[出典] Extracellular vesicles nanoarray technology: Immobilization of individual extracellular vesicles on nanopatterned polyethylene glycol-lipid conjugate brushes. Yokota S, Kuramochi H, Okubo K, Iwaya A, Tsuchiya S, Ichiki T. PLoS One. 2019-10-24;東京大学大学院工学系研究科プレスリリース 2019-10-29 "単一ナノ粒子計測を可能にするエクソソームアレイチップを世界で初めて開発~エクソソームの個性を調べる新たなプラットフォーム技術~" (crisp_bio注:本記事ではEVナノアレイという表記で統一したが、原論文では技術の多用性の観点からナノアレイ・チップと表記されている)

 細胞外小胞 (Extracellular vesicles, EV)は、由来する細胞の情報を帯びていることから、細胞間のコミュニケーションを担い、ひいては、リキッドバイオブシーのバイオマーカーや治療標的となり得ること、また、CRISPR/Cas9システムなどのキャリアとなり得ることから、その基礎研究と応用研究が急速に進展している [関連crisp_bio記事 1~8 参照]

 細胞外小胞は多様であり、サイズに応じて~35 nmのexomere、60~80 nmのエクソソーム-S (Exo-S)、90~120 nm のExo-Lといった分類が提案され [5]、サイズごとに自動的に分離するLab-on-A-Chip [7]も開発されてきたが、これまでの実験は、EV集団の平均像を捉えるに留まっていた。

 東京大学大学院工学研究科マテリアル工学の研究チームは今回、DNAマイクロアレイ製作技術の高精度化とマイクロ流体デバイスを組み合わせて、個々のEVを基板上のナノスポットに固定することに成功し、原子力間顕微鏡 (AFM)法によりEVの形状を分析することで、EVの由来細胞と、EVの変形能 (deformability)が相関することを示した。

 今回は、由来細胞依存変形能の同定が可能なことを実証したが、このEVナノアレイは、NGS、ELISA、SERS (表面増強ラマン散乱)、MALDI-TOFなどによるシングルEV-マルチオミックスのプラットフォームになり得る。
EVナノアレイの概念 (Fig. 1引用下図参照)1
  • PEG-脂質複合体で修飾したナノスポットを配置したシリコン基板を (上図 A)、マイクロ流体デバイスに組み込み、EVs懸濁液を流し、EVが、抗体を介さずに、PEG-脂質複合体を介してナノスポットに吸着することを期待する。
  • EVナノアレイをマイクロ流体デバイスから脱着したのち、AFMによりナノスポットに固定化されたEVsの形状を測定する (上図B)。
ナノスポットアレイの加工 (Fig. 2引用下図参照)2
  • 電子線リソグラフィー (Advantest F7000S-VD03システムを利用)を介してシリコン基板表面の二酸化ケイ素の層の上にナノスポットを形成し、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を介してPEG-脂質で修飾する (上図A/D参照)。
  • ナノスポットの径、アレイのピッチそして密度はそれぞれ、200 nm、200 nmそして5.0 × 10,000 spots/mm2であり、ナノスポットへのEVsの付着は~100 nmの精度に及ぶ。
実証実験 (Fig. 3引用下図参照)3
  • ヒト乳がん細胞株 (Sk-Br-3)と、ヒト胎児腎細胞 (HEK293)由来のEVsを対象として、AFM画像から測定したアスペクト比 (aspect ration, AR)と直径 (d)から、ナノスポットの吸着前のEVsの直径Dを推定し、2種類の細胞の間で、Dの分布に有意差があることを見出した (上図 C/E参照)。
  • ナノスポット上での直径と高さがともに30 nmと7 nmを超える対象をEVsとして扱い、EVアレイの~20%に、EVsが吸着していることを見出した。
  • また、今回の直径 200 nmのナノスポットには、比較的小型のEVs (~ 30 nm ~ exomere)が選択的に吸着される傾向が見られ、今後、EVs懸濁液の流量、ナノスポットのサイズなどの実験条件と、検出ナノスポットのサイズおよび特性との相関関係の分析を進める必要がある。
[関連crisp_bio記事] 
1. CRISPRメモ_2018/03/08 [第2項] 細胞外小胞を利用したCRISPR-Cas9/sgRNAの新たな送達手段
6. CRISPRメモ_2018/02/07-2 [第9項] エクソソーム - リポソームのハイブリッド・ナノ粒子で、CRISPR/Cas9システムを間葉系幹細胞(MSCs)に導入