2018年11月

1. CRISPR-tagによる非反復配列遺伝子の生細胞内可視化
[出典] "Efficient labeling and imaging of protein-coding genes in living cells using CRISPR-Tag" Chen B, Zou W, Xu H, Liang Y,  Huang B. Nat Commun. 2018-11-29.
  • 非反復配列遺伝子の可視化ツールがこれまで存在せず、非反復配列遺伝子の時空間的振る舞いと機能の相関解明が進んでいなかった。浙江大学医学院の研究チームは今回、可視化対象のタンパク質コーディング遺伝子1つを1~4のsgRNAsで同時に標的可能とするCRISPR-Tag法を開発し、S/N比を上げ、生細胞において非反復配列遺伝子の動態を広域蛍光顕微鏡で観察可能とした。原論文Fig. 1から引用した下図 a, b にあるように、線虫ゲノム由来配列および合成配列の7種類のsgRNAs (sgTS1-sgTS7)を用意し、CRISPR-Tag_v1として、4種類の配列TS1-TS4を1セットとする6回繰り返しGolden Gate法で構築し評価した。CRISPR-Tag
    また、TS5/TSg6/TS7のセットの4回または6回繰り返しからなるCRISPR-Tag_v2も検証した。
  • 繰り返し配列の間には25-bpのユニークなスペーサ配列を挿入しておき、PCRまたはDNAシーケングによるクローニングやノックイン実験におけるCRISPR-Tag配列の評価に利用した。
  • CRISPR-Tagは、標的遺伝子の3’UTRまたはイントロンにCRISPR技術によりノックインし、蛍光タンパク質を多コピー融合したdCas9により可視化した。
  • CRISPR-Tagの性能を、ヒストンH2BをコードするヒトHIST2H2BE遺伝子、LMNA遺伝子およびHSPA8遺伝子の可視化で実証した。
2. マラリア原虫Plasmodium yoeliumにおけるリボザイムを介した多重CRISPR遺伝子編集とCRISPRi
[出典] "Ribozyme-Mediated, Multiplex CRISPR Gene Editing and CRISPRi in Plasmodium yoelii" Walker MP,  Lindner SE. bioRxiv. 2018-11-29.
  • ペンシルベニア大学の研究チームは今回、ハンマーヘッドリボザイムとヒトデルタ型肝炎ウイルス (HDV)リボザイムのセットでsgRNAを発現させるRibozyme-Guide-Ribozyme (RGR) sgRNAを離京することで、Cas9およびdCas9によるP. yoeliumの遺伝子編集を実現
3. [解説]CRISPR/Cas9による植物ゲノム編集と代謝工学
[出典] "CRISPR/Cas9-Mediated Gene Editing Tool and Fathomless Genetic and Metabolic Engineering Applications in Plants" Alok A, Kumar J, Jogam P, Sandhya D. In: Yadav S., Kumar V., Singh S. (eds) Recent Trends and Techniques in Plant Metabolic Engineering. 2018-11-24.

4. [解説]マメ科植物の機能ゲノミクスと改良に有用なゲノム工学ツール
[出典] "Genome Engineering Tools for Functional Genomics and Crop Improvement in Legumes" Khandelwal R, Jain M. In: Wani S., Jain M. (eds) Pulse Improvement. 2018-11-24.
  • ZFN、TALEN、およびCRISPR/Cas9によるゲノム編集技術の事例

[出典] "Proximity-CLIP provides a snapshot of protein-occupied RNA elements in subcellular compartments" Benhalevy D, Anastasakis DG, Hafner M. Nat Methods. 2018-11-26.
  • RNAの細胞内小器官局在を解析する手法として、APEX-RIP (RNA immunoprecipitation)やRaPIDなどが開発されてきたが、網羅的な解析はまだ困難である。例えば、APEX-RIPで採用された化学的架橋は、RNA抽出過程での偏り発生やタンパク質から比較的遠い位置に存在するRNAを架橋するリスクを、RNA分子をビオチンリガーゼ (BirA)で標識しRNAに結合するタンパク質をビオチン化・プルダウンするRaPIDは比較的長いRNAへの偏りが生ずるリスクを、それぞれ伴っている。
  • 米国National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseaseの研究チームは今回、RNA結合タンパク質 (RBPs)ひいてはRNAの細胞内局在を網羅的に解析する手法、Proximity-CLIP (UV crosslinking and immunoprecipitation)、を開発した。
  • Proximity-CLIP手法 (原論文 Fig. 1):(1) APEX2に細胞内局在化因子 (localization element, LE)を融合し、細胞内RNAを4-チオウリジン (4-SU)で標識; (2) ビオチンフェノール (BP)液体培地で30分培養後に過酸化水素を加え、APEX2からのビオチン-フェノキシルラジカル (BPラジカル)生成、続いて、紫外線照射によりタンパク質とRNAを架橋; (3) BPラジカルは、近接タンパク質と共有結合するか消失; (4) 細胞区画に特異的なRNPsとタンパク質をストレプトアビジン・アフィニティー精製; (5) 溶出液を3分割し、それぞれ、細胞区画内プロテオームのMS解析、RNaseフットプリント解析およびRNA-seqを施す
  • Proximity-CLIPにより‘RBPome’実現:局所的トランスクリプトームの定量;RBPが結合したRNA領域 (シスエレメントとRNA代謝部位を含む)の同定
  • HEK293細胞の核、細胞質および細胞間界面を対象とする実証実験:数キロベースにおよぶ転写リードスルーを同定;核内と細胞質でのRBP占有パターンの差異を同定;細胞間界面に局在するmRNAsの多くが調節因子をコードし3'UTR領域にタンパク質に占有されるCUG配列を帯びていることを同定
 関連論文とcrisp_bio記事

crisp_bio注:2018-12-04にScience記事へのリンク、AIDS/HIV研究者からの批判、CRISPR遺伝子編集によるHIV療法関連動物実験記事リンク追記
  • Gaetan Burgioツイートまとめ:賀建奎の第2回ヒトゲノム編集国際サミットでの講演Web castキャプチャー画面をコメント付きで連続ツイート
  • Science 2018-11-30:Shock greets claim of CRISPR-edited babies - Apparent germline engineering by Chinese researcher prompts outrage and investigations. Normal D.
  • Nature. 2018-11-30:First CRISPR babies: six questions that remain - Startling human-genome editing claim leaves many open questions, from He Jiankui's next move to the future of the field.
  • CRISPRゲノム編集の研究・応用を先導するFeng Zhang、Jennifer Doudna、David Liuや、NIH所長のFrancis Collinsらが一斉に批判する中、Weibo (微博)  2018-11-26 上で100名以上の中国科学者が批判を声明微博
「HIV感染・発症を予防するため」に対するAIDS/HIV研究者からの批判
  • [出典] "Researchers Slam 'Stupendously Unethical' CRISPR Germline Genome Editing Experiments"の"Unkowable Complication"の段落. Rizk C. GenomeWeb 2018-11-29
  • そもそも、HIV感染から胚を守る手法は確立されており、HIV発症を制御可能になっていることから、HIV治療の観点から"an unmet medical need"に相当しない。今回、HIV陽性とされる父のウイルス量は6ヶ月検出限界以下であったと報告され、さらに、精子を洗浄していることから、今回の行為はその目的自体が無意味である。
  • また、CCR欠損が将来他の感染症や疾患に対する脆弱性をもたらすリスクを高めることから、CCR5遺伝子欠損は無謀な行為である。
  • CRISPR遺伝子治療によるHIV療法関連動物実験例 CRISPRメモ_2018/06/23 - 5. CRISPRにより、ヒト化マウスに移植した患者由来血液からHIV DNAを除去 (注: ヒト胚ゲノム編集ではない)
crisp_bio注:以下はツイートからの引用 2018/11/30


第三者のデータ検証が告げる事

1. CRISPR-Cas9が誘導する鎖置換増幅による超高感度DNA検出法
[出典]"A CRISPR–Cas9-triggered strand displacement amplification method for ultrasensitive DNA detection" Zhou W, Hu L, Ying L, Zhao Z, Chu PK, Yu XF. Nat Commun. 2018-11-27.
  • DNAの高感度検出に必要なDNA増幅に最もよく利用されているPCRに対して、熱サイクルを必要としないDNAの等温増幅法は、ポイント・オブ・ケアなどオン・サイト診断に有用である。
  • 中国科学院深圳先进技术研究院を中心とする研究グループは今回、CRISPR-Cas9でDNA鎖の2箇所にニックを入れ、鎖置換増幅(strand displacement amplification, SDA)を誘導し、全過程において一定の温度で進行する"真の"等温増幅を実現し、このDNA増幅法をCRISDA (CRISPR–Cas9-triggered nicking endonuclease-mediated Strand Displacement Amplification method)と命名した。
  • CRISDAは、CRISPRエフェクターの高感度かつ特異的な標的DNA認識とその際に進行するCRISPRエフェクターのコンフォメーション変化を利用して、これまでの等温増幅法と異なりssDNAを露出させる前処理を不要としたDNA増幅過程 (原論文Fig. 1引用下図左Step1-Step4)に、ペプチド核酸 https://ja.wikipedia.org/wiki/ペプチド核酸 (PNA) プローブとする過程 (下図左 Step5)を続けることで、アトモル濃度の感度と、1塩基の特異性とを実現した。
CRISDA 1 CRISDA 2
  • さらに、 ビオチンで標識したdCas9を利用して標的DNAをエンリッチメントする前処理を加えることで、サブアトモア濃度の超高感度検出を実現した (原論文Fig. 6引用上図右参照)。
  • ヒト9番染色体由来の877 bp DNA断片およびヒトゲノムにおける169 bpと203bpの領域増幅・検出と、大量の野生型ダイズのなかにおける少量の遺伝子組み換え作物 (GMO)ダイズの検出で検証・実証
2. 
CRISPR/Cas9を介した二本鎖切断からの修復結果の大規模並列プロファイリングと予測モデル構築
[出典]"Massively parallel profiling and predictive modeling of the outcomes of CRISPR/Cas9-mediated double-strand break repair" Chen W, McKenna A, Schreiber J, Yin Y, Agarwal V, Noble WS, Shendure J. bioRxiv. 2018-11-28.
  • 米国U. Washingtonの研究チームは今回、ヒト細胞にレンチウイルスベクターで導入した6,872種類の合成標的配列を対象として、CRISPR/Cas9による切断に続くNHEJを介したDSB修復に誘導された~116万例の変異プロファイルを測定した。
  • その結果、挿入は主として切断部位のすぐ上流由来の1-bp挿入、また、欠失は主としてマイクロホモロジー由来であり、変異型は可変であるがその発生数と相対的頻度には再現性があることを見出した。
  • プロファイリングの結果に基づいて、局所的な配列のコンテクストに基づくCRISPR/Cas9編集結果を予測する機械学習モデルを構築した:プログラム入手先 GitHub CRISPR_NHEJ_prediction 
  • さらに、DSBサイトの近傍の特定の位置にマイクロホモロジーを導入することで、欠失パターンをプログラム可能なことを示した。
 関連crisp_bio記事
3. BAXを介したアポトーシスはVDAC2に依存する
[出典]"VDAC2 enables BAX to mediate apoptosis and limit tumor development" Chin HS, Li MX [..] van Delf MF, Dewson G. Nat Commun. 2018-11-26.
  • アポトーシスは腫瘍形成の抑制に直結し、多くの抗腫瘍剤で利用されている過程である。このアポトーシスの必須因子として知られているBAXとBAKは、互いに似た分子機序で調節され冗長な関係にあると考えられている。オーストラリアの研究グループは今回、BAXとBAKの作用機序に大きな違いがあることを見出した。
  • ゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーン (原論文 Fig 1.引用下図参照)により、電位依存性アニオンチャネル2 (VDAC2)が、BAXが機能するに重要であるが、BAKの機能には関与しないことを見出した。VDAC2
  • VDAX2イタの欠損は、BAXならびにBAKとVDAC1、VDAC2およびVDAC3を含むミトコンドリア外膜に存在するチェネル複合体との相関関係を失わせるが、アポトーシス活性についてはBAXの活性阻害だけをもたらす。
  • VDAX2イタの欠損はまた、抗腫瘍剤の腫瘍細胞死滅機能と腫瘍形成抑制能を無力化した。

1. [レビュー]CRISPR/Cas9によるデュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)療法
[出典] Review "Applications of CRISPR/Cas9 for the Treatment of Duchenne Muscular Dystrophy" Lim KRQ, Yoon C, 横田俊文 (アルバータ大学). J Pers Med. 2018-11-24.
  • DMD療法に利用されるCas9酵素(レビューTable 1引用下図左参照)とNHEJを介した遺伝子修復法 (レビューFigure 1引用下図右参照)
Table 1 Figure 1
  • In vitro研究とCRISPRシステムの送達法 (レビューTable 2に研究例28件の一覧あり:Cas酵素、戦略 ()NHEJ, BE, Utropin上方制御、標的遺伝子領域、マウス・細胞などのモデル、送達法、研究のハイライト)
  • In vivo研究 (DMDマウスモデル、DMDイヌモデル、CRISPR/Cas9によるモデル動物/細胞作出)
  • オフターゲット編集や宿主の免疫応答などの課題と将来展望
2. [特許]CRISPR-C2c2システムと応用
[出典]US 2018/0327786 "Novel CRISPR Enzymes and Systems (C2c2)"
  • 公開日 11/15/2018;発明者 Severinov K, Feng Z [..] Lander ES;権利者 Broad. MIT, Harvard, Rutgers, USA (Secretary of Dept. Health & Human Services), Skolkovo Inst (RU)
  • crisp_bio注:C2c1とC2c3については、US2018/0320163参照
3. [レビュー] CRISPR-Cas9による遺伝子編集を加えた消化器系疾患オルガノイドモデル
[出典] REVIEW "Modeling Human Digestive Diseases with CRISPR-Cas9-modified Organoids" Fujii M, Clevers H, Sato T. Gastroenterology. 2018-11-23.

4. CRISPRaによるフコース転移酵素(FUT)の転写活性化により、大腸癌細胞におけるN結合型グライコームが改変されることを同定
[出典]Transcriptional activation of fucosyltransferase (FUT) genes using the CRISPR-dCas9-VPR technology reveals potent N-glycome alterations in colorectal cancer cells. Blanas A, Cornelissen LAM, Kotsias M [..] van Vliet SJ. Glycobiology. 2018-11-22
  • 癌細胞における異常なフコシル化は、悪性腫瘍細胞のシグネチャーであり、腫瘍の進行、転移および化学療法耐性と相関している。特に、大腸癌ではフコシル化Lewis抗原のレベル上昇が、FUT4やFUT9といった酵素の発現異常によるとされている。しかし、これまでは、癌細胞に特異的なFUT遺伝子の発現調節をミミックするモデルが存在しなかったため、FUTの基質特異性やLewis合成が大腸癌細胞のグライコームに与える影響の解明が進んでいなかった。
  • オランダと英国の研究チームは今回、Fut4遺伝子とFut9遺伝子を欠損しているマウス大腸癌MC38細胞でCRISPRa (CRISPR-dCas9-VPR)による両者の転写活性化を実現し、FUt4/Fut9の活性化が、MC38細胞表面に機能性Lewisネオ抗原を誘導し、MC38のグライコームを改変することを見出した。CRISPRaは、糖転移酵素の発現亢進を可能とし、糖質科学と癌研究の双方に有用である。
  • CRISPR技術と糖質科学参考文献:"A validated gRNA library for CRISPR/Cas9 targeting of the human glycosyltransferase genome" Narimatsu Y [..] Wandall HH. Glycobiology. 2018-05-01.

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