2019年09月

Science 2019年9月27日号は「遺伝型から表現型」の特集号として4つのレビューを収録

1. ヒトの遺伝型と表現型の相関の素因を腑分けする
pp 1396-1400: Deconstructing the sources of genotype-phenotype associations in humans. Alexander I. Young, Stefania Benonisdottir, Molly Przeworski, Augustine Kong
 標準的なゲノムワイド関連解析 (GWAS)とトリオをベースにしたGWASをもとに、同定された疾患関連変異の直接作用、間接作用および交絡因子を介した作用を腑分けする手法と成果をレビュー

2. シングルセルゲノミクスに基づく表現型の遺伝型へのマッピング
pp 1401-1405: Mapping human cell phenotypes to genotypes with single-cell genomics. J. Gray Camp, Randall Platt, Barbara Treutlein.
 シングルセルゲノミクスに基づくヒトの細胞から組織・オルガノイドに至るまでのフェノタイピング、および、幹細胞技術とCRISPR-Cas技術によりフェノタイプを機能的にヒトゲノム上の領域に紐づける手法と成果をレビュー (CRISPR toolboxについてFig. 4 参照)

3. マイクロバイオームが宿主のフェノタイプを作り出す
pp 1405-1409: Microbiomes as sources of emergent host phenotypes. J. B. Lynch, E. Y. Hsiao
Science 27 Sep 2019:
 宿主動物が共生マイクロバイオームに与える作用とマイクロバイオームが宿主にもたらす形質について、マイクロバイオームが行動ならびに神経系に及ぼす作用に焦点をあててレビュー (Fig. 2 参照)

4. トランスレーショナルゲノミクスと個別化医療:研究室から臨床へ
pp 1409-1413: Translational genomics and precision medicine: Moving from the lab to the clinic. Eleftheria Zeggini, Anna L. Gloyn, Anne C. Barton, Louise V. Wain.
 2型糖尿病や高血圧症など数千の変異がかかわるとされる'complex deisease'のゲノム研究の、精密医療 (個別化医療)、機能ゲノミクスによる創薬標的発見、疾患の予測・予防・予後のバイオマーカ同定への応用をレビュー (Fig. 1 参照)

[出典] High-throughput genome-wide phenotypic screening via immunomagnetic cell sorting. Mair B [..] Moffat J, Kelley SO. Nat Biomed Eng. 2019-09-23(Scalable, FACS-Free Genome-Wide Phenotypic Screening bioRxiv. 2019-04-19); NEWS & VIEWS Immunomagnetic cell sorting. Legut M, Sanjana NE. Nat Biomed Eng. 2019-09-23.

  • CRISPR技術の開発によって、ゲノムスケールの遺伝子機能喪失 (loss of funciton, LoF)スクリーンによる特定のフェノタイプを調節する遺伝因子の同定がこれまでになく進み始めた。
  • University of Torontoの研究グループは今回、蛍光磁気ビーズを利用したセルソーティング (immunomagnetic cell sorting*)を実装したマイクロ流体チップ (microfluidics cell sorting: MICS)を開発することで、より高速でハイスループット、スケーラブル、かつ費用効果が高いCRISPR-Cas9機能喪失スクリーニングを実現した。
  • MICSによって、フェノタイプスクリーニングの定番であるFACSに優り、細胞生存率を高く維持したまま108個を超す細胞集団のスクリーンを1時間以内に完了することができる。
  • MICSを利用して、マクロファージの貪食作用の抑制に関与し癌免疫療法の標的分子であるCD47の細胞表面での発現を調節する一連の因子を同定し、そのトップヒットであるグルタミニルシクラーゼ (QPCTL)がCD47のN末端グルタミンを修飾することを確認した。
  • 今回開発したMICSは、蛍光活性化セルソーティング(FACS)と、柔軟性に劣るがよりハイスループットな磁気活性化セルソーティング(MACS)法のギャップを埋めるツールと位置付けられる。
  • (*) Immunomagnetic cell sortingは、もともとは、Kelleyらの研究チームが血液細胞からの癌細胞分離を目的として開発した手法。

1. [ハイライト] CRISPRシステムは免疫に加えて転移にも貢献する
[出典] [Dispatch] Transposition: A CRISPR Way to Get Around. Dimitriu T, Ashby B, Westra ER. Curr Biol. 2019-09-23.
  • バクテリアのゲノムにコードされているCRISPRシステムはバクテリアの獲得免疫応答システムとして知られている。
  • バクテリアゲノム内のTn7様トランスポゾン内にもCRISPRシステムがコードされていることが知られていたが、このTnsEホモログを欠損しているトランスポゾンとスペーサ獲得と標的切断を担うCasタンパク質を欠損しているCRISPRシステムが協働して、プラスミド上のcrRNA標的部位の下流への転移を実現することが (CRISPR-guided transposition)、2019年6月にScience誌とNature誌に相次いで報告された [1-2]。
  • 著者らは2論文をハイライトし、CRISPR-guided transpositionの応用および機能獲得の進化過程について考察を加えた。
関連crisp_bio記事
2. 胚ゲノム編集に関する社会的責任のある議論に向けて (#CRISPRbabies)
[出典] CRISPR in context: towards a socially responsible debate on embryo editing. Morrison M, de Saile S. Palgrave Commun. 2019-09-24.
  • 著者らは、バイオテクノロジーの応用としての生殖補助医療 (Assisted Reproductive Technologies: ART)の歴史を振り返り、'CRISPR babise'を単独の逸脱行為としてではなく、その文脈の中で議論すべきとし、具体的に、技術的課題と倫理的課題の切り分け、生殖産業がサービスを提供する可能性の観点から考察を加え、Mary Douglasの ‘matter out of place’の概念に基づいた新奇バイオテクノロジーに対するコンセンサスのあり方についても考察を加えた。
3. [プロトコル] SHERLOCK (#CRISPRdx)
[出典] SHERLOCK: nucleic acid detection with CRISPR nucleases. Kellner MJ, Koob JG, Gootenberg JS, Abudayyeh OO, Zhang F. Nat Protoc. 2019 Oct;14(10):2986-3012. Online 2019-09-23.
# 2020-02-07 crisp_bio追記: BOX1の中のComparison of Cas13 and Cas12 orthologsにおけるsensitivityの数値修正 (HTMLとPDF上では修正済) Author Correction: SHERLOCK: nucleic acid detection with CRISPR nucleases. Nat Protocol 2020-01-31
  • SHERLOCKは、試料から抽出したDNA/RNAをリコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RPA/RT-TPA)で増幅しT7でRNAへと転写し、このRNAをcrRNAが認識することでCas13-crRNAが発揮するコラテラルRNA分解活性により、消光状態であったレポータ分子からの蛍光発光を誘導することで、標的核酸を超高感度かつ短時間で検出可能とした手法である。
  • 開発グループが今回、LwaCas13aの発現と精製、crRNAsのIVT、臨床資料からDNA/RNA抽出、等温増幅プライマー、多重化および定量アッセイの留意点など、プロトコルを詳細に解説。
4. [プロトコル] C. elegansのCRISPR-Cas9ゲノム編集 (2006年版からの改訂)
[出典] CRISPR‐Cas9‐Guided Genome Engineering in Caenorhabditis elegans. Kim HM, Colaiácovo MP. Curr Protoc Mol Biol. 2019-09-24.
  • gRNAの設計とクローニング、HR修復用テンプレート作成、送達法、およびマーカ不要のトランスジェニック個体のスクリーニング法
5. CRISPR/Cas9によるダイズのゲノム編集を効率化する多重プロモータを選定
[出典] Enhancing the CRISPR/Cas9 system based on multiple GmU6 promoters in soybean. Di YH, Sun XJ [..] Zhao SS, Zhang H. Biochem Biophys Res Commun. 2019-09-23.
  • ダイズのゲノムに内在する11種類のU6プロモーターについて、短縮型β-グルクロニダーゼの発現を効率的に誘導する5種類を同定し、3種類の内在遺伝子の発現を効率的に (~20%)誘導する2種類を同定した。
6. [レビュー] CRISPR/Cas技術が植物のバイオロジーと育種を加速
[出典] [REVIEW] CRISPR/Cas brings plant biology and breeding into the fast lane. Schindele A, Dorn A, Puchta H. Curr Opin Biotechnol. 2019-09-23.
  • CRISPR/CasによるRNA編集; CRISPRa/iおよびBE; 組織特異的Cas発現によるターゲッティング効率向上; 染色体再配置; 野生種からの遺伝的多様性の拡大と栽培化加速
7. CRSISPR-Cas9による植物ゲノム編集に利用されるsgRNAとSpCas9のバイナリーベクタのクローニング
[出典] A zero-background CRISPR binary vector system for construction of sgRNA libraries in plant functional genomics applications. Yun JY, Kim ST, Kim SG, Kim JS. Plant Biotechnol Rep. 2019-09-24
  • sgRNAのスキャフォールドにAarI認識部位で囲んだ細胞毒性を帯びたccdbカッセット導入するpZeroBG-CRISPRバイナリーベクタシステムを開発し、意図しないクローニングが発生したベクターを帯びた大腸菌の除去を実現
8. [レビュー] ゲノム編集 (Genome Engineering, GE)植物の野外実験
[出典] Genome-edited plants in the field. Metje-Sprink J, Sprink T, Hartung F. Curr Opin Biotechnol.2019-09-23.
  • 中国におけるイネをはじめとして、日本、米国、英国、ベルギーにおける種々の作物を対象とするゲノム編集野外実験の事例をまとめ、栽培特性、環境リスク、規制について議論

1. 統合失調症の発症をiPSC技術とCRISPRゲノム編集技術でシミュレーションする
[出典]Synergistic effects of common schizophrenia risk variants. Schrode N, Ho SM [..] Brennand KJ. Nature Gentics 2019-09-23. NEWS & VIEWS Modeling the cooperativity of schizophrenia risk genes. Christensen JH, Børglum  AD. Nature Genetics 2019-09-23.
  • 統合失調症 (schizophrenia: SZ)のリスクが一連のありふれた (common)遺伝変異によって高まることが知られているが、その分子機序は殆ど分かっていない。
  • Icahn School of Medicine at Mount SinaiのKristen J. Brennand が率いる研究グループは今回、同質遺伝子系のhiPSCsに由来する神経細胞において、SZに見られるeQTL遺伝子発現の異常をCRISPR遺伝子編集技術でシミュレーションすることで、わずかに4種類のSZ eQTL遺伝子 (FURIN, SNAP91, TSNARE1および CLCN3)が協働して、下流の1,261種類の遺伝子の発現を調節(665種類活性化;596種類抑制)し、神経細胞に障害をもたらすことを同定した。
2. [技術特集] CRISPRを超えて:ゲノム編集の今と先
[TECHNOLOGY FEATURE] Beyond CRISPR: What’s current and upcoming in genome editing. Tachibana C. Science 2019-09-27 2:00 PM
  • 細胞内在のDSBからの修復機構に基づくCRISPRと非CRISPR (ZFNs, TALENsおよびメガヌクレアーゼ)によるゲノム編集、および、DSBを介さない塩基編集 (base editing)、エピゲノム編集ならびに部位特異的組み換え (SSB)の特徴と、エフェクターの活性調節、多重化やデリバリーの課題を、アカデミアと企業のインタビューをもとに概観した。
3. Thermus thermophilusタイプIII-A CRISPRシステムは、cOA生合成を介して、DNAスーパーコイルも分解する
[出典] Structure and mechanism of a Type III CRISPR defence DNA nuclease activated by cyclic oligoadenylate. McMahon SA, Zhu W [..] White MF, Gloster TM. bioRxiv. 2019-09-26. > 
Nat Commun. 2020-01-24.
  • タイプIII CRISPRシステムは侵入RNAを認識すると、セカンドメッセンジャーとして機能するサイクリックオリゴアデニル酸(cOA)の生合成を介してCsm6/Csx1リボヌクレアーゼを活性化することで細胞内のRNAを非選択的に分解 (コラテラル分解)することが知られている。
  • U. St Andrewsと英国Diamond Light Sourceの研究グループは今回、Thermus thermophilusのタイプIII-A CRISPRシステムにおいて、cOAで活性化される新たなエフェクタータンパク質、DNAエンドヌクレアーゼCan1 (“CRISPR ancillary nuclease 1”)を発見し、その構造と機能を解析した (Can1の構造: Figure 1引用左下図参照)。
Fig. 1 Fig. 7
  • Can1は、2つのCARFドメインと、2つのDNAヌクレアーゼ様ドメインを帯びた単量体タンパク質である。今回、cA4分子を捕捉した活性状態の分解能1.83ÅのX線結晶構造解析からの構造情報に基づいて、cA4結合に伴うCan1のコンフォメーション変化を経て、スーパーコイル状態のDNAをニッキングするDNAヌクレアーゼ活性が発揮される分子機序モデルを提案した (タイプIII-A CRISPRのコラテラルRNA分解とDNAスーパーコイル分解のモデル: Figure 7引用右上図参照)。
  • Can1のDNAニッキングが、ウイルスDNAの複製フォークを損傷し、ウイルスの複製を抑制するとした。
4. ABEによる作物ゲノム編集:イネの2種類の遺伝子 (Zebra3Wsl5)への次世代に継承される点変異導入を、ABEで実現
[出典] Simultaneous and precise generation of Zebra3 and Wsl5 mutations in rice using CRISPR/Cas9-mediated adenine base editors. Molla KA, Shih J, Yang Y. bioRxiv. 2019-09-26

5. [プロトコル]  CRISPR/Cas9によるコムギ半数体小胞子の遺伝子編集と小胞子培養による倍加半数体コムギ生産
[出典] [PROTOCOL] CRISPR/Cas9-Mediated Targeted Mutagenesis in Wheat Doubled Haploids. Ferrie AMR [..] Kagale S. In: Vaschetto L. (eds) Cereal Genomics. MIMB 2019-09-21.

[出典] Inhibition of Type III CRISPR-Cas Immunity by an Archaeal Virus-Encoded Anti-CRISPR Protein. Bhoobalan-Chitty  Y [..] Peng X. Cell 2019-09-26
  • バクテリアとアーケアのCRISPR-Casシステムに対してバクテリオファージはanti-CRISPRタンパク質 (Acr)で対抗してきた。これまでに、CRISPR-CasシステムのタイプI、II、およびV に対するAcrsが発見されていたところ、2019年9月24日に、University of St Andrewsのグループが、アーケアウイルスやバクテリオファージに広く分布しているタンパク質ファミリーDUF1874がSulfolobus islandicus由来サブタイプIII-Bに対するAcrとして機能することを同定してAcrIII-1と命名し、bioRxivに投稿した (Figure 1/3引用下図参照)。AcrIII-1
  • University of Copenhagenのグループは今回、Sulfolobus virus SIRV2のgp48がSulfolobus islandicusのタイプIII-B CRISPR-Casシステムを阻害することを同定しAcrIIIB1と命名した。その成果が、2019年9月26日にCell誌からオンライン公開された。
  • Sulfolobus islandicus LAL14/1は、サブタイプI-AとI-Dおよび2種類のIII-B (Cmr-αとCmr-γ)および13種類のSIRV-2ゲノムに相応するスペーサを帯びており、サブタイプIII-Bは、crRNAの標的核酸結合を契機とするOsx1のヌクレアーゼ活性によるコラテラルRNA分解を引き起こす特徴を備えている。
  • AcrIIIB1はこのコラテラルRNA分解を阻害するが、Osx1に直接作用して阻害する訳ではない。AcrIIIB1は、Osx1を活性化する二次情報伝達分子cOAの生合成を担うCmr-α/Cmr-γと相互作用することでcOAの生合成を阻害し、ひいては、Osx1を不活性な状態に止めることでサブタイプIIIを特異的に阻害する (Cell ツイート引用下図参照)。
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