2019年05月

[出典] "PAM recognition by miniature CRISPR-Cas14 triggers programmable double-stranded DNA cleavage" Karvelis T [..] Siksnys V. bioRixv 2019-05-30
  • CRISPR-Casシステムはクラス1とクラス2に分類され、クラス2はII、V、およびVIのタイプに分類され、タイプⅡのエフェクタCas9とタイプVのエフェクタCas12は、侵入dsDNA、ssDNAおよびssRNAを切断する。Cas9もCas12もdsDNA切断は、gRNAの標的DNA配列の近位にPAM配列が存在することを前提とする。Cas9とCas12は、安定したゲノム編集とトランスクリプトーム操作のツールとして利用されてきたが、サイズが大きいことが臨床を含む分野への展開に限界をもたらしている。
  • 2018年にJ. A. Doudnaらがメタゲノムから発見した新たなクラス2タイプVに分類されたCas14ファミリーは、~400-700 aaと小型であったが、crRNAの標的DNAに結合後、PAMに依存することなく細胞内の全てのssDNAを切断するssDNAヌクレアーゼとされていた (*)
  • Vilnius UniversityとCorteva Agriscience™ Agriculture Division of DowDuPont™の研究グループは今回、生化学実験から、Cas14a1 (539 aa)とCas14b5が、TリッチなPAM配列 (それぞれ、TTTRとTTAT)を認識して、dsDNAを切断し付着末端を残すことを見出した。以下、Cas14a1について実験を進めた。
  • CAS14A1が、dsDNA切断がPAMに依存しないssDNA切断を誘導することを見出した。
  • さらに、HEK293細胞にNLSタグを付したCas14a1とsgRNA RNP複合体を送達することで、標的としたVEGF2または3遺伝子座の5'TTTR PAM隣接サイトを切断しindelsを誘導することを見出した。ただし、indels誘導率は0.06 ~ 0.10%に止まった (Fig. S8参照 - Supplemental Materials)
 Cas14関連crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2019/04/29 [第4項目] 植物ssDNAウイルスを標的とするCRISPR-Cas14a
  • (*) 2018-10-19 メタゲノムからssDNAをトランス切断するCas14ファミリーを発見しDETECTRへ展開

[出典]  "FLASH - a next-generation CRISPR diagnostic for multiplexed detection of antimicrobial resistance sequences" Quan J, Langelier C, Kuchta A [..] Crawford ED. Nucleic Acids Res 2019-05-22;特許公開 US20190300935A1 Method for finding low abundance sequences by hybridization (FLASH).
  • FLASHは、"Finding Low Abundance Sequences by Hybridization"に由来する。
  • 多剤耐性菌は今や世界的な脅威であるが、メタゲノムにおける薬剤耐性遺伝子は相対的に極めて少量なため、次世代シーケーシング (NGS)解析で検出するのは容易ではない。
  • UCSFを中心とする米国、英国、ナミビアの共同研究グループは、Cas9ゲノム編集技術によっ、設定した配列セットをエンリッチした上で、NGS解析するFLASH-NGS法を開発し (下図左のFigure 1参照)、サブアトモル濃度の遺伝子検出を実現し、FLASH用のgRNA設計ツールFLASHitを公開した (github.com/czbiohub/flash)。
  • 実証実験は患者由来の気道液 (下図左のFigure 3参照)と、乾燥血液 (下図右のFigure 4参照)で行なったが、FLASH-NGSはマルチプレックスPCRに依存するあらゆる解析を高速かつ精密にする。
FLASH 1 FLASH 2

[出典] "Targeted homology-directed repair in blood stem and progenitor cells with CRISPR nanoformulations" Shahbazi R [..] Adair JE. Nat Mater 2019-05-27;"Special delivery: Gold nanoparticles ship CRISPR cargo" Siegel J. Fred Hutch News Service 2019-05-27
  • Fred Hutchinson Cancer Research CenterとUniversity of Washington, Seattleの研究チームは、エレクトロポレーションやウイルスベクターに替えて19 nm径の金コロイドナノ粒子を担体として、crRNAとCas12aを吸着させ、ポリエチレンイミンで被覆し表面電荷をカチオン性にし、さらに相同組み替え修復用ドナーテンプレートとなるssDNAも加え、造血幹細胞において、精密で効率の良い遺伝子編集が可能なことを実証した (Fred Hutch News Service 2019-05-27の挿入図高精度版参照)
  • 金コロイドナノ粒子は、 エンドソームを介して造血幹細胞に侵入し、細胞内で分解されることなく核に局在し、細胞毒性を示さなかった。編集効率は10 - 20%であったが、遺伝子編集が実現した細胞が損傷されていないことが重要である。
  • 本手法により健常人由来の造血幹細胞において、HIV療法と鎌状赤血球症/サラサミア療法を念頭に、それぞれCCR5遺伝子の破壊とγグロビンの発現亢進を実現し、モデルマウスに注入したところ、遺伝子編集造血幹細胞の効果は8週間でピークに達し~4ヶ月間持続した。また、遺伝子編集された血液細胞は、骨髄細胞、脾臓および胸腺でも見られた。
  • 責任著者のAdair JEは2016年に、先進的な施設が存在しない地域での遺伝子治療を可能とすることを目指して、1日でレンチウイルス遺伝子導入造血幹細胞を生成可能な半自動装置 'gene therapy in a box'を開発し (*)、筆頭著者としてNature Communication誌(*)に発表していたが、金コロイドナノ粒子による送達法を確立できたことで、より廉価で簡便な 'gene therapy in a box'が現実になるとした。
  • (*) "Gene therapy goes global: Portable device could make future cancer, HIV cures affordable" Engel M. Fred Hutch News Service 2016-10-20;解説図 "Point-of-Care Blood Stem Cell Gene Therapy";論文 "Semi-automated closed system manufacturing of lentivirus gene-modified haematopoietic stem cells for gene therapy" Adair JE et alNat Commun 2016-10-20.

[出典] "Cas13-induced cellular dormancy prevents the rise of CRISPR-resistant bacteriophage" Meeske AJ, Nakandakari-Higa S, Marraffini LA. Nature 2019-05-29;NEWS AND VIEWS "Bacterial dormancy curbs phage epidemics" Jackson SA, Fineran PC. Nature 2019-05-29. (Fig. 1に分子機序モデル図あり); PREVIEW "Cas13 Helps Bacteria Play Dead when the Enemy Strikes" Mendoza SD, Bondy-Denomy J. Cell Host Microbe 2019-07-10.

背景
  • 原核生物が帯びているCRISPR遺伝子座は、スペーサと呼ばれるプラスミドとバクテリオファージ由来の短い配列を挟んだ30-40 bpの長さの反復配列で形作られ、転写を経て短いCRISPR RNAs (crRNAs)を生成するに至る。CRISPR-associated (Cas)ヌクレアーゼは、crRNAsをガイドとして外来核酸の中のcRNAに相補的な配列 (プロトスペーサ)を認識し、切断する。ほとんどのCasヌクレアーゼは侵入DNAを切断するが、タイプVI CRISPRシステムのヌクレアーゼはCas13は、crRNAをガイドとして、crRNAに相補的な転写物を認識し配列特異的にRNAをcis-切断すると共に、配列非特異的にRNAをtrans-切断する
  • Cas13は本来RNAファージに対する防御と想定されるが、これまでに同定されたタイプVI CRISPR遺伝子座のスペーサは全て二本鎖DNA (dsDNA)ファージのゲノムと相補的であることから、Cas13がdsDNAファージ感染に対する免疫を供することが示唆される。しかし、Cas13がcis-そしてまたはtrans-RNA切断活性を介してdsDNAファージから宿主を守る仕組みは不明であった。
成果
  • ロックフェラー大学の研究チームは今回、 DNAファージϕRR4に感染し、Listeria seeligeri ATCC35967のタイプVI-A CIRPSRシステム (エフェクタはCas13a)を帯びているListeria ivanovii ΩCRISPRVIを作出し、これに41,276種類のユニークなϕRR4配列断片からなるスペーサ・ライブラリーを導入し、ϕRR4感染実験を行った結果、不稔感染 (abortive infection)に似た防御機序を見出した。
  • すなわち、Cas13aによる転写物のtrans-切断によって宿主細胞の増殖が止まり (宿主細胞が休眠し)、ファージの感染サイクルも止まることを見出した。これによって、宿主細胞集団内のファージの数が減少し、ファージが感染していない細胞に対する集団免疫 (herd immunity)が成立する。この仕組みにより、配列が変異したことでDNAを標的とするCRISPRシステムに対する耐性を獲得したdsDNAファージも、宿主細胞が休眠するきっかけとなったファージとは異なるファージも、活性状態を維持しているCas13によって無力化される。
  • このようにタイプVI CRISPRシステムは、直接ウイルスに作用するのではなく、宿主を休眠状態へ誘導することでDNAファージに対抗し、CRISPR耐性ファージのアウトブレイクも防止する。
関連crisp_bio記事
  • CRISPRメモ_2018/08/22 [第5項目] RNAを標的とするタイプVI-A CRISPRにおいて自己ターゲッティングを回避するルールは?
  • 2019-04-28 タイプ I CRISPR/CasシステムにおけるCas3の動き

[出典] "Systematic evasion of the restriction-modification barrier in bacteria" Johnston CD, Cotton SL, Rittling SR, Starr JR, Borisy GG, Dewhirst FE, Lemon KP. PNAS 2019-05-16;"SyngenicDNA: stealth-based evasion of restriction-modification barriers during bacterial genetic engineering"
bioRxiv 2018-08-09

背景

 遺伝子工学はバクテリアの基礎研究、応用研究ならびに臨床研究に有用ではあるが、実際に適用可能なバクテリアはいくつかのモデルに限られている。外来DNAによる形質転換が遺伝子工学の鍵となるプロセスであるが、形質転換性*を内在しているバクテリアは、既知のバクテリア (〜6,600種類の標準株と~30,000種類の命名分離株)のうち~80種 (species)と言われている。これは、バクテリアに内在する制限修飾系 (restriction-modification (RM) system)*によって外来DNAが分解されるためであり、モデル以外のバクテリアを対象とする遺伝子工学では人工的な形質転換法を用意する必要がある。さらに、RMシステムは菌株レベルで多様なため*、その開発は簡単ではない。
  • (*) バクテリアは接合または、バクテリオファージやウイルスを介した形質導入によって外来DNAを受け入れるが、この2種類のプロセスは、遺伝子工学にとりいれるにはあまりに複雑な機構である;RMシステムは、ゲノムシーケンシングされたバクテリアの~90%に見出されている;RMシステムの多様性については、例えば、450種類を超えるモチーフが知られている。
 RMシステムは、制限酵素 (restriction endonuclease: REase)とDNA修飾メチラーゼ (modification methyltransferase: MTase)の2種類によって、外来DNAと自己 (宿主)DNAを識別し、外来DNAを分解する。REaseは、極めて特異的な標的配列 (モチーフ)のDNAメチル化状態を認識し、メチル化されていないあるいはメチル化状態が宿主ゲノム上のモチーフと異なるDNAを分解する。MTaseは宿主ゲノム内在モチーフをメチル化し、REaseによる分解から宿主DNAを守る。
 
 RMシステムの監視を回避して外来DNAをバクテリアに形質転換する手法として、宿主DNAのメチル化を'偽装'する'mimicry-by- methylation'が実用化されているが、この手法は時間と経費を要し、任意の基菌株に展開するには向かない。

成果概要

 Fred Hutchinson Cancer Research Center、The Forsyth Instituteなど米国研究グループは今回、宿主モチーフのメチル化状態の'偽装'に替えて、外来DNAからモチーフを消すことで、RMシステムに対して外来DNAをステルス化することを発想・実現し、このステルス化したDNAを “SyngenicDNA” と命名し、それを送達するミニサークル (minicircle)プラスミドをSyMPL (SyngenicDNA Minicircle Plasmid)と命名した。

SyngenicDNA - SyMPLの4ステップと実証 (原論文 Fig. 1参照)
  1. Single-molecule real-time sequencing (SMRT-seq)によるゲノム・メチローム解析による菌株特異的モチーフの同定
  2. 形質転換用DNA設計とRMシステムの標的モチーフのスクリーン
  3. モチーフ消去の設計 (コーディング領域におけるモチーフについては機能を改変することなくモチーフを消す同義置換を導入し、非コーディング領域では点変異 (SNPs)導入によりモチーフを消去)とそれにもとづくSyngenicDNA合成
  4.  SyMPLの形成と送達
 SyngenicDNASyMPLの性能を、RMシステムがその遺伝子工学を阻んできたMRSA臨床分離株であるStaphylococcus aureus USA300に由来するS. aureus JE2をモデルとして検証し、形質転換効率が~100,000倍へと改善することを実証した。

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