[出典] Epigenome editing strategies for the functional annotation of CTCF insulators. Tarjan DR,lavahan WA, Bernstein BE. Nat Commun. 2019-09-18.
背景
- ゲノム上で機能的に互いに隔離された遺伝子発現調節ユニットであるループ状の形状をとるTADs (topologically-associated domains)は、DNA結合インシュレータタンパク質CTCFによって隔離されている。このゲノムの三次元構造と遺伝子発現制御ひいては疾患との関連については、近年、CRISPRゲノム編集技術による解明が進み始めた [1-3]。
- MGH-HMS/Broad Instituteの研究チームは今回、CTCFが結合するDNA部位のCRISPRゲノム編集技術による改変に替えて、CRISPRエピゲノム編集技術によってCTCFを然るべき結合部位から排除することで、CTCFの機能解析が可能なことを実証した。
概要
dCas9-KRABの効果
- はじめに、原論文Fig. 1b/cから引用した右上図にあるように、HEK293細胞において、グリオブラストーマのオンコジーンとされているPDGFRA遺伝子座をモデルとして実験を行った。PDGFRA遺伝子座のインシュレーター領域に20 bpの間隔で位置している2ヶ所のCTCF結合サイトのうち、TAD内部に近いサイト (右上図のP1)のCTCF結合モチーフを標的*とするsgRNAに基づくdCas9-KRABの効果をChIP-seqによるゲノムワイドで解析した (* 結合特異性をより高めるために近接する8塩基を加えた配列)。
- インシュレーター部分に注目すると、P1サイトに結合しているCTCFレベルの低減 (CTCF排除の効果)が83%に達し、P1サイトを含む周辺3 kb領域におけるH3K9me3亢進が見られた (なお、Cas9に同一のsgRNAを組み合わせたCTCF結合モチーフ削除は、CTCFレベルの81%減をもたらした)。
- 一方で、P1サイトよりも20 bp上流のCTCF結合サイトに結合したCTCFのレベルとH3K9me3レベルにはコントロールとの違いが見られなかった 。ゲノムワイドに存在するその他~60,000ヶ所のCTCF結合サイトについても、CTCFレベルにコントロールとの違いは見られず、dCas9-KRABの高い選択性が示された。
- 続いて、PDGFRAの他のオンコジーン、OLIG2, TAL1, およびLMO2のインシュレーターにおける10ヶ所のCTCF結合サイトを標的とするsgRNAを使用した実験において、10ヶ所のうち8ヶ所においてPDGFRAと同様なCTCFレベル低下を確認した。
- 次に、dCas9-KRABの効果とdCas9単独の効果を比較し、CTCFレベル低減は、主としてdCas9の標的サイトへの結合に因り、KRABによるクロマチン抑制効果が従であることを明らかにした。
- さらに、dCas9-KRABを一時的に発現させ、dCas9-KRABの発現が見られなくなる12日目まで継代培養した上で測定を繰り返したところ、CTCFレベルとH3K9me3レベル共に、コントロールと同レベルに戻っていたことから、より安定して細胞分裂後の娘細胞にも編集結果が継承される手法を探るに至った。
dCas9-DNMT (dCas9-DNMT3AとdCas9-DNMT3A3L)の効果
- dCas9-DNMTを3日間発現させたところ、CTCF結合モチーフの20-40%がメチル化され、また、DNMT3A3Lがより効果的であった。CTCFレベル低減効果の持続性については、12日間継代培養後も、DNAメチル化が~20%維持され、CTCFレベルも20%低減が維持されていた。
- さらに、dCas9-KRABによるH3K9me3にdCas9-DNMTによるDNAメチル化を続けるいわゆる'hit-and-run'遺伝子サイレンシング戦略を試行し、特に、dCas9-KRAB/dCas9-DNMT3A3Lの組み合わせによって、顕著なDNAメチル化亢進とCTCFレベル低減が実現し、27日の継代培養において、12日後に効果がピークに達したが、27日後にも効果が維持されることを見出した。
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