2020-05-08 プライムエディティング (PE)に必要なpegRNA/ngRNAの設計を支援するソフトウエア"PrimeDesign" 登場 (bioRxiv 2020-05-04; crisp_bio 2020-05-08)
2019-10-22 初稿

[出典]

 CRISPR-Cas9に続くBase Editors (CBEとABE)の開発により、疾患の病因となる遺伝的変異を修復するツールボックスが一気に拡大したが、広範な疾患の療法に応用するに十分な精密性と効率、および多用性は未だ課題である。一連のBEsを磨いてきたBroad Inst.のLiuグループは今回、DNAの標的部位に、dsDNA切断と相同修復用ドナーDNAに依存する事なく、設計した遺伝情報を直接書き込む新たなゲノム編集法を開発し、"prime editing"としてNature誌に投稿し、Accelerated Article Previewとして発表されるに至った。

Prime editors (PEs)の4部品と最適化
  1. 触媒活性を失活させたCas9 (H840A)ニッカーゼ (以下、Cas9n)
  2. Cas9nに結合するモロニーマウス白血病ウイルス (M-MLV)由来逆転写酵素 (以下、RT)
  3. RTで転写されて標的配列を置換することになる「テンプレート:設計した遺伝情報をコードしたRNA」を、通常CRISPR-Cas9/Cas9n/dCas9を標的に誘導するsgRNAの3'末端に融合
  4. さらに、「Cas9nにニックされたDNA鎖の5'末端とハイブリダイズする"primer-bingind site (PBS)" 」をテンプレートの3'末端に融合
  3と4を合わせて、prime editing guide RNA (pegRNA) と称した。
  • 研究グループは、RTへの変異導入、Cas9nの編集が及ばないDNA鎖にもCas9nによりニックをいれる[*]など、Prime editor 1 (PE1)からPE2そしてPE3へと最適化を進めた。[* pegRNAに加えて従来のsgRNAを併用;最適なsgRNAはゲノムのコンテクストに依存するため個別に、sgRNAの標的サイトを、pegRNAによってニックが入るサイトから~50 bp離れたところから始めて、indelsの発生率を見ながら試行錯誤で絞り込むことを推奨]。
  • 続いて、pegRNAを介して編集を受けたDNA鎖とマッチするスペーサを帯びたsgRNAを設計する事でindel発生率を0.74%と、PE3からさらに抑制したPE3bに至った。
PE3の実証:基本的には、ヒト疾患の責任変異の~89%を修正可能
(crisp_bio注: 2019-10-23 18:00 行頭のBE3のタイポをPE3に修正)
  • HEK293T細胞における4種類全てのトランジッションと8種類全てのトランスバージョン
  • HEK293T細胞における挿入 (1 bpから ≧ 44 bp)と削除  (1bp ~ ≧ 44 bp 80 bp)
  • 鎌状赤血球症の責任変異 (E6V)をもたらすトランスバージョン (A•T-to-T•A)をBE3によりHEK293T細胞に効率44%で導入し、ホモ型変異HEK293T細胞をBE3によりpegRNA依存で26-52%の効率で修復 (indelsは2.8±0.70%)
  • ライソゾーム病 (Tay-Sachs)で最も高頻度な4-bp挿入変異 (HEXA 1278 + TATC)をPE3によりHEK293T細胞に効率31%で導入した上で、PE3とPE3bにより、挿入変異を削除 (PE3bと最適なpegRNAで削除効率 33%, indels 0.32%)
  • ヒト・プリオン病に対する耐性変異G127VをBE3によるトランバージョン (G•C-to-T•A)を介してPRNPに導入 (効率53 %; indels  1.7%)
  • BE3により、K562細胞とU2OS細胞へのトランスバージョンと6xHisタグ挿入、および、HeLa細胞への3 -bp挿入
  • 分裂終了細胞のモデルとしてE18.5マウス由来の初代皮質ニューロンにて、BE3により、DNMT1遺伝子を蛍光標識 (効率7.1%; Cas9-HDRでの効率は31%)
オフターゲット
  • HEK293T細胞において、Cas9によるオフターゲット編集が高頻度で発生することが知られているHEK3HEK4EMX1およびFANCFの各遺伝子座について、Cas9-sgRNAのオフターゲット編集頻度が16±16%, 60±26%, 48±28%および4.3±5.6%であったのに対して、Cas9n-pegRNAs (16種類のpegRNAsをテスト)では、それぞれ、<0.1%,<2.2±5.2%, <0.1%, and <0.13±0.11%に収まった。
  • PEは、標的DNAとpegRNA内のスペーサとの相補性によるCas9ドメインのDNA鎖への結合、PBSとニック後DNA鎖の結合、そして、RTによるテンプレートの逆転写開始と、Cas9編集よりも'二手間'かかる事で、精度が向上したと考えられる。
BEおよびCas9-HDRとの比較
  • CBEおよびABEと比較し、編集ウインドウ内に複数のシトシンまたはアデニンが存在し、また、オンターゲットでのindelsをミニマルに抑制したい場合はPEを、そうでない場合で標的がPAMが許す領域内の場合は、編集効率が高いCBEまたはABEを推奨する (BEsとPEsは相補的)。
  • 外来ドナーDNAを必要とするCas9-HDRとPE3をHEK293T細胞で比較した場合、Cas9-HDRのオンターゲットでのindels発生率が顕著に高く、また、病因変異の導入と修正の効率はPE3がCas9-HDRの~270倍であった。
  • HeLa、K562およびU2OSでも同様の傾向であったがPE3の編集効率自体はHEK293T細胞より低く出た。
[crisp_bio注]
  1. sgRNAにターゲッティングとテンプレート提供の両機能を持たせるアイデアは、Stanford大学の研究グループが、2018年にCell誌の"CRISPEY"論文で発表している (原論文 Figure 1-A参照 /CRISPRメモ_2018/09/24 CRISPEY:超並列精密ゲノム編集による機能ゲノミクス)
  2. In vivoゲノム編集への利用については、PE3のサイズがかなり大きくなることから、部品を分割して送達するなどの工夫が必要と思われる (PEとCas9-HDRやBEは相補的)。
[関連するニュースなどの記事] 
[crisp_bio 2019-10-23 追記]
 Prime editingは最近発表されたCRISPRツールボックスの中でもひときわ注目を集めた。その中で、「冷静な」指摘も多々されている。一例としてGuoping Fengグループ (McGovern Institute)のポストドクJonathan Wildeのツイートを以下に引用する。上記[cris_bio注]の2点の他、「ヒト疾患の責任変異の~89%を修正可能」がオーバーセリングであること、indelsがゼロではない、などと指摘さしている: 
[crisp_bio 2019-11-12 追記]
 Record-seqを開発したRandall Platt (ETH Zurich)はNature誌のNews & Viewsを"...only time will tell whether it becomes just another tool in the CRISPR toolbox or a cure-all for genetic diseases."の部分を引用しつつツイート
 [crisp_bio] Nature News & Viewsは、PEsの現時点での限界として、PEsが構成する多数の因子およびその組み合わせの作用の検証が必要であることと、サイズがCas9システムのほぼ倍にあたることを指摘した上で、医療に応用するにあたっての課題を最終段落で指摘した:"... For medical applications, however, these issues present a much greater challenge — imperfect DNA edits are unacceptable, and efficient delivery of the prime-editing system to cells will be crucial. So although prime editing certainly has the potential to give us unprecedented control over the blueprint of life, only time will tell whether it becomes just another tool in the CRISPR toolbox or a cure-all for genetic diseases."

2019- 11-27追記:Addgeneのツイート引用