2017年11月

[出典]
[背景]
  • CRISPR-Cas9ゲノム編集技術の誕生以来、大規模な遺伝子破壊実験や遺伝子の多重破壊が可能になり、薬剤標的遺伝子や遺伝子間相互作用の同定などの成果が報告されてきた。その過程で、コピー数が増幅されている(copy number–amplified, CNA)領域の遺伝子を標的とするsgRNAsが、遺伝子本来の必須性如何にかかわらず細胞死を誘導し、当該sgRNAを帯びた細胞数の減少をもたらす現象が見出された。すなわち、CNA領域遺伝子は、必須遺伝子スクリーニングに対して偽陽性を示すことになる。
  • この現象は、CNA領域遺伝子を標的とするsgRNAsが他の領域の遺伝子を標的とするsgRNAsよりも高頻度でDSBを誘起し、DNA損傷応答を介して細胞を細胞周期G2期でアレストそしてまたは細胞死に至らしめることに起因すると考えられる。
[多コピー遺伝子と偽陽性の相関解析]
  • Broad研究所の研究チームは今回(Ref 1)、CRISPRスクリーニングによる必須遺伝子同定において、CNAに起因する偽陽性と遺伝子本来の必須性による陽性を仕分け可能とするモデルCERESを開発・検証した。
  • 研究チームは初めに、27種類の腫瘍型由来の癌細胞株342種類を対象として、AVANAライブラリーの76,106 sgRNAs(1遺伝子あたり平均4sgRNAs)を使用してゲノムワイドでの遺伝子破壊実験を行い、必須遺伝子群と非必須遺伝子群のゴールドスタンダードおよびCCLEから取得した各遺伝子のコピー数のデータを組み合わせて、多コピー遺伝子がCRISPR必須遺伝子スクリーニングに偽陽性を示す傾向を確認した(TP53変異を帯びた細胞株は、DNA損傷に対する細胞周期チェックポイントの活性不全を介して、例外的振る舞いをすることも示唆)。
[偽陽性判定モデルCERESの開発]
  • 続いて、細胞株に特異的な因子と非特異的因子、および、ゲノム上のsgRNA標的サイトの数と各遺伝子座のコピー数の関数からなるモデルCERESを開発し、前述AVANA実験結果に加えて、33種類の癌細胞株を対象とするGeCKOv2 sgRNAライブラリーによるスクリーニング・データセット(Ref 2)および14種類の急性骨髄性白血病を対象とするスクリーニング・データセット(Ref 3)で、CERESによる偽陽性判定を試みた。
  • その結果、必須遺伝子のCRISPRスクリーニングにおける陽性判定の30%を占めていたCNA領域遺伝子由来の偽陽性を、CERES解析によって5%未満に抑えることが示された。CERESではCNA領域遺伝子を機械的に除去する必要がないことから、これまで解析対象外とされてきた遺伝子群(癌細胞株あたり平均134種類)の機能解析を実現した。CNA領域遺伝子が偽陽性を示す原因は、実は、DNA損傷応答と細胞死に至るDSBの誘導だけではない。すなわち、CNA領域遺伝子が、腫瘍細胞増殖に必須の癌遺伝子を増幅することでsgRNAの枯渇を招くこともCRISPRスクリーニングで偽陽性をもたらすが、CERESは、高CNA領域においても癌ドライバー遺伝子のKRASやBRAFを同定することができた。
  • CERESの開発・検証実験の過程で、sgRNAsの活性データも獲得・蓄積した。
[CERES Web サイト]
[参考文献]
  1. "Computational correction of copy number effect improves specificity of CRISPR–Cas9 essentiality screens in cancer cells" Meyers RM, ~ Hahn WC, Tsherniak A.Nat Genet. 2017 Oct 30
  2. Aguirre AJ et al. "Genomic Copy Number Dictates a Gene-Independent Cell Response to CRISPR/Cas9 Targeting" Cancer Discov. 2016 Aug;6(8):914-29. Published online 2016 Jun 3.
  3. Wang T et al. "Gene Essentiality Profiling Reveals Gene Networks and Synthetic Lethal Interactions with Oncogenic Ras" Cell. 2017 Feb 23;168(5):890-903.e15. Published online 2017 Feb 2.


[注] 本稿はCRISP_SCIENCEのCRISPR関連2017年11月29日ツイートに準拠しています。

8.常染色体優性遺伝疾患の個別化医療を実現するアレル特異的CRISPR遺伝子編集技術開発を目指して
  • [出典] "Towards personalised allele-specific CRISPR gene editing to treat autosomal dominant disorders" Christie KA, Courtney DG, DeDionisio LA, Shern CC, De Majumdar S, Mairs LC, Nesbit MA, Moore CBT. Sci Rep. 2017 Nov 23;7(1):16174.
  • 角膜基質内注射によりSpCas9とsgRNAをコードしたプラスミドを角膜上皮に送達し、NHEJによる遺伝子破壊を確認。
  • 次に、角膜ジストロフィーをモデル疾患として、病因SNPで生成されるPAM (SNP-derived PAM)に隣接した配列を標的とするgRNAを設計することで (原論文Figure 4引用参照)、SNP-specific PAM
    標的アレルに厳密に特異的なDNA切断が起こることを確認した。一方で、野生型にも見られるPAMに隣接し病因SNPに変異アレルと正常アレルを識別不可能であった。
  • SaCas9とAsCpf1についてもSNP-derived PAMを利用する効果を確認。
9.[仮説] 患者の皮膚繊維芽細胞から樹立したiPSCにて、病因変異をCRISR-Cas9により精密修復し、筋原性前駆細胞へと分化させた上で、自家移植することで、ジストロフィー筋を効率的に再生する
10.RET(C634Y)変異iPSCと、そのCRISPR技術により変異を修復したiPSCの転写ランドスケープ比較から、多発性内分泌腫瘍症2型におけるEGR1の機能が明らかに
[出典] "Transcriptional landscape of a RET(C634Y)-mutated iPSC and its CRISPR-corrected isogenic control reveals the putative role of EGR1 transcriptional program in the development of multiple endocrine neoplasia type 2A-associated cancers" Hadoux J, ~ Turhan AG. Stem Cell Res. Available online 23 November 2017.

11.[意見] CRISPR技術からミトコンドリアゲノム工学の革新が生まれるのか?
  • [出典] "Mitochondrial Genome Engineering: The Revolution May Not Be CRISPR-Ized" Gammage PA, Moraes CT, Minczuk M. Trends Genet. Available online 24 November 2017.
  • 内在または外来RNAの哺乳類ミトコンドリアへの移入を効率的に調節する技術を確立しない限り、CRISPR/Cas9によるミトコンドリアDNA編集の展望は拓けない。
12.[プロトコル]  CRISPR/Cas9システムをレンチウスルで送達し、骨髄細胞において遺伝的ノックアウトを実現
  • [出典] "Generation of Genetic Knockouts in Myeloid Cell Lines Using a Lentiviral CRISPR/Cas9 System" Baker P.J., Masters S.L.  In: De Nardo D., De Nardo C. (eds) Innate Immune Activation. Methods in Molecular Biology, vol 1714. Humana Press, New York, NY. First Online 25 November 2017.
13.ENCoRE (Easy NGS-to-Gene CRISPR REsults)を開発し、デスレセプターから始まる'extrinsic'アポソーシス経路における新たなプレーヤーを同定
  • "ENCoRE: an efficient software for CRISPR screens identifies new players in extrinsic apoptosis" Trümbach D, Pfeiffer S, Poppe M, Scherb H, Doll S, Wurst W, Schick JA. BMC Genomics. 2017 Nov 25;18(1):905.
ENCoRE
14.35-bpの相同アームと挿入配列からなる線形のPCRフラグメントを利用することで、CRISPR/Cas9が誘導するHDRを介して、1〜1,000-bpのDNAの精密挿入を実現(ヒト細胞とマウス胚で実証)
"Precision genome editing using synthesis-dependent repair of Cas9-induced DNA breaks"

[注] 本稿はCRISP_SCIENCEのCRISPR関連2017年11月29日ツイートに準拠しています。

1.[特許] DSBを誘導することなく遺伝子発現を活性化する10-16ヌクレオチドからなるdead guide RNA(*)関連
  • [出典] DEAD GUIDES FOR CRISPR TRANSCRIPTION FACTORS:Inventor:Zhang F, Konermann S, Dahlman J, Abudayyeh O;Assignee: Broad Inst & MIT. US2017/0321214 A1 1109
  • (*)"Orthogonal gene knockout and activation with a catalytically active Cas9 nuclease" Dahlman JE, Abudayyeh OO, Joung J, Gootenberg JS, Zhang F, Konermann S. Nat Biotechnol. Nat Biotechnol. 2015 Nov;33(11):1159-61.

2.植物細胞にも動物細胞にもdCas9-VP64より強力な転写活性化をもたらすdCas9-TVを開発
  • [出典] "A potent Cas9-derived gene activator for plant and mammalian cells"  Li Z, Zhang D, Xiong X, Yan B, Xie W, Sheen J, Li JF.  Nat Plants. 2017 Nov 20.
  • 動物細胞では、dCas9に転写活性化ドメイン(TAD)を結合したdCas9-TAD(dCas9-VPR、-SAMおよびSunTag)による遺伝子活性化が実現したが、植物細胞には有効なdCas9-TADが存在しなかった。中山大学の研究チームは今回、植物細胞にも有効で、動物細胞においてdCas9-VP64よりも強力に、単一または多重な標的遺伝子の転写を活性化するdCas9-TV(dCas9-6TAL-VP128)を開発した(TALは、Xanthamonas由来のTALE由来のTAD)。
3.代謝工学:CRISPRaとCRISPRiにCRISPRdを組合わせたCRISPR-AIDにより、多重遺伝子の過剰発現、ノックダウンおよびノックアウトを実現
  • [出典] "Combinatorial metabolic engineering using an orthogonal tri-functional CRISPR system" Lian J, HamediRad M, Hu S, Zhao H. Nat Commun. 2017 Nov 22;8(1):1688.
  • バイオファーナリーを実現するには、目的とする代謝物の生合成に関わる一連の遺伝子群を対象として、それぞれの発現を活性化あるいは不活性化する必要がある。Carl R. Woese Institute for Genome Biologyの研究グループは、活性化システム (CRISPRa)、抑制システム (CRISPRi)、および、欠損システム (CRISPRd)を同時に利用可能とするCRISPR-AIDを設計・構築し、酵母β-カロテン生産量の3倍増と酵母表面におけるエンドグルコナーゼの発現レベル2.5倍増、を実現した (CRISPR-AIDモデル図についてFig.1引用下図参照)。CRISPR-AID
  • CRISPR-AIDに利用可能なエフェクターとしては、酵母におけるCRISPR Casタンパク質の活性評価結果(Table 1引用下図参照) に基づいて、SpCas9、SaCas9、St1Cas9およびLbCpf1を選択した。Table 1
4.CRISPR-Trap:CRISPR技術に遺伝子トラップ技術を組合わせてヒト細胞において完璧な遺伝子ノックアウトと遺伝子置換を実現
  • [出典] "CRISPR-Trap: A clean approach for the generation of gene knockouts and gene replacements in human cells" Reber S, Mechtersheimer J, Nasir S, Benitez JA, Colombo M, Domanski M, Jutzi D, Hedlund E, Ruepp MD. Mol Biol Cell. 2017 Nov 22
  • CRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウトは、標的遺伝子ORFへのフレームシフト導入によるCDS配列の短縮と、ナンセンス変異依存 mRNA 分解機構 (NMD) に期待する。著者らは今回、未成熟終止コドン(PTC)を帯びた転写物が必ずしも効率的に分解されず、C末端が一部欠損しながらも機能を失わない可能性やドミナントネガティブな機能を示す可能性があることから、CRISPR-Trap法を開発し、「完璧な」ノックアウトを実現。また、 CRISPR-Trap法により、致死性を回避するタンパク質レベル調節を実現した。
5.骨形成不全症(OI)V型のモデルマウスを作出
  • [出典] "Crispr-Cas9 engineered osteogenesis imperfecta type V leads to severe skeletal deformities and perinatal lethality in mice"  Rauch F, Geng Y, Lamplugh L, Hekmatnejad B, Gaumond MH, Penney J, Yamanaka Y, Moffatt P. Bone. 2017 Nov 22.
  • BRIL遺伝子の5'UTRにノックイン(c.-14C > T)し、モデルマウスを作出し、遺伝子変異とOIの病態との関連を探った 
6.CRISPR/Cas9システムを改良して、クルーズトリパノソーマ(T. cruzi)における高効率な遺伝子破壊を実現
7.細胞で起こる多重な事象をCRISPRバイオロジカル・テープに記録する
  • [出典] "Multiplex recording of cellular events over time on CRISPR biological tape" Sheth RU, Yim SS, Wu FL, Wang HH. Science. 2017 Nov 23.
  • Temporal recording in arrays by CRISPR expansion (TRACE)法を開発;細胞内事象からのシグナルに応じて増加するDNAを、CRISPRアレイに順次組み込むことで、細胞内事象を記録していく。

[注] 本稿はCRISP_SCIENCEのCRISPR関連2017年11月27-28日ツイートに準拠しています。

1.CRISPR/Cas9により染色体を削減する
2.CRISPRを巡る原核微生物とウイルスの共進化確率モデルから両者が共存する条件を同定
3.[プロトコル]タンパク質の転写と安定性を制御するためのバクテリアゲノム編集戦略
  • [出典] "Bacterial Genome Editing Strategy for Control of Transcription and Protein Stability" Lauritsen I, Martínez V, Ronda C, Nielsen AT, Nørholm MHH. Synthetic Metabolic Pathways, Methods Mol Biol. 2018;1671:27-37.
  • 大腸菌において、任意の可溶性タンパク質の転写調節と分解誘導を可能とする遺伝子標識技術;CRISPRiとN末端則経路(N-end rule pathway)タンパク質分解に基づく;CRMAGE(CRISPR Optimized MAGE(Multiplex Automated Genome Engineering: YouTube) Recombineering);MAGE)によるゲノム編集;転写開始領域のランダム化によるタグ挿入に対する極性の影響最小化
4.[プロトコル]放線菌代謝工学に有用なCRISPR-Cas9ツールキット
  • [出典] "CRISPR-Cas9 Toolkit for Actinomycete Genome Editing" Tong Y, Robertsen HL, Blin K, Weber T, Lee SY. Synthetic Metabolic Pathways, Methods Mol Biol. 2018;1671:163-184. First online 24 Nov 2017.
  • スペーサー(sgRNA)同定ソフト、ランダム削除ライブラリー構築および遺伝子ノックダウン;USER(uracil-specific excision reagent)技術によりCIRSRベクター構築を単純化;S. coelicolor A3(2) とS. collinus Tü 365のゲノム編集で実証
5.[プロトコル]CasEMBLRにより酵母の代謝経路を改変

  • [出典] "Drug-tolerant persister cancer cells are vulnerable to GPX4 inhibition" Hangauer MJ, ~ McCormick F, McManus MT. Nature. 2017 Nov 9;551(7679):247-250. Published online 2017 Nov 1.
  • 癌療法の間に、薬剤耐性腫瘍の供給源となるいわゆる'persister'腫瘍細胞の集団が生成される。'persister'腫瘍細胞は、ゲノム変異を起こさないままの休眠状態を経て、癌の再発・転移を誘発するとされ、近年、注目を集めている。
  • 著者らは先行研究で(Nature, July 2017)、間葉系細胞様の状態にある腫瘍細胞が、脂質ヒドロペルオキシダーゼGPX4阻害によって、ネクローシスの一種であるフェロトーシスに至ることを見出していたが、今回、'persister'細胞もGPX4阻害によって選択的にフェロトーシスへと誘導可能なことを見出した。
  • 抗癌剤に暴露されていない乳癌細胞株と9日間の高用量ラパチニブ暴露に耐えた乳癌細胞株('persister'に相当)をRNA-seqで比較解析し、'persister'細胞が間葉系細胞に典型的な遺伝子群のレベルが高く、酸化ストレス耐性に必要な遺伝子群のレベルが低いことを見出した。
  • GPX4阻害低分子は、抗癌剤に暴露した乳癌'persister'細胞を選択的に細胞死へ誘導し、抗癌剤に暴露されていない乳癌細胞および正常な乳腺細胞には影響しなかった。
  • GPX4阻害は、抗癌剤に暴露したメラノーマ、肺癌および卵巣癌の'psersister'細胞も選択的にフェロトーシスへ誘導した。
  • CRISPR/Cas9でGPX4遺伝子を不活性化したヒトメラノーマ細胞をマウスに移植し、GPX4欠損メラノーマを形成し、抗癌剤により腫瘍が縮小し、再発が起こらないことを確認した。一方で、GPX4を欠損していない腫瘍は、継続的な抗癌剤投与に対して、再発を確認した。
  • [課題] 現存するGPX4阻害剤のバイオアベイラビリティーが低いことから、新たなGPX4阻害剤の開発が急がれる。また、GPX4のノックアウトは成体マウスに対して致死であったことから、生体に適応可能な用量・投与法を見極めて行く必要がある。

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