2017年10月

[出典] Hammond AM, Kyrou K, Bruttini M, North A, Galizi R, Karlsson X, Kranjc N, Carpi FM, D'Aurizio R, Crisanti A, Nolan T. “The creation and selection of mutations resistant to a gene drive over multiple generations in the malaria mosquito” PLoS Genet. 2017 Oct 4;13(10):e1007039
  • 遺伝子ドライブは昆虫集団を制御する強力なツールである。著者らは最近、マラリアを媒介するハマダラカの雌の繁殖力に必須の遺伝子を標的とするCas9のコンストラクトを送達することで遺伝子ドライブを実現した(Nat Biotechnol, 2016)。遺伝子ドライブ・コンストラクトは、配偶子形成時に自身と遺伝子破壊を、染色体から染色体へとコピーし(ホーミング)することで、標的集団の繁殖を長期にわたり抑制・抑止するが、一方で、遺伝子ドライブに対する耐性を獲得した亜集団が発生することも想定できる。
  • ケージ飼育において、標的遺伝子を抑制する遺伝子ドライブは4世代以上集団に急速に浸透したが、今回、25世代にわたり観察したところ、遺伝子ドライブの割合が、初期の増加から徐々に徐々に減少へと向かうことを見出した(下図参照)。
GeneDrive 1
  • この現象に相応して、Cas9によって標的遺伝子に小さな変異が発生し、その後、標的遺伝子がCas9に対して耐性を獲得し、機能を回復した。こうした変異は、遺伝子ドライブが存在するにも関わらず、正の選択のもと増加し続ける。

[出典] Nachmanson D, ~ Kennedy SR, Risques RA. “CRISPR-DS: an efficient, low DNA input method for ultra-accurate sequencing” bioRxiv Posted October 21, 2017.

CRISPR-DSとは
  • 今回の責任著者の一人でもあるScott R. Kennedyらワシントン大学の研究チームは先行研究(PNAS, 2012)で、次世代シーケンシング(NGS)の一法としてPCRやシーケンシングに由来するエラーを排除して極めて稀な変異を検出可能とする”Duplex Sequencing(DS)”法を開発していた。DSは超高感度であるが、大量のDNAを必要とする弱点があったところ、今回、DSにCRISPR/Cas9を組み合わせて、その弱点を解消し、癌病理解析や法医学解析などに多い微量なDNAからの高感度・高精度なDNA変異判定を可能とした。
CRISPR-DSの手法と従来DSとの比較(下図参照)
  • DSの変異検出は極めて高感度であるが、アンプリコンシーケンシングと異なり(*)標的ゲノム領域とプローブとのハイブリダイゼーションにより標的をキャプチャー(ハイブリッドキャプチャー)するプロセスを介することからオンターゲット・リードの比率が5-10%に止まり、大量のDNAサンプルを必要とする。(*) Target Capture for Next Generation Sequencing (NGS)クリニカルシーケンシングの技術開発と実運用を目指して(かずさDNA研究所技術開発部ヒトDNA解析グループ)参照
  • 今回、CRISPR/Cas9 による切断とSPRIビーズによる切断されなかったDNAを排除するサイズ選択を経ることで、標的の効率良い濃縮を実現し、DNAサンプルの超音波破砕から始まるDSに対して、時間とコストを大幅に低減した。CRISPR-DS
CRISPR-DSの実証実験
  • TP53のコーディング領域とイントロン領域(上図 a参照) を標的として;DNAフラグメントのサイズを〜500 bpに設定;10-250 ngのDNA量で従来DSと性能比較
  • 正常な膀胱組織由来DNA解析:オンターゲットリード率が~5%から>90%へと大きく改善;DNA25ngの解析がDNA250ngの従来DSに相当;短いフラグメントへの偏りが無い・バンド/ピークが明瞭でシーケンシング前にライブラリーの品質判定可能・フラグメントが標的全領域を一様にカバー
  • 卵巣癌患者由来腹水由来DNA解析:DNA 100ng(従来DSで必要であったDNA量の30-100分の1)から、従来DSで同定したTP53変異全てを同定

(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/03/11

  1. [NEWS AND VIEWS] Cas9はオフターゲットサイトでグリップを失う:Charles A. Gersbach (Duke U.)
    • オフターゲットを検出限界以下へと抑制することに成功したSlaymakerとZhangらのeSpCas9と、KleinstiverとJoungらのSpCas9-HF1は、Nature 誌のNEWS & VIEWS「野生のCas9を飼い馴らす」で取り上げられたが、再びNature Biotechnology 誌のNEWS & VIEWSで取り上げられた.
    • Cas9とPAMおよびsgRNAと標的配列との間で特異的相互作用に加えて、Cas9とDNA骨格の間の非特異的相互作用によって、Cas9-sgRNAと標的との結合が安定になる.eSpCas9とSpCas9-HF1のいずれも、Cas9に変異を導入して非特異的相互作用を弱めて、オンターゲットサイトへの結合の強さは維持したまま、オスサイトへの結合を弱めようとする戦略であるが、変異導入の対象が異なったところが興味深い.
    • 2手法は、CRISPRによるゲノム編集においてもっとも普及しているCas9と同様な送達方法とsgRNAを利用できるため、これまでのオフターゲット抑制法が実用上は種々制約があったために普及しなかったのに対して、普及して行く事であろう.また、この手法をさらに他のCas9より小型のCasへと展開する事も考えられる.
    • 2手法のオフターゲット作用は検出限界を下回ったが、膨大な数の細胞が編集対象になる臨床応用の観点からは、今回オフターゲット作用の判定に用いられた次世代シーケンシングの精度を上回る高感度で高精度なオフターゲット作用判定技術の開発が待たれる.
  2. [論文] Cas9 mRNAを脂質ナノ粒子で送達し、チロシン血症モデルマウスの治療を実現 :Wen Xue (RNA Therapeutics Inst./UMASS);Daniel G. Anderson (David H. Koch Inst. for Integrative Cancer Research/MIT)
    • CRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウトによる遺伝子治療はモデル動物で成功例が蓄積されてきているが、相同組換え修復機構による臨床応用の可能性を示すような遺伝子修復の成功例は未だない.研究チームは、フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH)の変異が病因と成る遺伝性チロシン血症のマウスモデル肝細胞を標的として、ハイドロダイナミック遺伝子導入法を利用したCRISPR/Cas9によるFAH修復を試みたが、修復率が肝細胞の0.4%にとどまっていた.
    • 今回、siRNAの送達で実績があった脂質ナノ粒子C12-200を利用してCas9 mRNAを、sgRNAと修復用テンプレートをアデノ随伴ウイルスを使って、Fahmut/mut の遺伝性チロシン血症マウスモデルに送達し、Fahのスプライシング変異を修正することを試みた.
    • 1回の処置で、Fah陽性の肝細胞が出現し、体重減少や肝臓障害といった症状も緩和された.肝臓における代謝異常症や血友病の治療には、正常なタンパク質が3〜7%回復すると効果があるとされているが、Fah陽性肝細胞は肝細胞の6%以上に達していた.また、Cas9 mRNAを送達する事でCas9を一時的に発現させることになり、オフターゲット作用も低減された.
  3. [論文] Cas9-sgRNA複合体またはCreリコンビナーゼを脂質ナノ粒子で送達し、効率的ゲノム編集を実現:David R. Liu (Harvard U.);Qiaobing Xua (Tufts U.)
    • 生物還元性の脂質ナノ粒子(bioreducibe lipid nanoparticle、以下BLN)をコンビナトリアル合成し、タンパク質の送達担体として評価した.この陽イオン性のBLNは、混合するだけで、負に帯電したGFPを結合させたCre、ならびに、陰イオン性のCas9-sgRNA複合体(以下、RNP)を、内包する.
    • タンパク質を内包したBLNを細胞と混合すると、エンドサイトーシス過程を経て細胞内に取り込まれるが、エンドソームを回避し、細胞質内でタンパク質を放出する.
    • HeLa-DsRed細胞にGFPを結合したCreの送達と、GFPを発現しているHEK細胞のEGFPレポーター遺伝子を標的するRNPの送達実験で、BLNの送達性能を実証;合成した12種類のBLNの中で3種類を利用したRNP実験で、70%以上の遺伝子編集効率を達成;さらに、BLNを利用したGFP-Creをマウス脳にマイクロインジェクションし、注入個所に局在したGFP蛍光を確認し、BLNを利用して脳へ機能するタンパク質(例えばCas9-sgRNA)を直接導入可能なことを示した.
    • コンビナトリアル合成するBLNは、Thermo Fisher社の脂質をベースとしたLipofectamine®に比較して、免疫原性と毒性をより低減することが可能である.


(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/03/11)
  • [出典] Clarke CJ ~ Reynolds AR (Inst. Cancer Research), Norman JC (Cancer Research UK Beatson Inst.) "The Initiator Methionine tRNA Drives Secretion of Type II Collagen from Stromal Fibroblasts to Promote Tumor Growth and Angiogenesis" Curr. Biol. 2016 Mar 21;26(6):755-65. Published online 2016 Mar 3.
  • 研究チームはこれまでに、がん間質におけるtRNAi^Met発現の異常が腫瘍の成長を支援する現象、腫瘍関連繊維芽細胞(cancer-associated fibroblasts)におけるtRNAi^Metの発現亢進、を見出していた.今回、tRNAi^Met遺伝子の遺伝子を2重に発現するモデルマウス(2+ tRNAi^Metマウス)を作出し、野生型マウスと比較対照する事から、がん間質が腫瘍成長を支援する分子機構の一端を明らかにした.
  • 2+tRNAi^Metマウスでは、皮下移植がん細胞の細胞外マトリクス(ECM)における血管内皮細胞と繊維芽細胞の遊走が亢進し、腫瘍の血管新生が亢進していた.
  • SILAC質量分析の結果は、tRNAi^Metの発現亢進が2型コラーゲンの合成と分泌の亢進をもたらすことを示した(繊維芽細胞は1型コラーゲンを産生する)、2型コラーゲンの発現を抑制するとtRNAi^Met発現亢進の影響は失われた.
  • プロリン水酸化酵素阻害剤3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル(DHB)を利用して、コラーゲン合成がtRNAi^Metによる腫瘍促進性を示す間質に与える影響を分析した.DHBは野生型マウスにおける腫瘍成長に影響しなかったが、2+tRNAi^Metマウスにおいて血管新生と腫瘍成長を抑制した.
  • さらに、2型コラーゲンの発現は、高悪性度漿液性卵巣がんの予後不良の指標になった.
  • したがって、tRNAi^Metの発現亢進が、腫瘍関連間質繊維芽細胞に2型コラーゲンを豊富に含むECMの合成と分泌を促し、ひいては、血管内皮細胞の遊走と血管新生を亢進すると見られる.


"Furthermore, to benchmark the tRiAD approach we also targeted the mdx mice via CRISPR based genome editing of the nonsense mutation"
A-to-I editing mechanism (non-#CRISPR)
"Through CRISPR/Cas9-mediated deletions, we demonstrate a physiological role for intragenic enhancer-mediated transcription attenuation in cell fate determination."

↑このページのトップヘ