2019年02月

1. [プレビュー] CRISPR-Casのミニマムシステム
[出典] PREVIEW "CRISPR-Cas Systems Reduced to a Minimum" Almendros C, Kieper SN, Brouns SJJ. Mol Cell 2019-02-21;73(4):641-642.
  • 2019年2月21日Molecular cell誌に掲載された、Cas1タンパク質単独でアダプテーションを実現している二種類のタイプV CRISPR-Casシステムを発見したWrightらの論文*と、小型でPAMとしてNNNNCCと単純なCCのジヌクレオチドを認識する髄膜炎菌由来のCRISPR-Casシステムを発見したEdrakiらの論文**をプレビュー
  • 両論文は、オンライン出版時にcrisp_bioで紹介:(*) 2019-01-31 タイプV-C/D CRISPRシステムの免疫記憶はCas1単独で形成される;(**) 2018-12-22 髄膜炎菌から3拍子揃ったCas9 - コンパクト・ジニヌクレオチドPAM認識・高精度
2. 還元性分岐型エステル-アミン四元共重合体 (rBEAQs)によるCRISPR/Cas9システムの送達
[出典] "Reducible branched ester-amine quadpolymers (rBEAQs) co-delivering plasmid DNA and RNA oligonucleotides enable CRISPR/Cas9 genome editing" Rui Y, Wilson D, Sanders K, Green JJ. ACS Appl Mater Interfaces. 2019-02-22.
  • DNAプラスミドとRNAオリゴヌクレオチドを共に送達可能とするナノ粒子を生分解性のプリマーで実現し、DNA-siRNAやCRISPR DNA-sgRNAの効率的送達を実現
3. E. coliのタイプI-E CRISPR/Casシステムは、獲得免疫応答システムとしてよりも内在遺伝子調節システムとして機能している
[出典] "Endogenous Gene Regulation as a Predicted Main Function of Type I-E CRISPR/Cas System in E. coli" Bozic B, Repac J,  Djordjevic M (University of Belgrade). Molecules. 2019-02-21.
  • E. coliのゲノムとE. coliウイルス ~230種類の配列のアライメントから始まるin silico解析から、CRISPRスペーサがファージゲノムよりも宿主ゲノムを標的する傾向が顕著であることをはじめとして、 E. coliのタイプI-E CRISPR/Casシステムが宿主遺伝子の転写調節に関与することを示唆するデータを得た。
4. DNAのトポロジーが、Cas12a (Cpf1)によるR-ループの形成とDNA鎖切断に与える影響
[出典] "The Effect of DNA Topology on Observed Rates of R-Loop Formation and DNA Strand Cleavage by CRISPR Cas12a" van Aelst K [..] Szczelkun MD. Genes. 2019-02-22.
  • 単分子磁気ピンセット (magnetic tweezers, MT)を利用して、LachnospiraceaeバクテリアND2006 Cas12aによるR-ループ形成が、負のDNA超らせんのトポロジーで亢進することを見出した。また、超らせんトポロジーのプラスミドDNAの切断が、 トポロジーに依存するR-ループ形成を介して、DNAまたはニックの入った環状DNAの切断よりも50倍以上速いことを見出した。
  • R-ループ関連crisp_bio記事:CRISPRメモ_2017/11/19 - 5. CRISPR-SpyCas9によるゲノム編集時のR-loop形成の動態を一分子FRET(smFRET)で解析
5. 発光タグHiBitが、CRISPRノックインが起こったヒトiPSCsの効率的スクリーニングを実現する
[出典] "Luminescent peptide tagging enables efficient screening for CRISPR-mediated knock-in in human induced pluripotent stem cells [version 1; referees: awaiting peer review]" Madsen RR, Semple RK. Wellcome Open Research 2029-02-28.
  • ヒトiPSCsは、HDRを介した遺伝子ノックインの効率が著しく低く (<1%)、CRISPRシステムが誘導するDNA損傷と一細胞クローニングの繰り返しを含む最適とは言えない実験条件の影響を受けやすいことから、CRISPR技術を介してiPSCsから疾患モデルを構築することは簡単ではなく、また、通常の研究室の限度を超える経費を必要とする。
  • University of Edinburghの研究グループは今回、iPSCsの機能には干渉しない膜表面タンパク質CD46の細胞外ドメインをHiBitタグで標識しておくことで、目的とする改変が起きたiPSCsをシーケンシングをすることなく、短時間で選別可能なことを示した。
  • HiBiT関連crisp_bio記事:CRISPRメモ_20170918 [第1項] タンパク質を発光性ペプチドHiBiTでCRISPR標識し、細胞内動態を追跡
6. CRISPR-Clear: フィールドで利用可能な遺伝子ドライブ検出装置
[出典] "CRISPR-Clear: A Fieldable Detection Procedure for Potential CRISPR-Cas9 Gene Drive Based Bioweapons"  Nieuwenweg AC [..] Saggiomo V. ChemRxiv. 2019-02-23.
  • 遺伝子ドライブの場合、通常のCRISPR/Cas9遺伝子編集と異なり、Cas9が宿主ゲノムに埋め込まれていることから、宿主ゲノム内のCas9配列を増幅・検出することで、遺伝子ドライブで改変された個体を識別可能になる。
  • Wageningen University and Researchなどのオランダの研究チームは、PCRよりも選択性が高く、安く、高速で、等温反応であるLAMP法と、バッテリー駆動で温度調節が可能なArduinoシステムによって、CRSIPR-Cas9遺伝子ドライブのエレメントを帯びた個体の識別を実現した。
7. [レビュー] CRISPR/Cas9によるテロメアとテロメアの研究
[出典] REVIEW "Targeting Telomeres and Telomerase: Studies in Aging and Disease Utilizing CRISPR/Cas9 Technology" Brane AC, Tollefsbol TO (University of Alabama at Birmingham). Cells. 2019-02-21.
  • CRISPR/Cas9によるテロメアとテロメアーゼの可視化と編集、テロメアとテロメアーゼに関連する遺伝子スクリーンと機能解析、エピゲノム編集についてレビュー
8. Cas9nAR: Cas9ニッカーゼに基づくユニバーサルな等温DNA増幅反応法
[出典] "An RNA‐Guided Cas9 Nickase‐Based Method for Universal Isothermal DNA Amplification" Yin BC, Wang T, Liu Y, Sun HH, Ye BC. Angew Chem Int Ed Engl. 2019-02-18.
  • Cas9nARの名称はCas9 nickase-based amplification reactionに由来する。Cas9nARは、sgRNA:Cas9n複合体、鎖置換型DNAポリメラーゼ (strand-displacing  DNA  polymerase)、Cas9nの切断標的配列を帯びたプライマー1セットで構成され、プライミング、伸張、ニッキングおよび鎖置換反応のサイクルを繰り返すことで、DNAを多段複製する。
  • Cas9nARにより60分以内に20 μLの反応系における2コピーを検出可能であり (検出限界ゼプトモル)、1塩基の差異を判別可能である。
9. Cpf1 (Cas12a)を介したノックアウトで、アテローム性動脈硬化症モデルラットを作出
[出典] "Knockout rat models mimicking human atherosclerosis created by Cpf1-mediated gene targeting" Lee JG, Ha CH [..] Lee Sw, Sung YH, Baek IJ. Sci Rep. 2019-02-22.
  • Cpf1による初のラットゲノム編集を試み、ApoeそしてまたはLdlrを標的とし、高効率、生殖細胞系伝達、多重遺伝子同時編集、最小限のオフターゲット作用を実証した。Apoeノックアウトラットは脂質異常と大動脈病変を呈するなど、アテローム性動脈硬化症の発症機構と早期の進行を研究するモデルとしてマウスモデルより優れていることが示した。
10. CRISPR/Cas9多重ゲノム編集により酵母におけるエタノール代謝パスウエイを最適化
[出典] "Using CRISPR/Cas9 for multiplex genome engineering to optimize the ethanol metabolic pathway in Saccharomyces cerevisiae" Liu K [..] Xue T. Biochem Eng J. 2019-02-22.
  • Cpf1 (Cas12a)により、アルコールデヒドロゲナーゼ2 (ADH2), グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ 1 (GPD1)およびアルデヒドデヒドロゲナーゼ4 (ALD4)の三種類の遺伝子単独および2遺伝子と3遺伝子のあらゆる組み合わせのノックアウトを試行し、80-100%の効率を達成し、最適条件で、エタノールの生産性を野生型の1.41倍にまで向上。
11. [プロトコル] δ配列を標的とするCRISPR-Casによる酵母代謝工学
[出典] PROTOCOL "Delta Integration CRISPR-Cas (Di-CRISPR) in Saccharomyces cerevisiae" Shi S, Liang Y, Ang EL, Zhao H. In: Santos C., Ajikumar P. (eds) Microbial Metabolic Engineering. Methods in Molecular Biology. 2019-02-21.
  • 酵母ゲノムにはノックインの標的になりえるδ配列が多数散在している。A*STARの研究チームは今回、δサイトを標的とするDi-CRISPR (delta integration CRISPR-Cas)プラットフォームを開発し、マーカレスかつこれまでにない高い効率でマルチコピーの大型の生合成パスウエイを酵母に組み込むプロトコルを確立した。

4. ヒト初代B細胞におけるB細胞受容体の編集
[出典] "CRISPR-Mediated Editing of the B Cell Receptor in Primary Human B Cells" Greiner V, Puerto RB, Liu S, Herbel C, Carmona EM, Goldberg MS.iScience. 2019-02-22.
  • ワクチン療法はこれまで病原体由来の抗原が基本であり、個人によって量や機能が大きく変動する抗体は注目されてこなかった。一方で、B細胞受容体 (B cell receptor, BCR)の重鎖と軽鎖の遺伝子座の可変領域を、有効なモノクローナル抗体の一定の組み換え配列で置換することができれば、養子細胞移植による療法が実現する。
  •  Dana-Farber Cancer Instituteを中心とする米国ボストンの研究グループは今回、CRISPR/Cas9技術によりヒト初代B細胞のBCRの相同組み換え (HR)を実現した。
  • CRISPR/Cas9とsgRNAのRNPをエレクトロポレーションすることで、モデル遺伝子座のCXCR4における編集を、T7E1アッセイ、フローサイトメトリーおよびTIDE解析により、標的遺伝子座の編集を確認した。また、HRによる挿入をシーケンシング、PCRおよび制限酵素消化により確認した。
  • 最適化を経てBCRの可変領域でのHRを介した内在BCRプロモータによる外来遺伝子発現を実現した。
5. CRISPR/Cas9 KOにより、抗微生物ペプチド (antimicrobial peptides, AMPs)のin vivo機能を探った
[出典] "Synergy and remarkable specificity of antimicrobial peptides in vivo using a systematic knockout approach" Hanson MA, Dostálová A, Ceroni C, Poidevin M, Kondo S, Lemaitre B. eLife. 2019-02-26.
  • AMPsは小型、主として陽イオン性、通常両親媒性のペプチドであり植物と動物の自然免疫に貢献する宿主ゲノムにコードされた'抗生物質'である。In vitroでのこれまでの研究から、生理濃度でバクテリアと菌類を殺傷することが明らかにされてきたが、AMPsのin vivoでの機能同定はほとんど為されていない。
  • Global Health Institute, Université Paris-Saclayおよび国立遺伝学研究所の仏日研究グループは今回、ショウジョウバエin vivoでCRISPR/Cas9により14種類のAMPs (4 Attacins, 4 Cecropins, 2 Diptericins, Drosocin, Drosomycin, MetchnikowinおよびDefensin)を単独あるいは種々の組み合わせでノックアウトし、また、全てのAPMsをノックアウトし、その抗菌性を検証した。
  • ショウジョウバエのAMPsは主としてグラム陰性菌と菌類に対して抗菌性を発揮し、相加的または相乗的に作用する。AMPsはまた特定のバクテリアや菌類に対して選択的な抗菌性を示す。
6. 複数の環境条件での遺伝子相互作用同定を容易にするCRISPRiSeq法を構築
[出典] "Improved discovery of genetic interactions using CRISPRiSeq across multiple environments" Jaffe M, Dziulko A, Smith JD, St.Onge RP, Levy SF,  Sherlock G. Genome Res. 2019-02-19.
  • モデル生物の酵母における大規模な遺伝子相互作用 (genetic interaction, GI)の同定実験のほとんどが、コストと時間の問題から単一の環境での実験に限られていた。Stanford University School of Medicineをはじめとるす米国研究グループは今回、CRISPRiとシーケンシング解析を組み合わせてハイスループットなGI解析を可能とするCRISPRiSeq法を構築し、さまざまな環境にわたるGI解析を実現した(原論文 Figure 1引用下図左参照)。CRSIPRiSeqでは、プール型CRISPRiライブラリー (同図gRNA1)に、クエリーに相当するコンストラクト (同図gRNA2)を形質転換し、二重CRISPRi株を生成する。
Rapid double CRISPRi 2019-02-28 12.48.24
  • 具体的には、5種類の環境条件における~7,700組のペアワイズ相互作用にわたる~17,000株のフィットネスを評価し、最適培養条件でみられるGIsの~3倍におよぶGIsを同定した。また、それぞれの環境条件に特有なGIsの存在が、遺伝子の機能分類に活用可能なことを示した (原論文Figure 3引用上図右参照)。

1. DNAをストレッチするとCas9オフターゲット編集が亢進する
[出典] "DNA stretching induces Cas9 off-target activity" Newton MD [..] Cuomo ME, Rueda DS. Nat Struct Mol Biol. 2019-02-25.
  • Imperial College London,  Astra Zenecaなどの英国の研究グループ*は今回、SpyCas9複合体の5'末端をCys3色素で標識し、光ピンセット (optical tweezer)で引き伸ばしたλ-DNAに対するSpyCas9の結合・切断を共焦点顕微鏡により一分子分解能でリアルタイム観察した(* Opteicl Tweezerで知られる本社オランダのLUMICKS BV社も共著者)。
  • SpyCas9複合体は、引っ張り応力が低い状態のλ-DNAには、オンターゲットに特異的に結合し、切断する。
  • DNAへの引っ張り応力を高めていくと、DNAの機械的ねじれを介して、crRNA配列に依存する形で、SpyCas9は多数のオフターゲットサイトに繰り返し結合するようになった。これらのオフターゲットサイトの中で10塩基のミスマッチを含む3サイトについて、一分子FRET (smFRET)と切断アッセイを加え、DNAバブル形成を介しSpyCas9が結合と切断を繰り返すことを明らかにした。
  • 研究グループは、転写、複製、DNA修復またはDNAスーパーコイリングといった内在細胞過程で発生する二本鎖DNAの不安定化により、オフターゲットサイトにCas9が結合・切断可能となることを示唆。
2. SaCas9 mRNAをレンチウイルス様バイオ・ナノ粒子で送達することでmRNAによる一時的かつ効率的ゲノム編集を実現
[出典] "Delivering SaCas9 mRNA by lentivirus-like bionanoparticles for transient expression and efficient genome editing" Lu B, Javidi-Parsijani P, Makani V, Mehraein-Ghomi F [..] Atala A. Nucleic Acids Res. 2019-02-13.
  • SaCas9 mRNAのMS2アプタマRNAを融合し、レンチウイルスタンパク質にMS2コートタンパク質を融合することで、SaCas9 mRNAを100コピーまでパッケージ可能なレンチウイルス様バイオ・ナノ粒子 (lentivirus-like bionanoparticle, LVLP)を開発した (原論文 Figure 1引用下図参照)。SaCas9
  • SaCas9 LVLPsはgRNAの存在下で、SaCas9の一時的発現と効率的なゲノム編集を実現した(HEK293細胞において、一細胞あたり1.2–2.5 pg p24 LVLPで85%を超えるindel率を達成)
  • また、SaCas9を発現するAAVまたはレンチウイルスによる送達に比べて、オフターゲット作用が顕著に抑制されることを確認した。
3. Base editor (BE)またはHDRを介した一塩基置換を支援するWebサービスCUNE
[出典] "Unlocking HDR-mediated nucleotide editing by identifying high-efficiency target sites using machine learning" O’Brien AR, Wilson LOW, Burgio G,  Bauer DC. Sci Rep. 2019-02-26.
  • 単一塩基の編集は遺伝疾患の解明と治療に極めて有用な技術である。近年CRISPR技術に基づいた一塩基編集法'base editing'(BE)が開発されたが、塩基置換のパターンが限られ、また、編集可能な領域がCRISPR-Casの標的サイト近傍の狭いウインドウ幅に限られている。一方で、より柔軟な塩基置換を可能とする相同組み換え修復 (HDR)は、効率が極めて低い。
  • Australian national UniversityとCSIROのオーストラリアの研究チームは今回、マウスを対象とするCas9を介したHDR実験を行いそのデータを基にした機械学習 (ランダムフォレスト法)により、修復用テンプレートとするssODNの配列組成が、HDRの効率に決定的な影響を与えることを確認した。また、ssODN全体の組成比とは別に、ssODNの3'末端領域がHDR効率に強く影響することを同定した。なお、Cas9の切断サイトと点変異誘導サイトの間の距離はHDR効率と相関しなかった。
  • 研究チームはCas9による二本鎖切断 (DSB)頻度に影響を及ぼすgRNAと、HDRの効率に影響を及ぼす3' ssODNを組み合わせたモデルを開発し、BEによる塩基置換またはHDRを介した塩基置換の最適化を支援する CUNE (Computational Universal Nucleotide Editor)を確立し、Webサイト  (https://gt-scan.csiro.au/cune)から公開した。CUBEは、関心のある遺伝子座における標的塩基候補を提示するとともに、最適なBEとHDR (ssODN)を提示する (下図参照:原論文Supplementary Figure 1に準拠した画面キャプチャ)。CUNE

[出典] "A neuron-optimized CRISPR/dCas9 activation system for robust and specific gene regulation." Savell KE [..] Day JJ. eNeuro. 2019-02-25.

概要
  • University of Alabama at Birminghamの研究チームは今回、神経細胞特異的プロモーター (ヒトのシナプシン)のプロモータを利用することで、ラット神経細胞においてCRISPRa (dCas9-VPR)による十分な遺伝子発現活性化を実現した。
In vitro実験
  • ラットの大脳皮質、海馬および線条体由来の初代神経細胞において、遺伝子のクラスやサイズに左右されない遺伝子発現活性化を確認した。また、多重sgRNAsによる単一遺伝子の相乗的な発現活性化や、異なる一連の遺伝子の発現を同時に活性化することも確認した。また、VPRを転写抑制因子KRABに替えたCRSIRPi (dCas9-KRAB)による発現抑制も、転写開始点近傍を標的とすることで可能なことを確認した。
  • シナプスの可塑性、学習および記憶に関与する重要な因子であり複雑な転写調節を受ける脳由来神経栄養因子 (Brain-derived neurotrophic factor, BDNF)をモデルとして、特定の転写物を選択的に上方制御することが可能なことを示した。BDNFは、9種類の5'ノンコーディング・エクソン (I-IXa)と、単一のコーディング・エクソン (IX)で構成されている (原論文Figure 3引用下図の a 参照)。neuron CRISPRa
    I-IXaにはそれぞれの上流に独自のプロモーター領域が存在することから、プロモーターの組み合わせによって多様な転写物が生成される。研究チームは、Bdnf IとBdnf IVを標的とするsgRNAによってそれぞれの転写物を独立に上方制御可能であり、また、双方のsgRNAを併用することでBdnf IX転写物を相加的に上方制御されることを示した (上図 b-d 参照)。
In vivo実験
  • CRISPRaをレンチウイルスにより成体ラットの前頭前皮質、海馬および側坐核に注入し、選択的な遺伝子発現活性化を実証した。 
参考crisp_bio記事
  • 2017-05-10 CRISPRiとCRISPRaは、ヒト細胞における遺伝子発現の抑制と活性化を、ゲノムワイドで調節可能にする:設計と実証

1. "CRISPRbabies"の余波 - 4つの問い
[出典] NEWS FEATURE "The CRISPR-baby scandal: what’s next for human gene-editing" Cyranoski D. Nature. 2019-02-26.

1) 賀建奎と双子に起こること
  • 賀建奎は広東省の保健省に譴責され南方科技大学から解雇されたが、今後、参加者募集における金銭問題、倫理審査書類の偽造、違法なHIV患者の生殖補助医療利用を可能とするための血液サンプルのすり替えなどに基づく刑事責任を問われると見られている。
  • 賀建奎は欧州人の10%に見られるHIV耐性変異の再現を主張しているが、第三者によって多様な変異が誘導されたことが明らかにされており、それらが双子にどのような影響を与えるか不明である。
  • また、CCR5はウエストナイル熱などの他の疾患に対する耐性に寄与する。CCR5不活性化によって双子が将来そうした疾患に罹患した場合は、賀建奎の刑事責任が問われると見られている。
  • 賀建奎は双子を18歳までフォローするとしていたが広東省保健省によって研究を禁じられた。一方で、中国の公的機関が、双子および2019年8月に出生するとされているもう一人のCRISPR babyに、今後どのように関わっていくのか、不明である。
2) CRISPR baby誕生に関与したとされる科学者に起こること
  • 賀建奎の計画の内情を知っていた (in the know)とされる研究者の責任が問われている。ライス大学は、最も事情通であったとされているMichael Deemの関与を調査中である。他に、賀が設立したスタートアップ企業のアドバーザであった複数の米国研究者も内情を知りながら沈黙していたとして非難されている (次項「賀建奎のプランに沈黙していた科学者たち」参照)
3) ゲノム編集研究に起こること
  • 賀建奎の実験は、何事も回転が早い現代では、いずれほとんど影響を残さないまま過ぎ去っていくとする意見もあるが、発生や発症の分子機構解明を目的としたヒト胚ゲノム編集あるいは体細胞ゲノム編集などの研究にバックラッシュが起こすことが危惧されている。
  • ヒト胚ゲノム編集を全面的に一時停止すべき (moratorium)という意見や、国際的なmoratoriumを志向する意見も出ている。一方で、遺伝疾患の抑止に他に選択肢がないヒト胚ゲノム編集実験を容認する主張も相次いでいる。
4) 次のCRISPR babies
  • 遺伝子編集に関連する各国の規制は、2016年時点では、restrictiveからpermissiveまで多様であり (出典の挿入図 THE LEGAL LANDSCAPE参照)、野心を抱く研究者やクリニックが次のCRISPR babiesを世に出す可能性がある。ミトコンドリア置換療法 (mitochondrial replacement therapy, MRT)は多くの国で禁止されているが、ロシア、ウクライナ、スペイン、アルバニアおよびイスラエルにはMRTを提供するクリニックが存在する。
  • crisp_bio注:MIT Technology Review (2019-02-01)に掲載された記事"The DIY designer baby project funded with Bitcoin"によると、プログラマーでありBitcoin投資家であるBryan Bishopは、「デザイナー・ベビー (enhanced babies)とヒト生殖細胞系列遺伝子編集を目的とするスタートアップ企業」を設立し、ウクライナのGerontology InstituteにBitcoinで資金提供をし、マウス精子の遺伝子編集実験を進めている。Bishopの提案書にはヒト胚ゲノム編集によるさまざまなヒトの機能拡張が記載されている。Bishopは、バイオハッカー・コミュニティーには、DIYゲノム編集を自ら試みた例がすでに現れているが、DIYゲノム編集を支援する動きも見せている。
2. 賀建奎のプランに沈黙していた科学者たち
[出典] WORLD VIEW "Why were scientists silent over gene-edited babies?" Natalie Kofler (Yale Interdisciplinary Center for Bioethics in New Haven). Nature. 2019-02-26.
  • 賀建奎とヒト胚ゲノム編集についてコミュニケーションを取っていた科学者は、公になるまで沈黙していた理由を、「賀建奎の意図が確かではなかった」「思い止まるよう説得した」「守秘する義務感」「国際的な規制組織が存在していなかった」としている。
  • これまでの科学の徳目は、独立性 (independence)、大志 ( ambition )および客観性 ( objectivity)であったが、ゲノム編集技術の進歩は、科学の徳目として、共感(cpmpassion)、人間性 (humanity)、他愛 (altruismt)、が必要なこと示唆している。これらの徳目が意識されていれば、現時点で、誕生する子、その両親、さらに、将来の子、に心身ともに予測不可能なリスクを負わせ、また、致死性遺伝子疾患の研究開発の進展を阻害することにもなる実験は、行われなかったであろう。
  • 国際的な規制や倫理的な枠組みについては注目が高まっている。賀建奎の計画を明らかに知っていた研究者に対する所属大学による調査が始まり、中国では賀建奎が処罰される見込みである。しかし、処罰だけでは不十分であり、社会的価値 (sptoetal value)の感覚を研究者の身につけさせる必要がある。
  • Scientific Citizenship Initiative, The Summer internship for INdigenous peoples in Genomics (SING) WorkshopEditing Natureなどの活動は、社会的意識が高くより公平で公正な科学の実現に貢献することを期待したい(*)。タスキギー梅毒実験や、ヘンリエッタ・ラックスから無断で採取したHeLa細胞の時から、ようやくここまで来たが、科学の有り様を極めるまでの道は長い
  •  (*) WHOは2019年3月18に、ヒト遺伝子編集のガイドラインを議論する場を設ける。
3. 参考

1) 2019-02-22 賀建奎らによるヒト胚でのCCR5遺伝子編集の意味を改めて考える (1)

2) 中国での初の受精卵ゲノム編集以後、中国、米国、英国などで相次いだ受精卵ゲノム編集

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