[出典] Simultaneous repression of multiple bacterial genes using nonrepetitive extra-long sgRNA arrays. Reis AC, Halper SM [..] Salis HM. Nat Biotechnol. 2019-10-07.

 細胞の表現型を改変するには多くの遺伝子を調節する必要がある。CRISPRiによる転写抑制の際に、多数のsgRNAsを共発現させると、反復配列の存在によって、ゲノムが不安定になりフェノタタイプが失われていく。

 Pennsylvania State Universityの研究チームは今回、繰り返し現れる配列の長さ (maximum shared repeat length)を最小限に抑制する"extra-long sgRNA arrays (ELSAs)を開発し、多重sgRNAsを共発現させることで、dCas9を介して多重遺伝子の転写を同時に抑制可能なことを実証し、ELSAsが真核生物での多重遺伝子の同時転写抑制にも展開可能であることを示唆した。

 研究チームは、生物物理学的モデリング、生化学的特性解析および機械学習に基づいて、プロモーター64種類、sgRNAハンドル 28種類ならびにターミネーター 50種類を開発し、ELSA-Succinate、ELSA-MultiAuxおよびELSA-Stressの3種類を設計し評価した (原論文 Fig. 3参照)。

ELSA-Succinate
  • 6種類の遺伝子(ackA, iclR, poxB, pta, sdhC, sdhD)を標的とする 20 sgRNAsを組み込み、リボソーム結合サイトの改変を介してdCas9の発現を亢進することで、各遺伝子の転写量を65-3,552分の1にまで抑制し、コハク酸の産生量を150倍に増加させた。
  • 6遺伝子を標的とするELSAは、のべ242種類の遺伝子転写にも影響を与えたが、これはオフターゲット作用の結果ではなく、6遺伝子が関与する調節カスケードによることが示唆された。
ELSA-MultiAux
  • 9種類の遺伝子(hisD, proC, lysA, tyrA, aroF, pheA, leuA, ilvD, argH)を標的とする15種類のsgRNAsを組み込み、各遺伝子の転写量を1.6-233分の1までに抑制し、アミノ酸生合成のノックダウンを介して、いずれかのアミノ酸欠損で増幅が抑制される多栄養性株を作出した。
  • ELSA-Succinateと同様にELSA-MutiAuxは60種類の遺伝子の転写に影響を与えた。
ELSA-Stress
  • pH恒常性、クロラムセンシング、ストレス応答および膜生合成に関与する13種類の遺伝子 (adiA, ansP, dgkA, iclR, marR, mreC, narQ, plsB, wzb, ycfS, yncE, yncG and yncH)を対象とする22 sgRNAsを組み込み、9種類の遺伝子について転写量が2-162分の1にまで抑制され、抗生物質耐性が顕著に低下し、"persister cell (休眠状態の細胞)"の形成と生存も抑制された。
  • ELSA-SuccinateやELSA-MultAuxと同様にELSA-Stressは242種類の遺伝子の転写に影響を与えた。