2018年12月

[出典] "Retraction of DNA-bound type IV competence pili initiates DNA uptake during natural transformation in Vibrio cholerae" Ellison CK, Dalia TN, Vidal Ceballos A, Wang JC, Biais N, Brun YV, Dalia AB. Nat Microbiol. 2018 Jul;3(7):773-780. Online 2018-06-11.
  • バクテリアでは、外部から遺伝子を取り込む遺伝子水平移動 (horizontal gene transfer, HGT)を介して、進化し、抗生物質耐性を獲得し、抗原を多様化し、病原性因子を獲得する自然形質転換 (natural transformation)が常に起こっている。
  • 自然形質転換 機序として、バクテリアが外部DNAをその細胞表面から伸びる微細な器官pili (ピリ)を介して外部DNAを捉え、引き付け、外膜を通してDNAを細胞質へと取り込とするモデルが、広く受け入れられている。一方で、ピリは外部DNAに結合せずピリが外膜の分泌ポアを開ことで外膜を通した外来DNAの細胞質への拡散が進むとするモデルも提唱されている。
  • 2013年にR. Laurenceauらが (PLoS Pathog, 2013)、Streptococcus pneumoniaeにおいてアフィニティークロマトグラフィーによってDNAがピリと共精製されることを報告したが、DNAとピリの間の確率的な共局在と直接結合との判別には至らなかった。Indiana UniversityとCUNY Brooklyn Collegeの研究チームは今回、Vibrio choleraeにおいて、ピリ タイプⅣ (Type Ⅳ pili)が伸長しその先端で外部の二本鎖DNAを捉えた後に、収縮して先端に結合したDNAを細胞表面へと引き付ける動態と、この収縮が時空間的に外来DNAが内在化に共役することを、蛍光顕微鏡で観察することに成功した (Brun Lab 2018-06-22ツイート参照)。
  • crisp_bio注:ピリ タイプⅣの合成・伸長・収縮のモデル図 (Wikipediaから引用)参照Type IV Pilus Twitching Motili.
  • 具体的には、先行研究で開発していた手法 (Science 2017)により、ピリをAF488-malで、DNAをCy3またはMFP488で、ペリプラズムにおいてDNAに結合するComEAをmCherryで、それぞれ標識し、蛍光顕微鏡で観察した。

1. 送達法:pH-応答性多機能アミノ脂質*とCRISPR/Cas9ナノ粒子を作成・評価
[出典] "Synthesis and Evaluation of pH-Sensitive Multifunctional Lipids for Efficient Delivery of CRISPR/Cas9 in Gene Editing" Sun D [..] Lu ZR. Bioconjugate Chem. 2018-12-24. (*) (1-aminoethyl)iminobis[N-(oleicylcysteinyl-1-amino-ethyl)propionamide] (ECO)
  • アミノ脂質ECOとCRISPR/Cas9システムのDNAプラスミドとのナノ粒子は、100-200 nmのサイズで、溶血性はpH依存 (7.4で最小;5.5と6.5で上昇)、N/P(アミン/リン酸)比10で細胞障害性が小さい。
  • NIH3T3/GFP細胞においてCas9とsgRNAの発現はいずれも脂質の構造に依存
  • し(4.4 - 33%)、GFPのノックダウン率は、タンパク質で50%、mRNAで80%に達した。
2. 特許:Cas9とTREX2の共発現による標的変異誘発法
Date of grant 2018-12-18. Inventors Stark JM, Yanez D. Assignee City of Hope.
  • crisp_bio注:Cas9-TREX2融合タンパク質がDSB修復に与える影響については例えば、"Mutations generated by repair of Cas9-induced double strand breaks are predictable from surrounding sequence (bioRxiv. 2018) Figure 5参照
3. 疾患モデル:家族性アルツハイマー病モデル細胞としてAPP遺伝子にヘテロ型のV717IまたはKM670/671NLの変異を帯びたiPSC細胞樹立
[出典] Lab Resource "Generation of two iPSC lines with either a heterozygous V717I or a heterozygous KM670/671NL mutation in the APP gene" Frederiksen HR [..] Freude K. Stem Cell Res. 2018-12-24.
  • CRISPR-Cas9により、健常者由来iPSC細胞にヘテロ型のV717IとKM670/671NLの変異を導入
4. 疾患モデル:レッシュ・ナイハン症候群マウスモデル作出
[出典] "New personalized genetic mouse model of Lesch-Nyhan syndrome for pharmacology and gene therapy"  Kalmykov VA [..] Lukyanov NE. Research Results in Pharmacology. 2018-12-15.
  • ロシアで発見されたHPRT1遺伝子の第1エクソンの81Val欠損による患者の個別化マウスモデルをCRISPR/Cas9技術で開発
5. 疾患モデル:[レビュー]マカクとマーモセットをはじめとする非人類霊長類(NHP)遺伝子改変モデル樹立の動向
[出典] Review "Generation of genetically engineered non‐human primate models of brain function and neurological disorders" Park JE, Silva AC. Am J Primatol. 2018-12-26.
  • 脳機能と神経疾患の研究資源として有用な遺伝子改変NHPモデルの研究開発をレビュー:外来遺伝子過剰発現モデル (表1)、遺伝子破壊モデル (表2)、著者が開発したマーモセット・モデルなど
6. 遺伝子治療:CRISPR体細胞ゲノム編集による療法を、鎌状赤血球症コミュニティーはどのように見ているのか
[出典] "A CRISPR focus on attitudes and beliefs toward somatic genome editing from stakeholders within the sickle cell disease community" Persaud A, Desine S, Blizinsky K, Bonham VL. Genet Med. 2018-12-24.
  • SCDに対して現時点で唯一の根治的治療である造血幹細胞移植 (Hematopoietic stem cell transplantation, HSCT)は90%を超える無再発生存率を実現するが、HSCTの適用基準を満たす患者は極めて限られている。また、過去40年間、成人SCD患者の平均余命が伸びてきた一方で、若年死は続いている。
  • SCDはβ-グロビン遺伝子の第6エクソンの単一変異 (A→T)が病因であることから、 CRISPR技術を介した体細胞ゲノム編集療法の最初の標的とされている。すでに、胎児型ヘモグロビン (HbF)の発現を誘導する手法による治験が始まり (関連crisp_bio記事:2018-10-11 米国FDA、CRISPR TherapeuticsとVertexの鎌状赤血球症のCTX001治験保留を解除)、また、患者骨髄から造血幹細胞・前駆細胞 (HSPC)を除去し、ex vivoで病因変異をCRISPR技術で修復し、修復細胞を増殖する技術の研究も進められている。
  • NHGRI/NIHの研究チームは今回、CRISPR技術SCD療法の臨床応用が順調に展開することを目指して、医療から阻害されてきた歴史を帯びているSCDコミュニティ (患者6グループ、患者の両親6グループ、ならびに医師3グループ)の意識調査を、教育用ビデオ - ゲノム編集と将来の治験への参加に関する調査票記入 - フォーカス・ グループ・ インタビューを経て、2017年12月に実施した。
  • 調査参加者は、ゲノム編集技術によるSCDの新たな治療法に希望を見出すとともに、療法の負担と不確実性および公平なアクセスに不安を抱いていた。
7. 生命倫理・規制:オーストラリアにおける胚遺伝子編集の法的位置付け
[出典] "Legality of Embryonic Gene Editing in Australia" Taylor-Sands M, Gyngell C. J Law Med. 2018-12-26
  • 既存のProhibition of Human Cloning for Reproduction Act 2002 (Cth)とResearch Involving Human Embryos Act 2002 (Cth) では不十分であり、法改正が必要

1. CRISPR-Cas9 HDR効率を細胞周期アレストを誘導することで向上させる
[出典] "Timed inhibition of CDC7 increases CRISPR-Cas9 mediated templated repair" Wienert B [..]  Richardson CD, Corn JE. bioRxiv. 2018-12-19.
  • UC Berkeley, UCSFならびにUCSBの研究グループは、DNA代謝遺伝子~2,000種類を標的とするプール型CRISPRiスクリーンニングにより、二本鎖ドナー DNA (以下、dsDonor)に基づくHDRを調節する細胞内在因子を同定し、HDRの効率向上を実現した。
  • dsDonorを介したHDRは、一本鎖DNA (ssDonor)を介したHDRとは異なる修復パスウエイーを辿ることが明らかになったが、Fanconi Anemia (FA*パスウエイ依存性は共通であった。
  • (*) FA関連crisp_bio記事:2018-08-07 FANCAが一本鎖アニーリングと相同鎖交換を触媒することで、DSBの相同組換え修復を亢進するCRISPRメモ_2018/07/30 1.ヒト細胞のCRISPR-Cas9ゲノム編集に、Fanconi anemiaパスウエイが関与する。
  • DSBのdsDonorに基づくHDRに必要とされる遺伝子群と、HDRを抑制する遺伝子群(CRISPRiノックダウンを受けたことでHDRの効率が向上した遺伝子)をそれぞれ同定 (原投稿Figure 1-B参照)。
  • HDR抑制遺伝子を阻害する低分子をスクリーニングし、細胞分裂周期7相同体タンパク質キナーゼ (cell division cycle 7-related protein kinase, CDC7)阻害剤XL413が、初代T細胞を含む多くの細胞型でHDR効率を2-3倍向上することを見出した。
  • また、XL413が S期早期における細胞周期アレスト誘導による細胞周期調節を介したHDRを亢進することを同定した。
  • XL413およびそれに類した低分子を利用することで遺伝子編集の効率をさらに高めていくことが可能である。
  • HDR効率と細胞周期調節関連crsip_bio記事:2018-04-15 細胞周期を制御することで造血幹細胞・前駆細胞における精密遺伝子修復を亢進する
2. MMEJを介して、CRISPR/Cas9による分裂酵母ゲノムへの効率的ノックインを実現
[出典] "Microhomology-mediated CRISPR/Cas9-based method for genome editing in fission yeast" Hayashi A, Tanaka K. bioRxiv. 2018-12-17.
  • CRISPR/Cas9による二本鎖DNA切断 (DSB)サイトの両側と相同な短い (6-40 bp)配列を帯びたドナーDNAを利用するMMEJ (Microhomology Mediated End Joining/マイクロホモロジー媒介末端結合)*を介したノックインが、線虫、魚類およびヒト細胞株で実現されている。
  • (*) MMEJを介したゲノム編集関連crisp_bio記事CRISPRメモ_2018/09/25 (3件) - 3. MMEJの安定した活性化を介して精密な遺伝子編集を実現;2017-05-06 TALENまたはCRISPR/Cas9を使ったゲノム編集において、ヒト培養細胞、カエル、カイコへの正確かつ高効率な遺伝子ノックインを実現したPITch法
  • 関西学院大学の研究チームは今回、誘導性プロモーターによるSpyCaS9の発現と短い (25 bp)相同DNAを組み合わせることでMMEJを介した分裂酵母染色体への点変異、エピトープおよびGFPタグの効率的な挿入を選択マーカに依存することなく実現した (下図は原投稿Fig. 1から引用したgRNAとgRNA-Cas9発現ベクターの構成)。fission yeast

出典
  • [ニュース] "Better mouse model built to enable precision-medicine research for Alzheimer’s - NIH-funded team shows that introducing genetic diversity improves translatability" NIH News 2018-12-27.
  • [論文] Neuner SM, Heuer SE, Huentelman MJ, O’Connell KMS, Kaczorowski CC. "Harnessing Genetic Complexity to Enhance Translatability of Alzheimer’s Disease Mouse Models: A Path toward Precision Medicine"  Neuron. 2018-12-27. (bioRxiv 2017-11-27 "Systems genetics identifies modifiers of Alzheimer’s disease risk and resilience")
背景
  • ADのハイリスク遺伝子あるいはバイオマーカを帯びているにもかかわらず認知症を発症しない個人が多々存在することが象徴するように、ADの発症や病態は遺伝的背景 (genetic makeup)に依存する。しかし、この知見が前臨床試験に反映されることはこれまでなかった。適切なADモデルマウスが存在しなかったことが一因である。
  • Jackson LaboratoryをはじめとするUniversity of Tennessee Health Science Center、Tufts UniversityおよびTranslational Genomics Research Instituteの研究チームは今回、遺伝的多様性を組み入れることで精密なADモデルマウスを作出することが可能であるという仮説を検証し、実証した。本研究は、米国NIHのアルツハイマー病研究プロジェクトのサブテーマ"Aging Resilience - AD program"*の一環として行われた。 
AD-BXDパネルの開発と期待
  • すでに確立されていた家族性アルツハイマー病 (FAD)のトランスジェニックモデルマウス5XFAD  と、C57BL/6 (B6)×DBA/2の交雑から生じたリコンビナント近交系マウス (BXD)パネルとの交配から得られたF1ハイブリッドのマウスパネルを開発
  • 5XFADは、ヒトAD遺伝子を除いてB6近交系の遺伝的構成を帯び、アミロイド-β42の蓄積、認知障害、および神経細胞の脱落といったヒトADの病理・病態を示す。BXDパネルは、ADのリクス因子として知られている遺伝子の変異を含む480万種類を超える配列の多様性を帯びている。
  • AD-BXDパネルの各個体は、ヒトAPPイタとPSEN1イタ遺伝子のハイリスクFAD変異を共有しつつ、その他の遺伝子構成は多様である。
  • AD-BXDパネルを同一の条件で飼育しまた同一の薬剤に暴露することで、ADに対する感受性またはレジリエンスをもたらす遺伝的変異やパスウエイを系統的に同定することが可能になることを期待できる。
  • 親系統がいずれも完全な近交系であるAD-BXDパネルは、再現性の高い前臨床試験をもたらすことを期待できる。
AD-BXDパネルの評価
  • AD-BXDパネルは、発症と重症度、晩発性AD (late-onset AD, LOAD)のハイリスク遺伝子における変異に対する感受性などを含むヒトADの病理と病態を忠実に再現し、また、その遺伝子発現プロファイルもヒトADと整合した。
  • AD-BXDパネルを評価する過程で、C57BL/6Jに由来するADに対する一連のレジリエンス遺伝子とパスウエイを発見した。
  • AD-BXDパネルには異常にリン酸化されたタウが反映されていないことが完全なヒトADモデルとしては課題を残しているが、遺伝的多様性の観点からタウ、アミロイドおよび認知機能の相関を見ていくには有用である。
  • 近年、AD治療薬の前臨床試験での好成績が創薬に繋がらないことから、ADモデルマウスの有用性に疑義が呈されてきた。多様な遺伝的背景を取り込んだAD-BXDパネルは、ヒトFADおよび孤発性LOADの複雑な因果関係の解明、および、ADリスクとレジリエンスと相関するパスウエイの同定の発見に有用な、次世代ADモデルマウス資源である。
関連するデータベースと論文
アルツハイマー病関連crisp_bio記事
  • 2018-11-26 神経細胞に起こる体細胞組み換えが、アルツハイマー病抗体医薬苦戦の原因か


[出典] "CHESS: a new human gene catalog curated from thousands of large-scale RNA sequencing experiments reveals extensive transcriptional noise" Pertea M [..]  Salzberg SL. Genome Biol. 2018 Nov 28;19(1):208. ; "Thousands of large-scale RNA sequencing experiments yield a comprehensive new human gene list and reveal extensive transcriptional noise" bioRxiv 2018-05-28.
  • JHUのM. PerteaとS. L. Salzbergらの研究チームは今回、Genotype-Tissue Expression (GTEx)プロジェクト (NatureAsia 2017/10/12)におけるRNAディープシーケンシング9,795件の結果をもとに、ヒト遺伝子と転写物のカタログを改訂し、CHESS2.1 (Comprehensive Human Expressed SequenceS) としてWebサイトhttp://ccb.jhu.edu/chess から公開した (データ解析パイプライン 原論文Fig. 5引用下図参照)。CHESS
  • CHESS 2.1には、42,611種類の遺伝子と323,258種類の転写物が網羅されている:収録遺伝子は、タンパク質コーディング遺伝子20,352種類、lncRNA遺伝子18,887種類を含むノンコーディング遺伝子22,259種類である;収録転写物は、タンパク質アイソフォーム26,331種類とノンコーディングRNAsである。
  • CHESS 2.1は、RefSeq (2017年時点)およびGENCODEの遺伝子を網羅し、さらに、新奇なタンパク質コーディング遺伝子、lncRNAs遺伝子、および転写物をそれぞれ、224種類、2,671種類、および116,156種類、含んでいる。
  • CHESS 2.1は、GTExデータセットからStringTieを介して当初668,018遺伝子座にわたり30,467,424種類の転写物を検出し、続いて、偽遺伝子 (pseudogene)や単一エクソンからなるノンコーディング転写物など機能をもたないと推定される転写物を除いた結果である。すなわち、CHESS2.1 構築の過程で結果的に、ヒト細胞における転写ノイズの大きさが示された。
 原論文の図表一覧
  • Table 1. CHESSとRefSeqとの遺伝子比較表
  • Table 2. RefSeqに存在しCEHSSでは日検出のタンパク質コーディング遺伝子 (その後、CHESS論文に基づきRefSeqから削除)
  • Table 3. CHESSとRefSeq/GENCODE/FANTOMとの転写物比較表
  • Fig. 1 CHESS新奇タンパク質コーディング遺伝子の構造例
  • Fig. 2 CHESS (v2.1), RefSeq (rel 108)およびGENCODE (v28)のイントロンと転写物の一致度べン図
  • Fig. 3 CHESS新奇タンパク質コーディング遺伝子とlncRNA遺伝子について、その発現の性差および組織依存性を示すグラフ
  • Fig. 4 CHESS新奇タンパク質コーディング遺伝子2種類について、他の霊長類5種類の相同配列のマルチプルアラインメントと、MS/MSスペクトルから同定したペプチド配列

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