2018年04月

出典
  • "Universal Chimeric Antigen Receptors for Multiplexed and Logical Control of T Cell Responses" Cho JH, Collins JJ, Wong WW. Cell April 26, 2018.
SUPRA CAR
  • キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptors: CARs)を発現するT細胞が究極のスマート癌療法になりつつあるところ、ボストン大学のJ. H. ChoとW. W. WilsonならびにMIT/HarvardのJ. J. Collinsは今回、Split、UniversalそしてPRogrammableという特徴を備え、これまでのCAR-T療法の弱点を克服したCARシステムを開発し'SUPRA CAR'と命名した。
Split
  • SUPRA CARは従来のCARをsplitしたシステムに相当する。従来のCARは、標的とする腫瘍特有の抗原に特異的な一本鎖抗体可変領域フラグメント (scFv)と細胞内シグナル伝達ドメインを一体化したシステムである。
  • SUPRA CARは、細胞内シグナル伝達ドメインに細胞外ドメインにあたるロイシンジッパー (以下、BZip)を結合したzipCARと、腫瘍抗原を標的とするscFvにBZip結合可能なロイシンジッパー (以下、AZip) を結合したzipFvとの二成分で構成されるシステムである (参照 原論文 Figure. 1)。T細胞表面の受容体に相当するzipCARが、BZipとAZipの結合を介してzipFvと一体化することで、zipCAR-T細胞がzipFvが結合する標的腫瘍細胞へと誘導され、腫瘍細胞を攻撃する。
Universal & Programmable
  • Split型システム構成によって、T細胞を改変することなくzipFvを改変するだけで、任意の抗原に特異的なSUPRA CARを作出可能である。
  • SUPRA CARは、ロイシンジッパー (AZipとBZip)の結合親和性、腫瘍抗原とscFvの結合親和性、zipFvの濃度、およびzipCARの発現レベルに依存することから、サイトカイン放出症候群に至る過剰活性化を抑制するなどその作用の柔軟な調節が可能である。また、拮抗的scFvを併用することで、初代CD8陽性T細胞の活性化阻害も可能である。
  • 互いに直交するSUPRA CARを併用することで複数抗原の同時認識が可能である:標的抗原をわずかに発現する正常細胞への攻撃を含むオフターゲット作用を抑制して安全性と標的腫瘍への選択性を高めることが可能;癌免疫療法における抗原エスケープにもT細胞を改変することなく柔軟迅速に対応可能;二種類の抗原からのシグナルを合成して細胞内へシグナル伝達する'AND'ゲートも構築可能 (参照 原論文 Figfure 5)
  • 免疫システムの精密制御が可能 (CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞を互いに独立に調節可能なことを実証 (参照 原論文 Figure 6)
  • 以上、SUPRA CARのzipCARはユニバーサルな (universal)受容体として機能し、zipFvと多様な結合親和性などを介してSUPRA CARの作用を柔軟に調節することが可能 (programmable)である (参照 原論文 Graphical Abstract)。
モデルマウスにおけるヒト固形腫瘍と血液腫瘍の低減
  • 免疫不全マウスにHer2陽性のヒト乳癌由来SK-BR-3細胞を腹腔内に注入し2週間後、zipCARを発現するCD8陽性ヒトT細胞を注射し、続いて、2日ごとに2週間Her2を標的とするzipFvを注射し、41日にわたって腫瘍量を蛍光観察し、従来のHer2 CARと同等レベルの腫瘍量減少に至ることを確認。
  • Her2陽性に改変したJurkat T腫瘍細胞をNSGマウスに静注して3日経過後、zipCARを発現するCD8陽性ヒトT細胞を注射し、続いて3日ごとに6日間Her2を標的とするSUPRA CARを適用し、21日にわたって腫瘍量を蛍光観察し、腫瘍量低減を確認。
ヒト化ロイシンジッパーの効果
  • 合成ロイシンジッパーに替えて、ヒトの転写因子、FOSとJUN、由来のロイシンジッパーをそれぞれzipCARzipFvに利用することで、腫瘍抑制効果を損なうことなく、免疫原性を抑制可能なことも実証。

[crisp_bio注] 2018-05-19 テトラヒメナ・テロメアーゼのクライオ電顕構造解析論文へのリンク追加(*)
出典
  • 論文:"Cryo-EM structure of substrate-bound human telomerase holoenzyme" Nguyen THD, Tam J, Wu RA, Greber BJ, Toso D, Nogales E, Collins K. Nature 25 April 2018.
  • EMデータEMD-7518 The catalytic core of the cryo-EM structure of substrate-bound human telomerase holoenzyme (7.7Å 分解能);EMD-7519 The H/ACA ribonucleoprotein lobe of the cryo-EM structure of substrate-bound human telomerase holoenzyme (8.2Å 分解能);EMD-7521 Overall reconstruction of the human telomerase holoenzyme (10.2Å 分解能).
  • NEWS & VIEWS:"Detailed view of human telomerase enzyme invites rethink of its structure" Stone MD. Nature 25 APRIL 2018.
背景
  • テロメアーゼはタンパク質とRNAからなるリボ核タンパク質 (RNP)であり、テロメラーゼ逆転写酵素 (telomerase reverse transcriptase: TERT)サブユニットと長いノンコーディングテロメラゼRNA (non-coding telomerase RNA: TR)からなり、TRの一部をテンプレートとしてDNA反復配列を染色体末端に付加することで、ゲノム分裂時発生するテロメア損失を修復する。
全体構造
  • 研究チームは、これまでになく活性で一様なテロメラーゼの精製に成功し、クライオ電顕単粒子解析法によって、サブナノメーター分解能のヒト・テロメラーゼの構造を明らかにした。全体の構造は、屈曲した長いRNAをスキャフォールドとして種々のタンパク質が結合した2つのローブ (bilobe)で形作られていた。Bilobe構造自体は、既報の低分解能構造と整合していたが、bilobal構造がTERTとTRをセットとする二量体とするこれまでの解釈は否定され、2つのローブはそれぞれH/ACAローブと触媒コアにあたるとされた (参照 NEWS & VIEWS Figure 1)。
  • テロメラーゼについて、これまでの二量体モデルに対して単量体モデルが提唱されたが、この不整合は、おそらく酵素を精製する手法の違いによると思われるが、今回の構造は、広範な生物でテロメラーゼが単量体として機能するという仮説を裏付けることになった。
2つのローブ
  • H/ACAローブ:(このローブを構成するRNAのHモチーフとACAモチーフから命名されていたローブ)2箇所のRNAヘアピン領域それぞれに四量体H/ACAタンパク質複合体が結合し、一方のRNAヘアピンのCAB boxにTCAB1タンパク質が結合した構造;サブユニットからのテロメラーゼの組み立てとTCAB1サブユニットを介して核内でのテロメラーゼ移動に関与
  • 触媒コア:丁字路型とシュードノット構造をなし、染色体末端に付加されるDNA反復配列のテンプレートとなる領域も含むRNA鎖にTERTタンパク質が結合した構造;酵素活性を担うローブ
  • 2つのローブの連結:H/ACAローブと触媒コアは、2本のRNAヘリックスでブリッジされている
(*) テトラヒメナのテロメアーゼのクライオ電顕構造解析
  • 論文:"Structure of Telomerase with Telomeric DNA" Jiang J [..] Zhou H, Feigon J. Cell 2018 May 17;173(5):1179–1190.e13.
  • EMデータ・構造:EMD-7821/PDB-6D6V (DNA-bound telomerase, 4.8Å);EMD-7820 (DNA free telomerase, 6.4Å) [2018-05-19時点では未公開]

[出典] "ovoD co-selection: a method for enriching CRISPR/Cas9-edited alleles in Drosophila" Ewen-Campen B, Perrimon N. bioRxiv Posted April 29, 2018. → G3 (Bethesda). 2018-07-31.
  • 目的とする編集が起きた細胞や個体をスクリーングする段階がCRISPR/Cas9ゲノム編集におけるボトルネックになっている。このボトルネックを解決する有力な手法が “CRISPR co-selection” ( “co-CRISPR” または “CRISPR coconversion”)である。CRISPR co-selectionは、細胞集団にCas9と異なる遺伝子座を標的とする二種類のsgRNAsを同時に送達すると、二遺伝子座のCRISPR編集が、ランダム現象より高頻度に、共起する現象に基づく手法であり、本来の標的遺伝子座と編集検出用遺伝子座 (表現型の変化を容易に識別・選別可能な遺伝子座を標的とするsgRNAsを用意する。
  • ショウジョウバエのCRISPR/Cas9ゲノム編集実験では、Cas9発現胚にsgRNAまたはsgRNAトHDRドナーを注入することから得られた遺伝的にモザイクの個体群を異系交雑しその子孫から標的遺伝子に変異が起きた集団をスクリーンする。このスクリーンは、目視可能は表現型変化を示さない遺伝子や、sgRNAによる遺伝子編集頻度が低い場合は特に、実験のボトルネックになる。
  • ハーバード大学医学大学院のB. Ewen-CampenとN. Perrimonは今回、co-selectionのための表現型として雌不妊を選択した。すなわち、雌不妊優性アレル ovoD1を標的とするsgRNAsを組み込み、ovoD1が編集を受けた結果得られた受精卵を選択する “ovoD co-selection”を開発した。“ovoD co-selection”で得た繁殖能力を示す雌3匹のうち2匹の子孫は目的とする遺伝子編集 (ノックアウトおよびノックイン共に)を帯びていた (ovoco-selectionについて原論文Figure 1引用下図参照)。ovoD co-selection

1.ゼブラフィッシュにおけるクロマチンアクセシビリティとCRISPR-Cas9の編集効率との相関
  • "Chromatin accessibility is associated with CRISPR-Cas9 efficiency in the zebrafish (Danio rerio)" Uusi-Mäkelä MIE, Barker HR, Bäuerlein CA, Häkkinen T, Nykter M, Rämet M. PLoS One 23 Apr 2018.
  • ゼブラフィッシュ六種類の遺伝子の変異誘発をin vitroin vivoで比較し、in vitroで高活性のsgRNAsが必ずしもin vivoでは高活性を示さないことを同定;ゼブラフィッシュの発生初期を対象とする公開データセットとCRISPRzデータベースから選択したgRNAsを利用して、ゼブラフィッシュ胚において、変異誘発が遺伝子発現およびクロマチン openessとの相関関係を明らかにした。
2.5S rRNAプロモーターをgRNA発現に利用することで、Aspergillus nigerの高効率なCRISPR/Cas9ゲノム編集を実現
  • "5S rRNA promoter for guide RNA expression enabled highly efficient CRISPR/Cas9 genome editing in Aspergillus niger" Zheng X, Zheng P, Zhang K, Cairns TC, Meyer V, Sun J, Ma Y. ACS Synth Biol. 2018 Apr 24.
  • 真核生物でのCRISPR/Cas9利用にはgRNA発現に最適なプロモーターの選択が課題;5S rRNAプロモーターにより、短い(40-bp)のドナーDNAを利用した効率100%の遺伝子改変とマイコトキシンのフモニシンB1生合必須48-kbの遺伝子クラスター削除を実現.
3.[レビュー]CRISPR遺伝子スクリーンによる宿主-ウイルス相互作用の解明
4.CRISPR-Cas9を介した異種タンパク質発現によりCHO-K1細胞における生合成を亢進
  • "Enhanced Biosynthesis Performance of Heterologous Proteins in CHO-K1 Cells Using CRISPR-Cas9" Wang W, Zheng W, Hu F, He X, Wu D, Zhang W, Liu H, Ma X. ACS Synth Biol 2018 Apr 23.
  • CHO細胞は治療用抗体などの組換えタンパク質の工業生産の発現システムの定番;サバイビン遺伝子とQSOX1遺伝子のノックインを介して小胞体の微小環境の改善と抗アポトーシ性亢進を実現し、タンパク質生産をより効率化;モデルタンパク質GLucの生産量5.55倍に
5.RecET組換え技術を利用することで、細胞工場Corynebacterium glutamicumのCRISPR-Cas9ゲノム編集を効率化
  • "A RecET-assisted CRISPR–Cas9 genome editing in Corynebacterium glutamicum" Wang B, Hu Q, Zhang Y, Shi R, Chai X, Liu Z, Shang X, Zhang Y, Wen T. Microb Cell Fact. 2018 Apr 23;17(1):63.
  • 手間がかかり時間を要する非効率な相同組換えとマーカを利用したカウンターセレクションによるC. glutamicumのゲノム編集は非効率的であり、Cas9とsgRNAをそれぞれプラスミドで送達する手法はプラスミド上のCas9の不安定性により偽陽性を生じやすく、両プラスミドの高い形質転換効率が要求される;染色体由来Cas9-RecET、sgRNAのプラスミド一種類、および修復用テンプレートからなる手法を開発 (下図 Fig. 2- a 参照);10-/20-kbの削除、2.5-/5.7-/7.5-kbの発現カセットノックイン、精密な変異誘導、および代謝経路の改変を実現;C. pekinense 1.563のゲノム編集にも有効
RecET
6.CRISPR/Cas9により苦味と毒性を帯びたステロイドグリコアルカロイド (SGA)を含まないジャガイモ作出
  • "Generation of α-solanine-free hairy roots of potato by CRISPR/Cas9 mediated genome editing of the St16DOX gene" Nakayasu M et al. Plant Physiol Biochem 2018 Apr 24.
  • 内在t-RNAプロセッシングシステムにより多重gRNAsを発現するプラスミドを送達し、SGAの生合成経路におけるステロイド16α-ヒドロキシラーゼをコードするSt16DOX遺伝子ノックアウト、ジャガイモ毛根へのSGA蓄積を完全に防止

1.CRISPR-Cas9のAAV送達による遺伝子発現調節を介した網膜色素変性症療法
  • "In situ gene therapy via AAV-CRISPR-Cas9 mediated targeted gene regulation" Morenoa AM [..] Zhang K, Mali P. Mol Ther 25 April 2018.
  • モジュール型のAAVベクターを開発して、サイズの大きなCas9を分割して細胞内に送達し、細胞内で活性なCas9を機能させることでエビゲノム編集する手法を確立
  • 培養細胞およびマウスin situでの遺伝子発現調節、80%までの安定した転写抑制と8倍の活性化を実現;網膜色素変性症 (RP)遺伝子治療を想定して桿体視細胞の調節因子Nrlのノックダウンを試みたところ、桿体視細胞をRP特異的変異に耐性がある錐体様細胞へのin situリプログラミングと錐体細胞損失の抑制が実現した。
2.[レビュー]CRISPR技術による網膜のin vivoゲノム編集の現状
  • "In vivo applications of CRISPR-based genome editing in the retina" Yu W, Wu Z. Front Cell Dev Biol 2018 Apr 23
  • ウイルスベクターと非ウイルスベクター送達による恒常的発現と一時的発現;HDRを介した精密編集が可能であるが低効率;これまでの試みは遺伝子のノックアウト/削除が中心;マウスモデルで一部成果;CRISPRによる機能ゲノミクス;オフターゲット編集のさらなる評価必要
3.慢性骨髄性白血病 (CML)の遺伝子治療を目指したPEG-PLGAナノ粒子によるCRISPR/Cas9の全身デリバリー
  • "Systemic Delivery of CRISPR/Cas9 with PEG-PLGA Nanoparticles for Chronic Myeloid Leukemia Targeted Therapy" Liu Y, Zhao G, Xu CF, Luo YL, Lu ZD, Wang J. Biomater Sci 2018 Apr 23.
  • CMLの病因であるフィラデルフィア染色体の融合遺伝子BCR-ABLのオーバーハングを標的とするCRISPR/Cas9 (pCas9/gBCR-ABL)を、PEG-PLGA (poly(ethylene glycol)-b-poly(lactic acid-co-glycolic acid))からなるカチオン性脂質高分子ナノ粒子 (cationic lipid-assisted polymeric nanoparticles: CLANs)によってデリバーし、CML関連BCR-ABL融合遺伝子を選択的破壊を実現;マウスモデルに延命効果;
4.[レビュー]CRISPR/Cas9ゲノム編集がもたらす癌免疫療法革命
  • "CRISPR/Cas9 genome editing: Fueling the revolution in cancer immunotherapy" Liu X, Zhao Y. (U. Pennsylvania Cancer Center) Curr Res Transl Med 2018 Apr 22.
  • CAR-細胞においてTT細胞受容体 (TCR)とβ2ミクログロブリン (B2M)を破壊するか、または、破壊したレセプターαコンスタント (TRAC)遺伝子座にCARを直接ノックインすることで、同種異系のユニバーサルCAR-T細胞を作出;PD-1とCTLA-4の同時破壊による抗腫瘍性亢進;内在TCRのノックアウトによる抗腫瘍性と安全性の向上し、特異性を損ない重篤な副作用をもたらす恐れのある高親和性TCRの利用回避に
5.CRISPR-Cas12aによる核酸検出と診断応用にHOLMES
  • "CRISPR-Cas12a-assisted nucleic acid detection" Li SY [..] Wang J. Cell Discov 24 April 2018. [著者修正] Author Correction: CRISPR-Cas12a-assisted nucleic acid detection. Cell Discov. 2019-03-12. 2019-03-12.
  • 感染症菌などの高感度で高選択性のSHERLOCKにはin vitroでのDNAからRNAへの転写の過程が必要;Cas12aがcrRNAの標的ではないssDNAを切断することを発見*した研究チームが、DNAとRNAの双方を高感度で迅速検出可能なHOLMES (an one-HOur Low-cost Multipurpose highly Efficient System)を開発 (下図 Fig.1-a)参照)、0.1 nMのDNA検出可能でPCRを加えることで10 aMに到達;SNP検出を実証 (下図 Fig.1 -b)参照);DBAウイルスとRNAウイルスの検出とウイルス株の識別も実証
HOLMES
  • (注) 著者らによると本論文投稿準備中 (投稿は2018年3月5日)にCRISPR12aを利用したDETECTRシステムと、SHERLOCKv2システムがScience誌から公開された。
  • CRISPRによる診断ツール関連crisp_bio記事
  1. 2018-04-27 CRISPR技術による次世代診断ツール開発:「展望」とMammoth Biosciencesの登場
  2. (*) CRISPRメモ_2018/03/16 - 3.[Letter to the Editor]CRISPR-Cas12aは、ssDNAをcis-にもtrans-にも切断する
  3. 2018-02-23 CRISPRによる核酸検出・診断(DETECTRとSHERLOCK)

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