2019年03月

1. 多重なCRISPRアレイとcasクラスタの共存は、エピスタティックの相互作用を示唆する
[出典] "Co-occurrence of multiple CRISPRs and cas clusters suggests epistatic interactions" Bernheim A, Bikard D, Touchon M, Rocha E. bioRxiv. 2019-03-30.
  • 2016年11月にNCBIゲノムデータベースから取得した2,268 バクテリアゲノムと167アーケアゲノム (4,453プラスミドゲノムとを含む;9,227プロファージを同定)、1,943ファージゲノムのCRISPRアレイとcasin silicoで同定し、CRISPRアレイとcasの共存関係、CRISRシステムのタイプ・サブタイプの共存関係を解析;サブタイプの間にエピスタティックな関係 (ポジティブとネガティブの双方)が存在;プラスミドのCRISPRアレイによる宿主ゲノムのcas利用示唆;クラスタとファージとプロファージにも稀ではあるがCRISPR-Casシステムが存在
2. CRISPR-LbCas12aによる柑橘類ゲノム編集
[出典] "CRISPR-LbCas12a-mediated modification of citrus" Jia H, Orbović V, Wang N. Plant Biotechnol J. 2019-03-25.
  • プロモーターとして35Sを利用することで、CRISPR-LbCas12aによるダンカン・グレープフルーツのゲノム編集を実現し、カンキツかいよう病菌に対する耐性付与
3. [レビュー] CRISPR技術のフードサプライチェーンへの展開
[出典] REVIEW "Applications of CRISPR Technologies Across the Food Supply Chain" Brandt K, Barrangou R. Annu Rev Food Sci Technol. 2019-03-25. 関連投稿 CRISPR-Directed Microbiome Manipulation across the Food Supply Chain" Barrangou R. Notebaart RA. Trends Microbiol. 2019-04-16.
  • 食品産業に期待されている世界人口の膨張に見合うフードサプライチェーン拡充の手段の一つが、作物、家畜および微生物の品質改良である。これに答えるCRISPR-Cas技術の基礎と応用をNorth Carolina State UniversityのK. BrandtとR. Barrangouがレビュー
4. [特集号] 微生物CRISPR-Cas獲得免疫システムのエコロジーと進化 (レビューと論文のべ16編収録)
[出典] INTRODUCTION "The ecology and evolution of microbial CRISPR-Cas adaptive immune systems" Westra ER , van Houte S, Gandon S, Whitaker R. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2019-03-25.
  • 構成:CRISPR-Casシステムの進化と生物学的意味;自然環境におけるバクテリアとファージまたはアーケアとウイルスの共進化におけるCRISPR-Casシステムの役割;人工的な研究室環境における共進化のドライバーと結果;CRISPR-Casシステムの感染症抑止への応用と、その社会的・倫理的考察
5. [テキストブック] CRISPR遺伝子編集 - 手法とプロトコル
[出典] "CRISPR Gene Editing - Methods and Protocols" Luo Y. (eds)  Part of the Methods in Molecular Biology book series


Methods for CRISPR-gRNA Design and Quantification of Activity

Methods for CRISPR Delivery

CRISPR Gene Editing in Human iPSCs

CRISPR Gene Editing in Other Cell Types

CRISPR Gene Therapy and Screening


#crisp_bio注: 2019-03-31 挿入図 (Fig. 3)の重複を解消
[出典] "A CRISPR/Cas9-based central processing unit to program complex logic computation in human cells" Kim H, Bojar D, Fussenegger M. PNAS 2019-03-28.
  • ヒト細胞は、代謝物、成長因子、最近毒素などの環境からの入力を感知し、発生、分化または免疫といった応答を出力する。こうした出力は、内在する遺伝子回路における特定の遺伝子のスイッチの組み合わせに基づく論理演算に基づいて制御される。
  • こうした内在遺伝子回路に対して、高性能な細胞工場の開発や疾患の制御などを目指した論理回路の開発が試みられ、ヒト細胞で動作する「リコンビナーゼやインレグラーゼを論理回路のマスター制御素子 (中央演算装置: CPU)とする論理回路」がヒト細胞で実現されている (例 Nat Biotechnol, 2017)。
  • また、CRISPR-Cas技術にもとづく論理回路の構築も進んでおり、例えば、dCas9を利用した遺伝子の複合体転写調節もヒト細胞で実現されている (CRISPR関連文献メモ_2016/12/05 [第2項]  互いに直交する誘導可能なdCas9因子群によって複合的転写調節を実現 )。
  • ETH Zürichの研究チームは今回、遺伝子転写を抑制する機能を帯びたCRISPRi (dCas9-KRAB)とtRNA-gRNAを'CPU'とする遺伝子転写ON/OFFスイッチ (原論文Fig. 1から引用した下図左参照)、続いて、それらを組み合わせた一連の論理素子 (原論文Fig. 2から引用した下図右参照)を開発し、HEK293T細胞での動作を確認した (研究チームは、CRISPRiは、CRISPRaよりも代謝負荷が低く,合成遺伝子回路構築には効率的であるとしている)。
Fig. 1 Fig. 2
  • CPU (上図左 A): CPUを構成するdCas9はhCMVプロモータで発現し、gRNAは内在するRNase PならびにZによるプロセッシング後にhU6プロモータで発現し、dCas9-KRABと転写抑制複合体を形成する。このgRNAが入力となる (以下、igRNA)。
  • オペレータと出力 (上図左 B): オペレーターとしてプロモータの下流にigRNAの標的配列の2~4回反復配列を配置し、続いてレポータとなる蛍光タンパク質遺伝子、または、他の素子の制御用rgRNAsを結合
  • OFFスイッチ (上図左 Cの上図): igRNA (IA)が存在するとdCas9-KRABは活性を示しレポータまたはrgRNAの発現を阻害し、IAが存在しないとdCas9-KRABは不活性 (入力(0:1)に出力(1:0)が対応)。
  • ONスイッチ (上図左 Cの下図): igRNA (IA)が存在すると、hU6プロモータとTSSの間にIA結合部位を伴っていたrgRNAの発現が阻害されdCas9-KRABは不活性でレポータ/grRNA発現igRNAが存在しないと、rgRNAが発現しdCas9-KRABが活性となりレポータ/grRNAの発現抑制 (入力 (0:1)に出力 (0:1)が対応)。
  • 研究グループはさらに、dSpcas9-KRABにそれと直交するdSaCas9-KRABを組み合わせた'2コアCPU'を帯びた細胞も作出 (原論文Fig. 3引用下図参照)。Fig. 3

[参考crisp_bio記事] 2019-08-23 BE/Target-AID技術に倣い読み書き可能なDNA"フラッシュメモリドライブ"と論理演算子・遺伝子回路を実現

1. 細胞壁が未発達な受精卵にPEG–Ca2+を介してCRISPR/Cas9 RNPを直接導入する植物遺伝子編集技術を確立
[出典] "An efficient DNA- and selectable-marker-free genome-editing system using zygotes in rice" Toda E [..] Okamoto T. Nature Plant. 2019-03-25.
  • 理化学研究所、首都大学東京、JTならびに徳島大学 (兼務を含む)の研究グループは今回、先行研究で開発していたイネin vitro受精法 (Planta, 2007)により精細胞と卵細胞を電気的に融合後、細胞壁が未発達の期間内に、Cas9-sgRNAをRNPとしてPEG–Ca2+により直接導入し、受精卵培養と再分化を経て、遺伝子編集イネ再生に至った。編集効率は14-64%であった。
  • 本手法は、アルゴバクテリウムによる遺伝子導入法で必要となる選択マーカー遺伝子、Cas9 DNA、プロトプラストの分離・培養を必要としない特長を備えている。また、トウモロコシ、小麦および大麦のように受精卵の分離培養が実現されている作物については、配偶子の分離とその電気融合を介さず細胞壁分解酵素を利用することで、RNPのPEG–Ca2+送達による遺伝子編集を実現可能である。
2. CRISPR-Casシステムによりシロイヌナズナ・ゲノムにスカーレスな配列インバージョンを生成
[出典] "Efficient induction of heritable inversions in plant genomes using the CRISPR/Cas system" Schmidt  C, Pacher  M,  Puchta H. Plant J. 2019-03-22.
  • SaCas9を受精卵特異的に発現させることで、3-kbと18-KBの間隔の異なる遺伝子座にて実現;T2世代でのインバージョン頻度 ~10%
3. 病因変異のみを異にする同質遺伝子細胞のペアを対象とするCRISPR-Cas9スクリーンにより、フォン・ヒッペル-リンダウ腫瘍抑制遺伝子VHLと合成致死を誘導可能な遺伝子を探索 
[出典] "VHL Synthetic Lethality Signatures Uncovered by Genotype-specific CRISPR-Cas9 Screens"
Sun N [..] Chung N. bioRxiv. 2019-03-26.
  • 淡明細胞型腎細胞がん (clear cell renal cell carcinoma: ccRCC)においてVHLの不活性化が高頻度に見られる。VHL遺伝子の状態だけを異にする同質遺伝子のccRCCs一組みを対象とするCRISPR-Cas9ルクリーン (isogenic CRISPR screening)により、VHLと合成致死の標的として、良く知られているmTORシグナル伝達パスウエイに加えて、DNA修復パスウエイとセレノシステイン生合成パスウエイを同定した。
4. マウスに移植した患者由来組織を特異的に標的可能としたCRISPR-Cas9により、迅速なin vivo機能ゲノミクスを実現
[出典] "Direct genome editing of patient-derived xenografts using CRISPR-Cas9 enables rapid in vivo functional genomics" Hulton CH [..] Rudin CM, Poirier JT. bioRxiv. 2019-03-26.
  • In vivoがん研究の前臨床モデルとして有用ながん患者由来組織の異種移植 (Patient-derived xenografts: PDXs)マウスにおいて、移植組織を標的とするゲノム編集を可能とするdox誘導性CRISPR-Cas9レンチウイルスベクター pSpCTREを開発
5. マウスES細胞においてSox2のエンハンサ3種類 (E1; E2; E3)のCRISPR/Cas9 KOにより各エンハンサーの作用を同定
[出典] "Enhancer-promoter association determines Sox2 transcription regulation in mouse pluripotent cells" Huang L, Li Q [..] Zhang Y. bioRxiv. 2019-03-28.

1. CRISPR KOに続くデータ非依存性・質量分析 (DIA-MS)によるタンパク質機能解析
[出典] "Combining Rapid Data Independent Acquisition and CRISPR Gene Deletion for Studying Potential Protein Functions: A Case of HMGN1" Mehnert M, Li W, Wu C, Salovska B, Liu Y. Proteomics. 2019-03-22.
  • Yale UniversityのY LiuとInstitute of Molecular Systems Biology (Zurich)のMartin Mehnertらの研究グループは今回、HeLa細胞において、Y. Liuらが2017年にダウン症との相関を報告したHMGN1を標的とするCRISPR/Cas9編集を加え、DIA-MSにより~6,200種類のタンパク質と~82,000種類のペプチド前駆体を定量した。
  • その結果、標的遺伝子のノックアウトを確認し、遺伝子発現レベルが大きく変化したタンパク質147種類を同定し、ヒストンの不活性化をはじめとするHMGN1欠損が細胞過程に与える影響を解析した。
  • また、HeLa細胞クローン間でプロテオームが不均一であることも検出した (参考 2018-06-04 crisp_bio記事 [第2項] ゲノム、プロテオームと表現型から見たHeLa細胞株の多様性)
2. 相同組み換え修復テンプレートの改変とCas9 RNPのナノ粒子による送達を介して、CRISPR-Cas9のゲノム編集効率向上を実現 - 免疫細胞、造血幹細胞・前駆細胞で実証
[出典] "A Cas9 nanoparticle system with truncated Cas9 target sequences on DNA repair templates enhances genome targeting in diverse human immune cell types" Nguyen DN, Roth TL [..] Marson A. bioRxiv. 2019-03-28. > Polymer-stabilized Cas9 nanoparticles and modified repair templates increase genome editing efficiency. Nguyen DN, Roth TL [..] Marson A. Nat Biotechnol. 2019-12-09.  (# crisp_bio 2019-12-10追記)
 
 UCSFのA. Marsonらは2018年に、ウイルスベクターによる送達に替えて、Ca9-sgRNA複合体RNPと相同組み換え修復(HDR)用テンプレートをエレクトロポレーションすることで、初代T細胞の効率的なゲノム編集法実現していた (Nature, 2018; 2018-07-12 crisp bio記事 "AAVに依存しないCRISPRシステム送達によりT細胞改変を加速"にて紹介)。今回、それに2つの工夫を加えて編集効率を向上させ可用性を拡げた:
  1. 相同組み換え修復(HDR)用テンプレート (ノックイン用DNA配列とその左右の相同アーム)の外側に、RNPが結合するが切断はしない配列 tCTS (truncated Cas9 target sequences: gRNAの標的配列20-bpを16-bpに短縮した配列)をそれぞれ内向きに結合することで [#]、RNP-NLSによるテンプレートの'shuttle'を実現し、長い (1.5-kb) DNAのノックイン効率を向上させた [#: dCas9 RNPでの実験を経て、tCTSを利用することで標的配列切断用と同一のCas9利用を実現]。
  2. RNPをポリグルタミン酸のナノ粒子に内包させた上で送達することで、編集効率の向上と細胞毒性の低減、また、凍結乾燥保存を実現した。
 今回の改訂版による効率的ノックインを、制御性T細胞、γδ-T細胞、B細胞、NK細胞、および、初代培養とiPS細胞から誘導した造血幹細胞・前駆細胞 (HSPCs)における多重編集にて実証した。

3. E. Coli in vivoでのCascadeの動態を可視化し、標的分解の機序を解析
[出典] "Direct visualization of native CRISPR target search in live bacteria reveals Cascade DNA surveillance mechanism" Vink JNA [..] Hohlbein J, Brouns SJJ. bioRxiv. 2019-03-25.
  • E. coli K12において、タイプI CRISPR-CasシステムのエフェクターCascadeのサブユニットCas8eのN末端を光活性化蛍光蛋白質PAmCherry2で標識し、細胞内一粒子追跡を可能とする蛍光顕微鏡法PALM (single-particle tracking Photo-Activated Localization Microscopy: sptPALM) により、可動遺伝要素 (MGE)侵入後のCascadeの動態を解析:MGEに対するCRISPRシステムの干渉はCascadeのコピー数に指数関数的に依存し、MGEの複製とCascadeの探索・破壊との間の競争を示唆;20コピーで50%の阻害レベルを達成;Cas8eのCascadeは核様体において、PAMと相互作用するCas8eを介して~30 msでDNAを探索
4. ファージ療法に対して緑膿菌が耐性を獲得する機構
[出典] "Bacterial biodiversity drives the evolution of CRISPR-based phage resistance in Pseudomonas aeruginosa" Alseth EO [..] Westra ER. bioRxiv. 2019-03-24. > Nature. 2019-10-23.
  • 自然環境での進化の過程でCRISPR-Casシステムを獲得したバクテリアであっても、研究室での富栄養培地では、CRISPR-Casシステムに依らずファージ表面受容体の改変または欠損を介してファージ耐性を示す。著者らは、P. aeruginosaとファージDMS3virの系をモデルとして、他の病原菌との共存がCRISPR-Cas獲得免疫機構の進化をドライブすることを示した。
5. [概説] ティッシュ・エンジニアリングと再生医療研究に有用な化学修飾mRNA (cmRNA)
[出典] CONCISE REVIEW "Concise Review: Application of Chemically Modified mRNA in Cell Fate Conversion and Tissue Engineering" Badieyan ZS, Evans T. Stem Cells Transl Med. 2019-03-19.
  • 化学修飾することで、mRNAの細胞内での安定化、免疫原生の抑制、および挿入変異を阻止可能である。細胞運命制御や組織工学におけるcmRNAsの利用をレビュー (CRISPR技術におけるcmRNA利用は一例紹介)。

[出典] "Adult hippocampal neurogenesis is abundant in neurologically healthy subjects and drops sharply in patients with Alzheimer’s disease" Moreno-Jiménez EP, Flor-García M, Terreros-Roncal J, Rábano A, Cafini F, Pallas-Bazarra N, Ávila J, Llorens-Martín M. Nat Med. 2019-03-25;NEWS & VIEWS "A fresh look at adult neurogenesis" Steiner E, Tata M, Frisén J. Nat Med. 2019-03-25

成果概要
 María Llorens-Martín (マドリード自治大学)らスペインの研究グループは今回、未成熟ニューロン可視化の実験プロトコルを最適化し、海馬の中で神経発生が最も盛んとされる海馬前部に焦点を絞った結果、43歳から87歳の健常成人の脳組織に、先行研究で報告されていた数倍の未成熟ニューロンが存在すること、この未成熟ニューロンが、生理的老化とともに徐々に、あるいは、アルツハイマー病 (AD)とその進行に相関して顕著に、減少することを見出した。

crisp_bio: 以下の記述は主としてNEWS & VIEWSに準拠
背景
 ニューロンの殆どは誕生前に発生するが、その後一生の間、脳の各領域でニューロンが発生するとされていた。その領域の一つが海馬である。モデル動物では、成体海馬におけるニューロン発生 (adult hippocampal neurogenesis: AHN)の減少とともに学習と記憶および行動も衰えることが見出されていた。そこで、ヒトにおけるAHNの減少と神経・精神疾患との相関を解析する試みが続いていたが、2018年にヒトAHNについては相反する報告が相次いだ (crisp_bio記事参照):
 ・2018-04-17 成人脳の海馬において、神経細胞は新生するのかしないのか
 ・2018-12-27 成人の脳において神経細胞は新生するのかしないのか -
        相反する報告が新技術開発を促す

実験プロトコルの見直し
 脳組織における神経芽細胞のマーカの保存と検出は、脳組織切片の取り扱いから免疫組織染色による判定の手法に至るプロセスに左右される。研究グループは、死亡から組織固定までの時間短縮、組織に機械的損傷を与えない固定化など組織固定のプロセスの最適化、自己蛍光の消光、抗原の賦活化、複数抗体選択など、細心の注意を払った実験プロトコルを確立し、成人脳における未成熟ニューロン (神経芽細胞)の発生から成熟ニューロンへの各ステージまで判別可能とする可視化を実現した。

健常な脳由来海馬における神経芽細胞
 研究グループは、医療記録を詳細に吟味し、Braak stage 1に至らない状態であることを確認し、神経学的に異常がないと判定した43歳から87歳までの13名の海馬歯状回 (dentate gyrus: DG)において、神経芽細胞のマーカとして最も広く利用されているダブルコルチン (doublecortin: DCX)と、神経芽細胞の成熟化の各過程のマーカを可視化した。その結果、老化とともに減少はするが、先行研究よりも遥かに大量の神経芽細胞が87歳まで存在し、また、様々な成熟段階のニューロンが存在することも見出した。また、マーカの検出が、組織の前処理と固定化に決定的に左右されることも確認した。

AD患者の脳由来海馬における神経芽細胞
 先行研究の免疫組織染色解析からは、AD患者の海馬において神経発生の増加または無変化、および、神経芽細胞からの成熟不全が報告されていた。研究グループは今回、52歳から97歳までのAD患者45名に由来する海馬において、DCX陽性細胞および成熟過程早期のマーカが健常者に比べて少数であり、また、ADの進行とともに減少していくことを見出した。
 
課題と期待
  神経芽細胞全てが成熟するとは限らないが、過去に、チミジンアナログのブロモデオキシウリジン(BrdU)や、炭素14の取り込みをマーカとした実験から、成人ヒト海馬におけるニューロン発生が報告されている。
 今回の報告を受けてANH亢進によるAD療法の可能性も示唆されるが、今後、神経幹細胞の数がADの影響を受けるのか、神経芽細胞からのニューロン成熟過程がADの影響を受けるのか、ニューロン発生の縮減がADの原因なのか結果なのか、scRNA-seqによる解析などによる脳におけるニューロン発生とAD発症・進行の相関の分子基盤の詳細が明らかにされることを期待する。

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