2019年06月

[出典] "Mapping human microbiome drug metabolism by gut bacteria and their genes" Zimmermann M, Zimmermann-Kogadeeva M, Wegmann R, Goodman AL. Nature 2019-06-03.; [NEWS & VIEWS] Microbes make metabolic mischief by targeting drugs. Lewis K, Strandwitz P. Nature 2019-06-17

背景
  • 医薬品がヒト体内で代謝された産物はもともとの医薬品とはことなる薬効と毒性を示す。ほとんどの医薬品は経口薬であり、小腸および大腸における共生微生物に出会う。これらの腸マイクロバイオームは、ヒトゲノムの150倍以上の遺伝子を帯びており、この遺伝的多様性は、薬物代謝能を備えた酵素の宝庫である。
  • 腸マイクロバイオームによる医薬品代謝の例として、プロントジルの代謝産物スルファニルアミドの薬効、ジゴキシンの不活性化、抗がん剤イリノテカンの代謝産物による副作用などが知られている。しかし、腸マイクロバイオームと経口薬の相互作用の分子機序まで明らかにされた例は限られていた。
概要
  • Yale University School of Medicineの研究チームは今回、76種類の腸内バクテリア菌株と、271種類の経口薬の全ての組み合わせについて、腸内細菌による経口薬の代謝を分析し、経口薬の65%が少なくとも1種類の菌株によって代謝されることを見出し、経口薬を代謝する遺伝子産物 (酵素)の同定にまで進んだ。
詳細
  • 76種類の菌株は、腸マイクロバイオームの主要な門をカバーする68 speciesから選択した。271種類の経口薬は化学薬品空間全体から選択し、その適応症、物理化学的性質および腸内推定濃度は広範にわたる。この20,596組について、先行研究で開発した手法"combinatorial pooling strategy" (Cell Host & Microbe, 2009)に基づくLC-MS解析から、対象経口薬の65%にあたる176種類の経口薬が、少なくとも1種類以上の菌株によって、有意に(> 20 %, FDR補正P値 ≤  0.05)代謝されることを同定した。バクテリアから見ると、菌株全てがそれぞれ11~95種類の経口薬を代謝していた。
  • また、得られたデータから経口薬をクラスタリングすると、構造の特徴を共有する経口薬のグループが見えてきた。例えば、Bacteroidetesで代謝されるクラスタの経口薬は、エステルまたはアミドを帯びていた。
  • 次いで、untargeted metabolomics解析により、特定の経口薬の存在下に限り検出される化合物を特定し、経口薬-菌株の総当たり20,596組から6,572組の経口薬-化合物ペアを見出し、データクレンジングを経て、871種類の経口薬それぞれに由来する代謝物を特定した。また、経口薬とそれに由来する代謝産物の分子量の変化がランダムではなく、減少から増加にわたり段階的に変化し、各段階が、酸化、還元、脱アセチル化などの化学修飾のタイプに対応し、ひいては、経口薬の構造と相関することを見出した。
  • 経口薬を代謝する遺伝子の観点からは、ジルチアゼムを含む46種類の経口薬を代謝するBacteroides thetaiotaomicronに注目し、B. thetaiotaomicronゲノムの2-8 kbの断片をそれぞれE. coliへ導入した上で、経口薬代謝効率の判定とシーケンシングを経て、ジルチアゼムの分解酵素 bt4096を同定した。bt4096 欠損B. thetaiotaomicron株がジルチアゼムの代謝能を失うことも確認した。
  • 最終的に、腸内バクテリアにコードされている30種類の酵素が、のべ20種類の経口薬を59種類の産物へと代謝することを同定した。
  • 本研究により、腸マイクロバイオームの組成が個人間で変動することが、経口薬の薬効と副作用に個人差があらわれる原因の一つであることが示され、また、腸マイクロバイオームさらには食習慣を踏まえた個別化投薬の可能性が示唆された。

[出典] "Transneuronal Propagation of Pathologic α-Synuclein from the Gut to the Brain Models Parkinson’s Disease" Kim S, Kwon SH [..] Dawson TM, Ko HS. Neuron 2019-06-26.

概要
  • PD患者の脳には、黒質緻密部 (substantia nigra pars compacta)におけるドーパミン作動性ニューロン減少と、レビー小体 (Lewy body: LB)と呼ばれるタンパク質凝集体が、見られる。このレビー小体の主要構成成分がミスフォールドしたα-シヌクレインである。
  • Johns Hopkins University School of Medicineの研究グループは今回、パーキンソン病 (PD)の運動症候と非運動症候および早期と後期の特徴を再現する新しいPDモデルマウス作出に至る中で、 PD発症のBraak’s仮説 (Neurobiol Aging, 2003; 関連レビューから引用した下図参照)を改めて裏付けるα-シヌクレイン (α-syn)の腸から脳への伝播を同定した。PD
  • この結果が、明確な症状が未だ現れていない極めて早期の診断と神経変性疾患の新たな治療法へと展開することが期待される。
詳細

 合成α-synはin vitroで凝集してin vivoで見られる繊維 (preformed fibrils, PFF)を形成する。これまでに、このPFFが、神経培養細胞系in vitroでもマウス脳への注入in vivoにおいてもプリオン様に広がり、マウス脳にpSer129-α-synを含んだLB様の構造体を形成することが、報告されている。 研究グループは今回、PFFを迷走神経に結合している十二指腸と幽門部の筋層に注入し、PFFを構成するSer129がリン酸化されたα-シヌクレイン、pSer129-α-syn、を追跡した。
 注入後の1-3-7-10ヶ月後の4回、脳組織を分析し、病原性α-シヌクレインの蓄積が、注入部位からから脳へと広がり、注入マウスがPDのフェノタイプを示すことを確認した。
  • 病原性α-シヌクレインは、注入後1ヶ月で延髄の迷走神経背側運動核と脳橋の青斑核に拡がり、3ヶ月で黒質緻密部に到達して蓄積が始まり、扁桃体、視床下部および前頭前野にも広がり、7ヶ月で、海馬と線条体にも拡がった。観察期間の後期には、黒質緻密部と線条体におけるドーパミン作動性ニューロンの顕著に減少した。
  • PFFを注入したマウスには、PD患者と同様な運動障害、嗅覚障害、認知障害の進展が見られた。
  •  全迷走神経切離術 (truncal vagotomy)を施したマウスと、内在α-シヌクレインをノックアウトしたマウスの場合は、PFFを注入しても、病原性α-シヌクレインの脳への伝播は見られず、7ヶ月経過後も、ドーパミン作動性ニューロンの減少もPDの症状も発生しなかった。すなわち、病原性α-synの伝播には、迷走神経に加えて、マウス内在の正常なα-シヌクレインが必要なことも確認された。
  • 今後、消化管での病原性α-シヌクレインの生成機構とその脳への伝播機構を標的としたPD発症機構の研究、診断、および治療法への関心がますます高まると思われる。

[出典] "A large-scale CRISPR screen and identification of essential genes in cellular senescence bypass" Liu X, Wei L, Dong Q, Liu L, Zhang MQ, Xie Z, Wang X. Aging (Albany NY) 2019-06-20.

 細胞老化は、細胞の自律的腫瘍抑制を担う一方で、炎症性サイトカインやケモカインなどを分泌することで(senescence-associated secretory phenotype: SASP)がん化および加齢に伴う疾患をドライブする。

 清華大学の研究グループは今回、ヒト皮膚線維芽細胞を対象として、文献マイニング、PPIネットワークおよび遺伝子発現の変異解析 (Differential expression analysis: DEA)を総合して判定した1,378種類の細胞老化関連遺伝子を標的とする12,000種類のsgRNAに基づくCRISPRスクリーンを行い (原論文Fig. 1引用下図参照)、その欠損が細胞老化の回避 senescence bypass 1
(バイパス)をもたらすTP53をはじめとする既知の遺伝子群を同定するとともに、一連の新奇な遺伝子群を見出した (以下、細胞老化が回避されている細胞を'バイパス細胞'と表記)。

 続いて、6種類の新奇遺伝子またはTP53遺伝子をノックアウトしたバイパス細胞のRNA-seq/GESA解析を行った。興味深いことに、CHEK2HAS1またはMDKを欠損したバイパス細胞では、先行研究で同定された45種類のSASP遺伝子群の発現が増殖細胞 (growing cells)と同等か亢進しそのプロファイルが老化細胞に類似していたが、MTORCRISPLD2または MORF4L1を欠損したバイパス細胞ではSASP遺伝子発現が抑制されていた。また、後者では、加齢に伴う神経変性疾患に関わるパスウエイが下方制御されていた (原論文Figure 4引用下図参照)。senescence bypass 4
 本研究により、細胞老化バイパスの機序と結果は多様であり、特定の遺伝子セットの欠損によって老化は免れるが炎症が亢進してがん化のリスクが高まる一方で、他の遺伝子セットを欠損することで、老化を免れつつ (増殖能を維持しつつ)、SASPフェノタイプを抑制する可能性が示された。いずれにしても、がん化と老化を伴わず細胞老化を回避して「活力」を維持するには遺伝子発現の精密な制御が必要である。

[出典] "Generating viable mice with heritable embryonically lethal mutations using the CRISPR-Cas9 system in two-cell embryos" Wu Y, Zhang J [..] Chen B, Wang S. Nat Commun. 2019-06-28.

背景
  • 遺伝子ノックアウトモデルマウスは、in vivoでの遺伝子機能を解析に必須である。そのノックアウトが胎生致死をもたらす遺伝子は、胚発生の必須遺伝子であることを意味するが、胚発生必須遺伝子のノックアウトマウスの作出は極めて困難であり、したがって、そうした遺伝子のin vivo機能解析も進んで来なかった。
  • 例えば、前核期の一細胞胚にCas9 mRNAとsgRNAsをマイクロインジェクションすることで多重遺伝子のノックアウトが可能なことが実証されていたが (Cell, 2013) 、胚発生必須遺伝子がノックアウトされたファウンダー(F0)マウス樹立には至らなかった。
  • 近年 (Cell Res, 2017)、2細胞期胚の一方の割球にCas9 mRNAをマイクロインジェクションし、続いて、Cre mRNAとsgRNAを同時にマイクロインジェクションする二段階の遺伝子編集 (two-step injection method: 2CC)を加えた後、胚移植を経て、そのノックアウトが出生後 (postnatally)致死をもたらすTet3遺伝子変異を帯びたキメラマウスが作出された。
成果
  • 首都医科大学 (北京)の研究チームは今回、in vivoまたはin vitroで受精した接合子から培養した2細胞期胚に、Cas9のmRNAまたはタンパク質とsgRNAとを同時にマイクロインジェクションする一段階の遺伝子編集 (one-step two-cell embryo microinjection: OSTCM)を加えた後、胚移植することで、遺伝性の胎生致死遺伝子 (VirmaまたはDpm1の2種類)変異を帯びたキメラ・ファウンダーマウスを作出した (原論文 Fig. 7引用下図の最下段参照)。OSTCM Fig 7
  • ファウンダーマウスのCRISPORで予測したオフターゲット作用の候補サイトでのオフターゲット編集は見られなかった。
  • ファウンダーマウスの胎生致死遺伝子変異は、野生型との交配を経たF1マウスへと継承された。また、Virma変異F1ヘテロ接合体交配に由来するF2胎仔34匹のうち11匹がVirma (+/+)が、23匹がVirma(+/-)であり、Virma(-/-)は見られず、Virma変異の胎生致死性が裏付けられた。
  • また、Virmaフレームシフト変異ファウンダーマウス (120日間生存)において、腎臓におけるVirma変異のフェノタイプとVirmaの機能解析も実現した。
  • OSTCMによって作出したモデルマウスにおいて、出生後致死変異をもたらすSlc17a5遺伝子とCtla-4遺伝子の機能解析も行い、Ctla-4ノックアウトマウスにおける制御性T細胞増殖も同定した。
OSTCMの効率:原論文Table 2引用下図参照OSTCM Table 2

[出典] "Catalytically Active Cas9 Mediates Transcriptional Interference to Facilitate Bacterial Virulence" Ratner HK [..] Charpentier E, Weiss DS. Mol Cell 2019-06-27.

背景
  • CRISPR-Cas9を含むタイプII CRISPR-Casは病原菌と共生菌に高頻度に内在し、バクテリアの獲得免疫機能を担っている。その中で、Francisella novicida由来Cas9 (FnoCas9)の外来DNA切断機構についても、平野論文 (Cell, 2016) (*1)とAcharya投稿 (bioRxiv, 2019) (*2)により明らかにされてきた [ (*1) 2017-08-27 Francisella novicida Cas9の構造決定とPAMの拡張;(*2) 2019-06-21 FnCas9は極めて高精度でありHEK293T細胞に加えてヒトiPSCのゲノム編集も可能である]。
  • 一方で、cas9遺伝子を欠損しているStreptococcus agalactiaeCampylobacter jejuniNeisseria meningitidis、および Francisella novicidaの変異体において、宿主細胞への感染に必要な接着・侵入および宿主細胞内での生存・増殖の過程が阻害され、病原性も抑制されることが知られていた。
  • また、ヒト細胞への感染可能なF. novicidaは、FnoCas9によりリボタンパク質 (bacterial lipoprotein: BLP)、FTN_1103 (1103)、をコードする内在mRNAの発現抑制 (ヒト細胞に対する免疫賦活性抑制)、を介して、ヒト細胞へ感染することも知られていた。この1103発現抑制は、FnoCas9の外来DNA切断の際に利用される~20 bpのcrRNAではなく、~15bpと小型のRNAであるscaRNA* (small CRISPR-Cas associated RNA)とtracrRNAにガイドされてF. novicidaのゲノムに結合することで、実現されている。(* scaRNAは、crRNAsアレイの下流にコードされておりCRISPR遺伝子座の近位のプロモータで転写される)。
  • F. novicidaの病原性には、しかし、1103の抑制だけでは不十分であり、その他の要因が存在することが示唆されていた。
成果
  • Emory UniversityとMax Planck Unit for the Science of Pathogenは今回、FnoCas9による内在遺伝子の転写調節を網羅的に解析することを目指して、ゲノムワイドでのmRNAの発現レベルを、野生株とcas9欠損株との間で比較することから、実験解析を始めた。
  • ゲノムワイドの遺伝子発現プロファイルを比較することで、1,782遺伝子のなかでcas9欠損株における発現が野生株よりも顕著に (2倍以上)上方制御されている4遺伝子 (それぞれ、1103に加えて1101、1102および1101をコード)を同定し、tracrRNA, scaRNAcrRNAの欠損実験なども経て、FnoCas9がscaRNA:tracrRNAのRNAヘテロ二重鎖に誘導されて、F. novicidaゲノムの4遺伝子からなるレギュロンからの転写を抑制することを明らかにした。
  • さらに、scaRNAを改変することで、FnoCas9を介して、4種類の遺伝子以外の遺伝子の転写を抑制することが可能なことを示した。

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