[出典] Decision-Making in Cascade Complexes Harboring crRNAs of Altered Length. Songailiene I, Rutkauskas M [..] Siksnys V, Seidel R. Cell Rep. 2019-09-17.

背景
  • Escherichia coliStreptococcus thermophilusなどに見られるタイプI-E CRISPRシステムでは、マルチサブユニット (Cse11Cse22Cas76Cas51Cas6e1)のCascadeが、宿主CRISPRアレイに記憶されていたスペーサに由来するcrRNAと複合体を形成し[*]、侵入dsDNAに非特異的に結合し、dsDNA上をスライドしながらPAMとプロトスペーサを探索・認識し、dsDNAを巻き戻し、crRNAが相補的なDNA鎖 (標的鎖)と塩基対合し、非標的DNA鎖にR-ループを生成する [1-2] [*注: サブユニットの中で6連のCas7が61-ntの長さのcrRNAの受け皿として機能する]。
  • Cascade-crRNAの標的dsDNA認識以後を少し詳細に見ると、R-ループがスペーサのPAM遠位の末端から5 bpまで伸びるとCse1-Cse2がR-ループの形をロックし (R-loop locking)、I-Eシステムのヘリカーゼ・ヌクレアーゼCas3がリクルートされ、続いて、Cas3がdsDNAを切断するに至る。
  • CascadeはタイプIIに見られるシングルドメインのエフェクターに比べてPAMによる拘束が緩やかで[**] 、また、より長いスペーサを受容し標的特異性が高いことを期待できる [**注: S. thermophilusのCascade (StCascade)では、スペーサの上流に隣接するAまたはTの1ヌクレオチド]。
  • さらに最近、Cascadeトランスポゾン・システムを利用することでDSBを介さず高精度なノックインを実現可能なことが報告された [3]
成果
  • Vilnius University, Universität LeipzigならびにMartin Luther University Halle-Wittenbergの研究グループは今回、StCascadeに15~57-ntの範囲の長さのスペーサを含むcrRNAを結合したCascade複合体を作出し、27 bpを超えるスペーサからR-ループが生成され始め、そこから57-ntに至るまで、スペーサの長さに応じたR-ループが形成されることを見出した。
  • また、長いcrRNAが結合したCascade複合体の標的DNAに対する結合親和性が、標準的な33 bpの長さのcrRNAが結合したCascade複合体のそれよりも強いことも見出した。
  • 一方で、R-loop lockingはcrRNAとdsDNA内の標的鎖との間の28-33の領域の塩基対合によって発生し、その後のCas3によるdsDNA切断にまでに至る過程には、長いスペーサに応じて伸長した分のR-ループは関与しないことを見出した。すなわち、伸長したスペーサは、標的認識の特異性と編集活性に影響することはなく、期待していた長いcrRNAによる編集精度向上は見られなかった。
[関連crisp_bio記事]
  1. CRISPRメモ_2018/06/09 [第1項] タイプI-E CRISPR Cascade-Casシステムによる二本鎖DNA切断の構造基盤
  2. CRISPRメモ_2018/04/18 [第1項] 大腸菌のタイプI-E CRISPR-Casシステムが標的DNAを切断するに至る過程を初めてin vivoで解析
  3. 2019-06-14 短縮型I-F CRISPR-Casを帯びたトランスポゾンにより、DSBを介さず大腸菌ゲノム標的サイトにDNAをノックイン