胚に、KIとKOまたは不正確なKIの混在 (モザイク効果)をもたらした。Marmoset F & T
  • Cas9 HDRを介したKIに必要なドナーとして、2種類の長さ (36 ntと100 nt)のセンス鎖とアンチセンス鎖をテストし、Cas9タンパク質に36 ntのセンス鎖またはアンチセンス鎖を選択するとKIが実現することを確認した。
  • オフターゲット編集の可能性があるサイトをCRISPORにより、c-kitについて50ヶ所、Shank3について46ヶ所同定したが、そのほとんどはイントロンまたは遺伝子間領域に位置した。
  • 改善すべき点がまだあるが、CRISPR/Cas9による遺伝子KO/KIを介したヒト疾患モデルマーモセット作出の可能性が見えてきた。
[関連crisp_bio記事と論文]
  1. CRISPR関連文献メモ_2016/07/04 [第1項] ZFNsとTALENを利用してヒト免疫不全症の霊長類モデルを初めて樹立
  2. CRISPRメモ_2019/02/10_1 [第7項] CRISPR-Cas9システムによるコモンマーモセットのESCsと初期胚への安定して効率の良いノックイン
  3. "A versatile toolbox for knock-in gene targeting based on the Multisite Gateway technology" Yoshimatsu S [..] Okano H. Plos One 2019-08-27
  4. CRISPRメモ_2018/07/31 [第4項] コモンマーモセットES細胞ゲノムの全ゲノム・ハプロタイプフェージング解析:ヒト疾患細胞モデル構築の基盤に (A. E. Urbanら)
  5. CRISPRメモ_2018/12/30 [第5項] 疾患モデル:[レビュー]マカクとマーモセットをはじめとする非人類霊長類(NHP)遺伝子改変モデル樹立の動向 (J. E. Park & A. C. Silva)