[出典] Live imaging of mRNA using RNA-stabilized fluorogenic proteins. Wu J, Zaccara S, Khuperkar D, Kim H, Tanenbaum ME, Jaffrey SR. Nat Methods. 2019 Sep;16(9):862-865. Online 2019-08-30.

背景
  • 発蛍光性RNAアプタマー (以下、RNAアプタマー)によって標的mRNAの動態を細胞内で追跡することが可能になった。mRNA内に組み込んだ発蛍光性RNAアプタマーは、単独では蛍光を発しない蛍光体に結合することで、蛍光を発生する (OuelletのレビューFigure 1引用下図左参照)。これまでspinach (ほうれん草)、コーン、マンゴーといったRNAアプタマーが開発され、いつしか'Aptamer Soup'という表現も使われ始めた (addgene blog引用下図右参照)。
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  • Cornell UniversityとオランダOncode Instituteの研究グループは、これまでRNAアプタマーに利用されてきた蛍光色素が、細胞内の脂質やDNAによって非選択的に活性化される問題や、なによりも、ゲノムに組み込むことが不可能で細胞外からの導入を必要とする問題を伴っているとし、より多彩で、ゲノムにコード可能な蛍光タンパク質 (以下、FP)を利用するRNAアプタマーを開発し、'Aptamer Soup'の味を広げるに至った。
デグロン技術とRNAアプタマー技術の融合
  • FPは恒常的に蛍光を発する。研究グループは、アルギニンに富むRNA結合ペプチド (Tatペプチド: 'SGPRRPRGTRGKGRRIRR') のC末端にRGを融合することで、デグロン配列'RRRG'も帯びた二機能性ペプチド‘tDeg’を設計・合成し、FPに融合する手法に至った。
  • FP-tDegはデグロン配列を介して細胞内プロテアソーム系により分解される ('消光'に相当)。一方で、このtDegのTatペプチドに、trans-activation response element (TAR)と呼ばれる28 ntの長さのRNAヘアピンが結合すると、tDegのデクロン配列が細胞内プロテアソーム系から遮蔽され、ひいてはFPが分解せずに安定して蛍光を発生する。
  • はじめに、HEK293細胞においてtDegを結合したEYFPが設計通り細胞内で分解し、また、プロテアソーム阻害によって安定化することを確認した。
  • 続いて、TARを加えることで、EYFP-tDeg系の中のEYFPが安定して蛍光を発することを確認した。さらに、TARの中でもVariant-2が最も強力に蛍光を誘導し (コントロールの36倍)、他のFP*-tDegについても、コントロールでは蛍光が非検出であるがミニマルであるのに比して強力に蛍光を誘導することから、TAR Variant-2を多色の植物の名称を借りてPepper RNAと命名した (* mNeonGreen, mCherry, NanoLuc, tetracycline repressor protein (TetR), EZH2ならびにNF-κB)。
MS2-MCP系との比較など
  • これまでmRNAsの可視化は主として、3'-UTRsに24-48重のMS2 RNAヘアピンを挿入し、細胞内に導入したMCP-FPが多重MS2に結合する現象を利用してきた。この際、細胞質内から非結合FP(バックグラウンド)を除去するために、MCP-FPに核移行シグナル (NLS)配列を融合する必要がある。FP-tDegとPeppe RNAの系では、Pepper RNAが存在しない状態でFPが高効率で分解されることから、NLSを介したバックグラウンド抑制を必要とせず、NLSが標的mRNAの動態に影響するリスクを回避することができる。
  • U20S細胞株におけるER指向性のmRNAやβ-actin mRNAをモデルとする実証実験において、Pepper RNAの3'-UTRへの挿入がmRNAsの安定性、翻訳および局在にほとんど影響を及ぼさないことも確認した。