[出典] Genome editing retraces the evolution of toxin resistance in the monarch butterfly. Karageorgi M, Groen SC [..] Whiteman NK. Nature. 2019-10-02. [NEWS] CRISPRed flies mimic monarch butterfly and could make you vomit. Berkeley News. Sanders R. 2019-10-02.

 Monarch (帝王)と称され渡りをする蝶として知られているオオカバマダラ (Danaus plexippus)は、そのカルデノリド (強心配糖体毒素)ゆえ「虫も食わない」トウワタを餌とし、その毒素を体内に取り込むことで外敵から身を守り、北米から中米さらには世界各地に広がっている。

 UC Berkeleyを中心とする米独仏の研究グループは今回、CRISPR-Cas9によるHDRを介して、オオカバマダラのナトリウム-カリウムポンプ (Na+/K+-ATPアーゼ)のαサブユニット (ATPα)に独特なアミノ酸 (残基111, 119および122)によって、ショウジョウバエのATPαのアミノ酸を置換する実験を介して、"bang"と呼ばれるてんかん様の副作用を伴うが、ショウジョウバエにトウワタに対する免疫を付与することに成功した。さらに、3種類の塩基置換の順に生物学的意味 (進化的適応)があることを明らかにした。
  • これまでにトウワタやジギタリスのカルデノリドが、ナトリウム-カリウムポンプに結合しこれを阻害することが知られていた。研究グループは今回、程度の違いこそあれカルデノリド耐性を示すオオカバマダラを含む21種類の昆虫の系譜において共通な、ナトリウム-カリウムポンプATPαの細胞外ループにおける残基111, 119および122のアミノ酸変異を追跡した。
  • オオカバマダラを代表とする昆虫のナトリウム-カリウムポンプATPαに特有なこの3種類のアミノ酸によって、ショウジョウバエのATPαのアミノ酸を、各アミノ酸単独、2アミノ酸の組み合わせ全て、ならびに、3アミノ酸ごとに、順を変えて置換し、その作用を分析した。
  • その結果、ショウジョウバエがカルデノリゴに対する免疫を獲得するには3アミノ酸全ての置換が必要であり、また、生存を保証するアミノ酸置換の順が定まっていることを見出した。
  • アミノ酸置換の順とは、カルデノリゴに対する弱い耐性をもたらすアミノ酸置換の後、副作用を補償することになるアミノ酸置換、続いて、カルデノリゴに対する強い耐性をもたらすアミノ酸置換の順であり、2番目のアミノ酸置換を省くと、ショウジョウバエは死に至った。
  • こうして、21種類の昆虫がカルデノリゴに対する免疫を獲得するに至った収斂進化の一端が明らかになった。