2017年08月

1.初代培養細胞において、低分子によって、CRISPR/Cas9による相同組換え修復(HDR)効率を大きく改善

  • [出典] “Small molecules enhance CRISPR/Cas9-mediated homology-directed genome editing in primary cells.” Li G, Zhang X, Zhong C, Mo J, Quan R, Yang J, Liu D, Li Z, Yang H, Wu Z. Sci Rep. 2017 Aug 21;7(1):8943.
  • ブタ胎児線維芽細胞において、低分子Scr7L755507またはレスベラトロールによるHDR亢進効果を評価。EGFPレポーターシステムで評価したHDR効率は、コントロールに対して、Scr7L755507が2倍、レスベラトロールが3倍に。ノックインの達成効率での評価では、コントロールの26.1%から50%程度までに改善。この低分子によるHDRの亢進は、細胞周期との同期やドナーDNAの最適設計などの手法と併用可能。

2.耐寒性/耐熱性のKluyveromyces marxianus酵母株ゲノム編集の包括的ツールセットの開発

  • [出典] “Development of a comprehensive set of tools for genome engineering in a cold- and thermo-tolerant Kluyveromyces marxianus yeast strain.” Nambu-Nishida Y, Nishida K, Hasunuma T, Kondo A. Sci Rep. 2017 Aug 21;7(1):8993.
  • 嫌気性条件下のみでアルコール発酵し生育が早いと言ったS. cerevisiaeには無い特徴を有する酵母K. marxianusにおいて、NHEJに関与するタンパク質のヌル変異体をTarget-AIDによる遺伝子(Nej1とDnl4)への変異導入により作出し、HRD比率を高めて、マーカーレスのCRISPR-Cas9によるDNA断片挿入を実現。

3.多様な糸状菌の遺伝子破壊に利用可能なCRISPR-Cas9ゲノム編集手法を開発

  • [出典] “Development of a versatile and conventional technique for gene disruption in filamentous fungi based on CRISPR-Cas9 technology.” Zheng YM, Lin FL, Gao H, Zou G, Zhang JW, Wang GQ, Chen GD, Zhou ZH, Yao XS, Hu D. Sci Rep. 2017 Aug 23;7(1):9250.
  • 糸状菌は薬理活性化合物の供給源であるが、ゲノム編集による生理活性代謝産物の増量と多様化が広がれば、その価値がさらに上昇する。CRISPR-Cas9による糸状菌ゲノム編集がこれまでのモデル菌株に限られていたことに対して、今回、研究が進んでいなかったNodulisporium sp. (No. 65-12-7-1) および子嚢菌門のAspergillus oryzae NSAR1およびSporormiella minima (No. 40-1-4-1)、さらにはTalaromycesMyrotheciumのゲノム編集にも展開可能な手法を確立した。
  • 本手法では、Cas9を発現する菌類に、内在するU6プロモーターを必要としないin vitro転写gRNAと、リニアな選択マーカー遺伝子カセットを含むDNAフラグメントを同時に送達する。このDNA断片は、形質転換体の選択に役立つだけでなく、自身をCas9切断サイトに挿入することで標的の破壊効率を顕著に上昇させることも見出した。

4.CRISPR/Cas9によるシンプルで安定なヒトES細胞の遺伝子ノックアウト法

  • [出典] “An efficient method for generation of Knock-out human embryonic stem cells using CRISPR/Cas9 system.” Bohaciakova D, Renzova T, Fedorova V, Barak M, Bosakova MK, Hampl A, Cajanek L. Stem Cells Dev. 2017 Aug 23.
  • p53を標的とする実証実験
  • [注] crispr_bioの環境で閲覧できたのがアブストラクト限りでした。

5.[出典] “Self-cleaving ribozymes enable the production of guide RNAs from unlimited choices of promoters for CRISPR/Cas9 mediated genome editing.” He Y et al. J Genet Genomics .Available online 24 August 2017,

  • [注] crispr_bioの環境で閲覧できたのがタイトルを含む書誌事項限りでした。

1.分裂酵母の代謝工学:CRISPR-Cas9ゲノム編集によりグルコースとセロビオースからD型乳酸(D-LA)生産

  • [出典] “Metabolic engineering of Schizosaccharomyces pombe via CRISPR-Cas9 genome editing for lactic acid production from glucose and cellobiose.” Ozaki A, Konishi R, Otomob C, Kishida M, Takayama S, Matsumoto T, Tanaka T, Kondo A. Metab Eng Commun. Available online 24 August 2017.
  • S. pombeは低pH環境に耐性を示す特徴があるが、相同組換え効率が低いことから、有用物質の効率的生産をもたらすゲノム編集が困難であった。今回、CRISPR/Cas9技術によりピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC-)、アルコール脱水素酵素(ADH-)およびグリセロール-3-リン酸脱水素酵素(GPD)をコードする遺伝子をノックアウトし、E. Coli由来のMhpFEutE、およびL. plantarum由来のD-乳酸脱水素酵素遺伝子を導入することで、グルコースからの効率的D-LA生産を実現した0.71 g-D-LA / g-glucoseさらに、β-グルコシダーゼの細胞表面発現によって、セルビオーズからのD-LA高収量も実現した30 g/Lから22.8 g/L

2.CRISPR/Cas9ゲノム編集により脆弱X症候群モデルラットを作出

  • [出典] “Loss of FMRP Impaired Hippocampal Long-Term Plasticity and Spatial Learning in Rats.” Tian Y et al. Front Mol Neurosci 28 August 2017.
  • 脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)遺伝子Fmr1の第4エクソンを標的とするCIRPSR/Cas9システムにより、脳内にFMRPが存在しないFmr1 KOラットを作出し、海馬の長期可塑性、空間認識および社会的相互反応が損なわれるFMRPの症状再現も確認。

3.分子シャペロンDNAJB6Hsp70が協働してα-シンクレイン(α-syn)の凝集を抑制する

  • [出典“The molecular chaperones DNAJB6 and Hsp70 cooperate to suppress α-synuclein aggregation.” Aprile FA, Källstig E, Limorenko G, Vendruscolo M, Ron D, Hansen C. Sci Rep. 2017 Aug 22;7(1):9039.
  • 神経組織に存在するα-syn凝集を包含したレビー小体はパーキンソン病の顕著な特徴である。一方で、健常者の神経細胞には高濃度のα-synが存在するが、レビー小体は存在しないことから、α-syn凝集を抑制する機構を同定することが重要である。
  • 今回、α-synを発現するHEK293T細胞において、CRISPR/Cas9によりDnaJタンパク質遺伝子DNAJB6をノックアウトし、α-synの凝集が顕著に亢進した。
  • DNAJB6を再導入すると、α-syn凝集がKO前の細胞と同程度へと提言したが、不活性なDNAJB6変異体(H31Q変異)を導入しても凝集が低減しないことから、α-synの抑制はDNAJB6Jドメインに依存するとした。J-ドメインは、アンフォールド状態とミスフォールドのタンパク質をHsp70タンパク質へ輸送する機能があることが知られているところ、Hsp70の阻害実験から、DNAJB6Hsp70が協働してα-syn凝集を抑制する機構が想定された。

4.GWASから推定された新奇lncRNACRISPR/Cas9編集による量的形質(血圧とQT間隔)ヌクレオチドのポジショナルクローニング

  • [出典] “Positional cloning of quantitative trait nucleotides for blood pressure and cardiac QT-interval by targeted CRISPR/Cas9 editing of a novel long non-coding RNA.” Cheng X, Waghulde H, Mell B, Morgan EE, Pruett-Miller SM, Joe B. PLoS Genet. 2017 Aug 21;13(8):e1006961.
  • ラットのQT間隔遺伝子座は、RNO10<42.5 kb領域に絞り込まれているが、そこにはタンパク質コーディング配列変異が存在せず、新奇なlncRNARffl-lnc1)内の連続的な19bpindel多型の存在が見出されている。今回、CRISPR/Cas9Rffl-lnc1を破壊(-19 bp)するとQT間隔が短縮され血圧が上昇するが19 bpをノックインすると修復されることを見出した。

5.感染後のHIV-1の細胞核へ移行と核内の動態を可視化し、その調節機構を探る

  • [出典] “Dynamics and regulation of nuclear import and nuclear movements of HIV-1 complexes.” Burdick RC, Delviks-Frankenberry KA, Chen J, Janaka SK, Sastri J, Hu WS, Pathak VK. PLoS Pathog. 2017 Aug 21;13(8):e1006570.
  • 可視化からHIV-1の動態モデルを構築(挿入図参照)し、CRISPR/Cas9によるノックアウト実験で、細胞核内でのクロマチンへの係留にLEDGF/p75のインテグラーゼ結合ドメインが不要であることを同定。

HIV

  • 村田武士(千葉大学)
  • 挿入図はクライオ電顕像から再構成された酵母V-ATPaseの構造(PDB ID 3J9T35060001
  • 回転触媒機構を内蔵する液胞型H+-ATPase(V-ATPase)の外周固定子サブユニットには、数種類のアイソフォーム(C1;C2;E1;E2;G1;G2;G3;a1;a2;a3;a4)が存在するが、これらは、ATPaseの構成と分解に重要な役割を担っていると思われる.
  • V-ATPaseの構造と機能の理解を深めるために、ヒトV-ATPaseの外周固定子のアイソフォーム群(E1G1;E1G2;E1G3;E2G1;E2G2;E2G3;C1;C2;H;a1NT;a2NT)を発現・精製し、それぞれの間の相互作用を解析した.
  • 異なるアイソフォーム間の相互作用が、他のサブユニットのアイソフォームとの間の相互作用に類似していることを見出した.
  • 今回のin vitro 解析によるとアイソフォーム間の結合親和性の差異は小さいが、この差異が今後のV-ATPaseの機能構造解析に重要な意味を持っていると考えられる.
論文→Rahman, S. et al. "Binding interactions of the peripheral stalk subunit isoforms from human V-ATPase." Biosci. Biotechnol. Biochem. 2016 May;80(5):878-90. Published online 2016 Feb 10.
関連ブログ記事[PDIS] V1分子回転モーターのADP待ち構造とADP解離待ち構造から回転モデルを構築 (創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/11/04) Corresponding author 村田武士/千葉大

[出典] “Genomic Determinants of Protein Abundance Variation in Colorectal Cancer Cells.” Roumeliotis TI et al. Cell Rep 2017 Aug 29;20(9):2201–2214. bioRxiv. Posted December 9, 2016.

概要

  • ゲノム変異がタンパク質ネットワークに、ひいては細胞生理活性に、どのようにどのような影響を与えるかを理解することから、癌の不均一性の由って来る所以を理解することが可能になる。サンガー研究所とEBIを中心とする英、オランダ、独の共同研究チームは今回、ゲノム変異と癌の不均一性とをタンパク質発現量を介して紐づけることを目指して、50種類の大腸癌細胞株のパネル(COREAD)を対象とするゲノミクス、トラスクリプトミクスおよびプロテオミクスの統合的解析を行った。
  • COREADについてはこれまでに、全エクソームシーケンシングと、遺伝子発現、コピー数およびメチル化のプロファイリングが行われていたところ、今回、アイソバリック標識法(isobaric labeling)とトライブリッド質量分析によって、大腸癌細胞株あたり平均9,410種類のタンパク質と11,647種類のリン酸化ペプチドを、細胞株間で相対的に定量した。
  • ゲノム、トランスクリプトームに加えてプロテオームとリン酸化プロテオームのデータセットにさらに公的データベース群を融合することで、下図左のGraphical AbstractFigure 1にあるように、発現量から見たタンパク質の共変異ネットワーク(Protein co-variation network, Figure 1に拡大図)を構築し、遺伝子変異がタンパク質の発現量に直接与える影響(direct effects)と変異タンパク質から相互作用するタンパク質へと広がる間接的影響(collateral effects by protein co-regulation)を分析し、さらに、癌細胞のプロテオームの特徴から抗癌剤応答を予測するPharmacoproteomic Models(下図 Figure 7)を構築した。

Protein Abundance Variation in Colorectal Cancer Cells 1 Protein Abundance Variation in Colorectal Cancer Cells 2

タンパク質間相互作用

  • プロテオームのデータ解析では、COREADパネル内で発現量が共変化するタンパク質(co-variation)に注目した。COREADパネルの80%以上の細胞株に存在した8,295タンパク質のペアワイズ相関に基づくタンパク質間相互作用のネットワーク解析をweighted correlation network analysis (WGCNA)によって行った。
  • WGCNAネットワークは、既知のタンパク質複合体やタンパク質間相互作用(CORUM登録の7,248種類とSTRING登録の20,969種類)を含む87,420組のタンパク質間相互作用で構成されたが、ネットワーク上で、284種類のタンパク質モジュール(メンバータンパク質数3〜1,012)を識別するに至り、それぞれにGOを始めとする公共データベースを参照し機能アノテーションを加えた。
  • 挿入図Figure 1は、大腸癌タンパク質ネットワークにおいて、メンバーのタンパク質数が50個以上のモジュールと主要なアノテーションである[参照DB:GOCORUMKEGGGOBP-slimGSEAおよびPfam
  • このWGCNAネットワークにタンパク質発現量をマップすることで、各細胞株の生物学的特徴を判別可能にするco-variomeを構築した。リン酸化プロテオームのデータ解析からは、共リン酸化タンパク質の分析により、キナーゼと基質の相関をde novoで予測可能にする手がかりを得た。

ゲノム変異とタンパク質発現量の相関

  • 遺伝子変異とDNAコピー数異常がタンパク質発現量に直接影響を及ぼすのはプロテオームの一部であることが示唆された。例えば、ミスセンス変異は、TP53を例外として、タンパク質発現量にはほとんど影響を与えない。また、ナンセンス変異は、mRNAの分解に加えて、翻訳そしてまたは翻訳後修飾の過程で、タンパク質発現のさらなる下方制御につながって行くことが示唆された。
  • 特定の遺伝子の変異の影響が、タンパク質間相互作用を介して、他の遺伝子の産物タンパク質へと及んで行くという仮説をたて、強く共変化するタンパク質ペアからなるmutation-vulnerable networkを構築した。このサブネットワークは特定のタンパク質発現の遺伝子変異による下方制御によって、それと相互作用するタンパク質発現が下方制御される関係を表現しており、306タンパク質と278の相互作用で構成され、少なくとも10種類のよく知られたタンパク質複合体を含んでいる。
  • 例えば、BAF複合体およびPBAF複合体と、クロマチン再編成タンパク質(ARID1A, ARID2およびPBRM1)との関係であり、CRISPR-Cas9によるノックアウト実験で、この関係を検証した。また、タンパク質発現の調節が、mRNAレベルの調節とは独立な現象も改めて確認した。

プロテオミクスに基づいたCOREADの分類

  • 細胞株間で変異が大きい上位30%のタンパク質2,161種類の発現量プロファイルに基づいたCOREAD大腸菌細胞株のクラスタリングを試み、これまでの大腸癌分類体系を整合しつつより精密なサブタイプの定義が可能なことを示した。

薬剤応答推定モデルの構築

  • ゲノム変異、メチル化、遺伝子発現、プロテオームおよびリン酸化プロテオームの特徴を入力とするElastic Net Modelに基づく、50種類の大腸癌細胞株の抗癌剤265種類(市販薬48種類、治験薬76種類, 実験的低分子141種類)に対する薬剤応答モデルを構築・評価した。その結果、挿入図Figure 7-Bにあるように抗癌剤ごとに特異的なデータモデルによって薬剤応答が推定されることを見出した。プロテオミクスに基づくデータモデルでは、薬剤排出トランスポーターABCB1ABCB11の発現量が特徴量となっていた。

COREADプロテオミクス・リン酸化プロテオミクスデータ・FTPサイト


関連論文


1.CRISPR/Cas9によるContradictory Results病因変異修復論文(*)に対する”Contradictory Results”

  • [出典] “Inter-homologue repair in fertilized human eggs?” Egli D, Zuccaro M, Kosicki M, Church G, Bradley A, Jasin M. bioRxiv Posted August 28, 2017.CC-BY-NC-ND 4.0 International license
  • (*) “Correction of a pathogenic gene mutation in human embryos.” Ma H et al. Nature. 2017 Aug 24;548(7668):413-419. Published online 02 August 2017
  • [手法] 肥大型心筋症病因変異遺伝子MYBPC3GAGTを帯びた精子と野生型(正常)卵母細胞に由来する受精卵のS期にCRISPR/Cas9を送達;[結果] CRISPR/Cas9を介した二本鎖DNA切断の相同組換え修復過程において、修復テンプレート用合成DNAではなく、野生型母系正常遺伝子配列によって病因変異が修復され、また、モザイク発生は抑制され、オフターゲットも非検出であった。
2.歯周病菌Porphyromonas gingivalisCRISPRシステムにおいて外来DNA由来スペーサーはわずかに1.1%である
  • [出典] “Investigation of potential targets of Porphyromonas CRISPRs among the genomes of Porphyromonas species.” Watanabe T, Shibasaki M, Maruyama F, Sekizaki T, Nakagawa I. PLoS One. 2017 Aug 24;12(8):e0183752
  • P. gingivalis 64ゲノム(新規シーケンシング51ゲノム、公共DB由来13ゲノム)とPorphyromona属のその他の種46ゲノムを解析し、15タイプのCRISPR/CasシステムとCasを伴わない3種類のCRISPR遺伝子座を同定(P. gingivalisには6タイプ存在)。
    Porphyromonas 1 Porphyromonas 2
  • 同定したCRISPRアレイ中の6,896個のスペーサーをPorphyromona属ゲノムデータおよび国際塩基配列データベースのバクテリア/アーケア/ウイルス配列データと照合した結果、1,720個のスペーサー(24.9%に相当)の相同配列がPorphyromona属ゲノムに存在した一方で、Porphyromona属以外に相同配列が存在したスペーサーはわずかに74個(1.1%に相当)であり、CRISPR/Casシステムが、外来ファージ・プラスミドに対する獲得免疫応答以外の免疫機能を有していることが示唆された。

3.CRISPRシステムによる集団免疫がバクテリア集団におけるファージ感染を制限する

  • [出典] “CRISPR-based Herd Immunity Limits Phage Epidemics in Bacterial Populations.” Payne P,  Geyrhofer L, Barton NH, Bollback JP. bioRxiv. Posted August 28, 2017. No reuse allowed without permission

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